第34話:お母様が私に託した思い
今なんて言った?蓋が開くですって?
「伯父様、蓋が開くとは…」
「だから、そのブローチは蓋が開くんだよ。マリオネットから教えてもらわなかったのかい?」
蓋が開く?そう言えば…
“マリー、私にもしもの事があったら、このブローチとネックレスをお父様に取られない様に隠しなさい。それからこのブローチとネックレスは蓋が開くようになっているの。ブローチにはオルゴールの土台の箱部分の鍵が、ネックレスにはオルゴールの中に入った小さな箱を開ける鍵が入っているから。いい、この事を絶対に忘れないでね。私の可愛いマリー”
「そうだわ…今全て思い出しました。このブローチの中には、オルゴールの鍵が…そしてネックレスの中には、オルゴールの中にある箱の鍵が入っていると、お母様が亡くなる少し前に言われていたことを…」
どうしてこんな大切な事を、今まで忘れていたのだろう…お母様は、間違いなく私に託してくれていたのに…それなのに私…
「マリー、大丈夫かい?とにかく、ブローチの中を開けてみよう」
動揺する私の肩を抱き、エドワード様が優しく語り掛けてきてくれる。そうだわ、ブローチ!
急いでブローチを胸から外す。でも、これはどうやって開けるのかしら?四苦八苦していると
「マリー、このブローチはね、こうやってスライドさせるんだよ。貸してごらん」
伯父様にブローチを渡すと、器用にスライドさせた。するとそこには、小さな鍵が入っていた。
「この鍵が、オルゴールの鍵ですのね」
すぐにオルゴールを取り出し、鍵穴に差し込む。すると
ガチャリという音が。
ゆっくりと蓋を開けると、そこには手紙が入っていた。さらに小さな箱も。
早速手紙を開ける。
そこにはお母様の字で、私に宛てた手紙が書かれていた。幼い私を残して逝ってしまった事への謝罪、シャラティア公爵家にいてはとても危険だという事。その為、お母様の友人でもある、アンリ様(奥様)の元に身をよせる事。奥様はレックスィンの街にいるという事。
そしてその奥様にオルゴールに入っていた小さな箱と、その箱を開ける鍵を託すこと。絶対にお父様に知られずに、屋敷を出る事。などが書かれていた。
さらにレックスィンまでの道のりや泊まるホテルの情報、お金を汽車の駅のロッカーに預けてあるため、その鍵も一緒に手紙に同封されていた。
最後に
“幼いあなたに、過酷な旅をさせてしまってごめんなさい。でも、公爵令嬢のあなたを匿える場所と言えば、彼女たちのいる所しかないという事を、どうか分かってください。絶対に、何があってもルイード殿下と婚約をしてはダメよ。彼との婚約を避けるためにも、出来るだけ早めにアンリ様の場所に避難してください。私のたった1人の可愛い娘、マリー、どうか幸せになって。あなたの幸せだけを、願っています。 母より”
そう書かれていた。
お母様は、自分が殺されることを分かっていて、私の未来を案じ、私の為に色々と準備してくれていたのね。こんなに細かい地図まで作って…きっと私が、1週間の長旅で少しでも困らない様に、必死に作ってくれたのだろう。
「お母様…」
気が付くと、涙が次から次へと溢れ出ていた。
「マリー、大丈夫かい?9年もの時を超え、やっとマリーの元に夫人の思いが届いたね」
私の頬を伝う涙をぬぐいながら、エドワード様が優しく呟く。
「はい、やはり母は、私の事を考えてくれていた様です。それなのに私は、最後に母に言われていた大切な言葉を、すっかり忘れてしまっていて…きっと天国の母も、ため息を付いている事でしょうね」
「そんな事はないよ。きっと夫人は今頃、手紙を読んでくれて喜んでいるよ。それに結果的に、君はこの地に来たのだから」
「そうよ、マリーちゃん、あなたはマリオネット様の思いに、しっかり答えたのよ。少し時間はかかってしまったかもしれないけれどね」
そう言って奥様も優しく微笑んでくれる。随分と時間はかかってしまったが、お母様の思いを知る事が出来た。
「それよりもマリー、どうしてマリオネットは君に、ルイード殿下とは婚約をしてはダメだと言ったんだろう」
お母様が私に宛てた手紙に目を通していた伯父様が、そんな事を呟いた。
「それは、いずれエドワード様が王位を継ぐためではございませんか?」
「…いいや、そんな理由でわざわざマリオネットはこんな事を書かないと思うよ。きっと何か理由があるはずだ」
そう言って顎に手を当てて考えている伯父様。
それよりも、私はやらなければいけない事があるわ。
「奥様、お渡しするのが遅くなって申し訳ございませんでした。母から預かった箱です。それから…」
胸にぶら下がっているネックレスを取り、先ほどと同じくスライドさせ鍵を取り出す。そして鍵と一緒に箱を渡した。
「ありがとう、マリーちゃん。この箱には一体何がはいっているのかしら?」




