第36話:あの頃と変わらない気持ち
話し合いが終わると、足早に屋敷を後にした伯父様。
「それでは私もそろそろ家に帰りますわ。明日また来ますね」
「マリー、今日は家まで送るよ。なんだか君が心配なんだ。今日はあまりにも衝撃的な事が沢山あったからね」
そう言うと、いつもの使用人たちを乗せる馬車ではない別の馬車に乗せられ、家路を目指す。
「マリー、本当にいいのかい?僕と共に王都に戻る事、後悔していないかい?」
心配そうにエドワード様が問いかけて来た。
「既に覚悟は出来ておりますわ。それに何よりも、母が必死に残してくれた証拠の品々を、無駄にしたくはないのです。きっと母は、あなた様と奥様を王家に戻す事を目標にしていたと思いますし。ですから、母が成し遂げられなかった事を、なんとしてでも成し遂げたいのです」
「マリーは本当に強いね。9年もの間、虐げられた場所に戻る決心を付けるだなんて。ねえ、マリー、少しだけ寄り道をしてもいいかな?」
「ええ、構いませんわ」
一体どこに向かうのだろう。そう思っていると、再び屋敷に引き返していった。そして屋敷の裏にある、丘へと向かう。
「マリー、見てごらん。星がとても綺麗だろう?」
そう言って空を見上げるエドワード様。空の上には、満点の星空が。
「これは凄いですわ。この地に来てずいぶん経つのに、こんなにも美しい星空があるだなんて知りませんでした」
「僕はね、ここに来たばかりの頃、マリーに会いたくてよく星空を見上げていたんだ。空は王都に繋がっているだろう?だからもしかしたら、マリーも僕と同じ星を見ているのではないか、なんて考えていたんだ。あの時の僕にとって、マリーは全てだったから…」
「私も、あの後少しずつ昔の記憶が戻りましたの。私もエドワード様がお引越ししてしばらくは、キャスを抱きしめてよく泣いておりましたわ。私にとってエドワード様…いいえ、エドお兄ちゃんは、大好きな人でしたから…今だから言えますが、私にとってエドお兄ちゃんは、初恋の人でしたので…」
「初恋の人か…そんな風に思ってくれていただなんて、嬉しいな。僕もあの頃から、ずっとマリーが大好きだった。知っているかい?僕たち、結婚の約束をしていたのだよ」
そう言って笑ったエドワード様。
「何となく覚えておりますわ。私も“大きくなったらエドお兄ちゃんと結婚する”と、お母様に何度も言っておりましたので…それにしても不思議ですわね。あれほどまでにすっぽり忘れていた記憶が、こんな風に思い出せるだなんて」
「ねえ、マリー。僕たちがこうやって再会できたのは、奇跡的な事だと思う。でも…僕はこの奇跡を運命だと思っているんだ。そう、僕たちが再会したのは、偶然ではなく必然だったのだと」
そう言うと、まっすぐ私を見つめるエドワード様。
「マリー、もしも僕が再び王宮に戻り、王太子になれたとしたら、その時は僕の妻として、僕を支えてくれるかい?僕は今でも、君の事を誰よりも愛している。どうかこれからも、ずっと僕の傍にいて欲しい」
そう伝えてくれたエドワード様は、昔の優しかったエドお兄ちゃんの姿、そのものだった。
「私もあの頃と同じく、あなた様を愛しておりますわ。あの頃と全く変わらない、優しくて私の事を一番に考えてくれるエドワード様を」
一度は私の記憶から消えてしまっていたエドワード様。それでも私は、エドワード様と過ごすうちに、自然と彼に惹かれていった。たとえ今回、エドワード様の事を思い出せなかったとしても、彼を再び好きになっていただろう。
それくらいエドワード様は、魅力的な男性なのだ。
「ありがとう、マリー。まさか初恋が実るだなんて思わなかった。君がルイード殿下と婚約したと聞かされた時は、地獄に叩き落されたような絶望を味わった。それでもマリーは再び、僕の元に戻って来て、僕の気持ちを受け入れてくれた。それが本当に嬉しくて…」
ポロポロと涙を流すエドワード様、こんな風にエドワード様が涙を流す姿を初めて見た。引越しの時ですら、泣いていなかったのに…
「私も、まさか初恋が実るだなんて思いませんでしたわ。エドワード様、もし万が一、今回の作戦が失敗したとしても、私はずっとあなた様の傍にいますわ。ずっとずっと一緒です」
もう二度とエドワード様から離れたくはない。たとえどんな未来が待っていたとしても、彼となら受け入れられる気がする。
「僕だって、二度とマリーと離れたくはない。その為にも、必ず僕は王太子の座を手に入れて見せる。マリー、僕たちの手でこの国を、もっとより良いものにしていこう。今回の戦いは絶対に負けられないね」
そう言ってエドワード様が笑った。この国を共に支えて行くか…そもそも王族には、無駄な書類仕事が多すぎる。もしも私が王妃になったら、無駄な作業を徹底的に削減していこう。そうすれば、他の貴族への負担も軽減できるし、その分民たちにも目を向けられる。
なぜだろう、エドワード様と共に国を支えて行こうと決意した途端、色々とやりたい事が出てきた。ルイード殿下と婚約していた時は、とにかく目の前にある業務をこなすことで精いっぱいだったのに…
「マリー、何を考えているのだい?君は本当に分かりやすいね。ただ、嬉しそうな顔をしていたから、王妃になった時の事でも考えていたのかい?」
「さすがエドワード様、はい、王妃になった暁には、無駄な書類仕事を削減し、王族や貴族の負担を減らそうと考えております。そして、その分民たちに目を向け、よりより国を作っていけたらと。それから、貿易にも力を入れて、より豊かな国にしたいですわ。この国には、沢山の資源がありますので、それを活用しないのは勿体ないです」
「さすがマリーだ、既に未来を見据えているのだね。マリー、君となら素敵な国が作れそうな気がするよ。マリー、大好きだよ。もう二度と離さない」
「私も、もう二度と離れませんわ」
どちらともなくゆっくりと近づき、そして唇が重なった。何度も何度も唇を重ねる2人。13年以上にも及ぶ長い初恋が、やっと実った瞬間だった。




