第25話:僕はただ寂しかっただけなのに~ルイード視点~
「マリーがいなくなってから、もう3ヶ月も経っているのに、どうしてまだ見つからないんだ。彼女は僕の婚約者で、公爵令嬢なのだよ。それなのに、どうして!」
「殿下、申し上げにくいのですが、マリー様はもうあなた様の婚約者ではございません。婚約破棄をなさったのはあなたでしょう。それにシャラティア公爵は、あろう事からマリー様を勘当されました。既に公爵令嬢ではないマリー様を、大々的に捜査をする事は出来ません。それよりも、この山の様にたまった書類の確認をお願いします!公務が滞っているせいで、他の貴族たちが騒ぎ始めております。マリー様がいなくなった今、あなた様にやって頂かないと困りますよ」
そう言うと、部屋から出ていく執事。どうしてこんな事になってしまったのだろう…
僕はただ、マリーにもっと構って欲しかっただけなのに…
金色の美しい髪に、大きな青色の瞳をした、笑顔の可愛らしい子だったマリー。僕はそんなマリーが大好きだった。ただ、年齢を重ねるにつれ、僕との時間が減っていった。それが寂しくて、僕にもっと構ってほしくて、それで僕にたまたま近づいて来たカリアナと仲良くなったのだ。
僕がカリアナと仲良くすれば、きっとマリーもカリアナに嫉妬して、僕に構ってくれる。そう思っていた。でも、彼女は気にするどころか、毎日疲れた顔をして僕に見向きもしてくれない。
どうしてマリーは僕に構ってくれないのだろう。こんなに僕は、マリーを愛しているのに。そんな思いから、思い切って婚約破棄を提案したのだ。きっとマリーは、今まで僕に構ってこなかった事を後悔し、僕に泣いて婚約破棄をしないでくれと縋ってくるだろう。そう思っていた。
でも…
マリーは泣いて縋るどころか、清々しい顔をして、“婚約破棄を承知しました”と言い、部屋から出て行ったのだ。
その瞬間、血の気が引いた思いをした。僕は本当に婚約破棄をしたかったわけではないのに…ただ母上が
「何なのあの生意気な子は!あんな子、私の可愛いルイードと結婚なんてさせられないわ。すぐに婚約破棄を!」
そう言って話を進めようとした。もちろん、マリーの父親の公爵は必死に止めようとしたが、父上までもが
「マリー嬢は今まで本当に苦労してきたから、そろそろ解放してあげよう…」
と、訳の分からない事を呟いて、婚約破棄に承諾してしまったのだ。その結果、僕たちの婚約破棄が成立してしまった。
どうしてこんな事に…
放心状態の僕に
「殿下、どうかもう一度チャンスを。娘にはきつく言い聞かせますので!」
そう訴えてくるシャラティア公爵。マリーの父でもある公爵がそう言っているのだから、きっと大丈夫だろう。そう思っていたのだが…
翌日
「殿下、公務の書類の処理をお願いします。今までマリー様が全ておひとりで行っておりましたが、婚約破棄した今、あなた様がご自分で行ってください」
そう言って、朝から山の様な書類を持ってきた執事。こんな量、こなせる訳がない。
「何だこの量は。こんなに出来る訳がないだろう!」
「でも、マリー様は毎日こなされていましたよ。あなた様の代わりに。マリー様はあなた様の仕事だけでなく、王妃様の仕事までも押し付けられ、ほとんど寝ずに毎日作業を行っていたのです。ここにある書類は、マリー様が毎日処理されていた書類の半分もありませんよ」
そう言って笑顔を向ける執事。仕方なく書類のチェックを行うが、量が多すぎてとても終わらない。マリーはこの倍の量を1人でやっていただなんて…
必死に公務をこなす。しばらくすると、公爵がやって来た。でも、なぜか1人だ。
「公爵、マリーはどうしたのだい?どうして1人なのだい?」
公爵に話しかけたのだが、なぜか気まずそうな顔をしている。
「あの…実は昨日、マリーがあまりにも生意気な事を申しましたので、その…勘当して家を追い出したのです。でも、今朝には泣いて帰ってくると思ったのですが…マリーが帰ってこなくて…それで…」
何だって?勘当しただって?この男はバカなのか?
「なんでそんなバカな事をしたんだ。そんな事をしたら、もうマリーは戻って来ないかもしれないじゃないか!」
「殿下、大丈夫です。マリーは腐っても公爵令嬢、1人で生きていく事なんて出来ません。そのうち帰ってくるでしょう」
そんな呑気な事を言っている公爵。とにかくマリーが戻ってくるまでは、この膨大な書類を自分でやるしかない。
でも、もちろん終わる事はない。今までマリーが全ていやっていてくれたから、僕は好きな事が出来たのに…
毎日朝から晩まで書類を片付けていくが、全く終わらない。
「どうです?殿下。マリー様はずっとこの量の倍の書類を1人で片づけていたのです。さらに、他にも王妃教育や王妃様からの言いつけなども、こなしておりました。あなた様はマリー様がいつも構ってくれないと嘆いておられましたけれど、マリー様はあなた様に構う暇もないほど、働かされていたのです。それなのにあなた様は…」
はぁ~っとため息を付く執事。そもそも、母上までもがマリーに公務を押し付けていたこと自体がおかしいんだ。そうだ、母上のせいだ!




