第22話:大切な事を忘れている様な気がします
カフェにつくと、2人並んで座った。
「私はいつもの苺がたっぷり乗ったパンケーキにしますわ。エド様はどうなさいますか?」
私は子供の頃から、苺が大好きなのだ。
「それじゃあ僕は、苺がたくさん乗ったタルトにするよ」
苺タルトか、あれも美味しいのよね。
しばらく待っていると、苺がたくさん乗ったパンケーキとタルトが運ばれてきた。早速一口。美味しいわ、そうそう、この味よ。
王都にいた時は太るからと言って、甘いものをほとんど食べさせてもらえなかった。でも、継母や王妃様はしょっちゅう甘いお菓子を食べていたのに…よく考えたらあの人たち、きっと意地悪で私に食べさせなかったのよね。
本当に嫌な人たちだったわ。て、嫌な事を思い出してしまった…
気を取り直して、パンケーキを頬張る。あぁ、幸せ…
気が付くとあっという間にパンケーキを食べ終わってしまった。目の前には、まだほとんど残っているエド様の苺のタルトが。なんて美味しそうなのかしら…
つい見つめてしまう。すると
「マリアナ、そんなに苺のタルトが好きなのかい?それじゃあ、僕のをあげるよ」
そう言って私に苺のタルトを差し出したエド様。
「さすがに頂く訳にはいきませんわ。だってこのタルトは、エド様のタルトなのですもの」
「いいんだよ、僕は君が嬉しそうに頬張る姿を見るのが好きなんだ」
そう言って優しくエド様がほほ笑む。その瞬間
“え~ん、もっといちごたべたい!”
“それなら僕のをあげるよ。僕はマリーが喜ぶ顔が見たいんだ”
子供の頃の記憶が蘇った。確かに私は、子供の頃誰かによく苺をもらっていた。でも、一体誰だったかしら?そもそも、なぜこのタイミングで、こんな記憶が蘇るの?
「マリアナ、どうしたんだい?」
心配そうにエド様が私の顔を覗き込んでくる。
「いいえ、何でもありませんわ。それでしたら、半分こしましょう」
私ったらまた固まってしまったわ。しっかりしないと!気を取り直して、エド様から頂いたタルトを半分に切り分け、2人で美味しく頂いた。
食後はまたエド様と手を繋いで、一緒に街を見ていく。街には色々なものが売っている。せっかくなので、2人でお揃いのブレスレットを買った。
さすがにメイドと主人が同じブレスレットを買うのはどうかと思ったが、エド様が今日の記念にどうしてもとおっしゃるので、お揃いで買って付ける事にしたのだ。
「これは僕の宝物にするよ」
そう言って嬉しそうにブレスレットを見つめるエド様を見ていたら、購入してよかったと心底思った。
「さあ、そろそろお屋敷に戻りましょう。あまり遅くなると、奥様も心配なさるでしょうし」
「そうだね、でも、最後に海にだけ寄ってもいいかな?」
「ええ、もちろんですわ」
エド様の提案で、海に行く事になった。
「まあ、海が夕日で赤く染まっておりますわ。いつもの真っ青な海も綺麗ですが、夕暮れ時の海もまた綺麗ですわね」
「本当だね。僕はね、この夕暮れ時の海が好きなんだ。昼間は人でにぎわっている海も、夕方にはほとんど人もいないだろう。僕はこの静かな海をみると、心が落ち着くんだよ」
確かに静かな海もまた、素敵だ。
「マリアナ、この街に来てくれてありがとう。君がこの街に来てくれたお陰で、僕は今、穏やかに暮らせている。全て君のお陰だよ」
そう言うと、なぜか切なそうに微笑むエド様。どうしてそんな顔をするのだろう…彼を見ていると、なんだか胸が締め付けられる。
それと同時に、私は何か大切な事を忘れている様な気がしてならないのだ。今朝の夢といい、カフェの時といい、どうしてこうも昔の事を思い出すのだろう…
その時だった。
「キャンキャンキャン」
この声は!
「ジャミン様!」
私たちの元に嬉しそうに走ってくるのは、なんとジャミン様だ。どうしてジャミン様がここにいるのだろう。今日はジャミン様はお留守番のはずだが…
ジャミン様を抱きかかえる。すると、尻尾をブンブン振って私の顔を舐めるジャミン様。やっぱり可愛いわ。
「エドワード、マリアナちゃん!」
向こうの方からゆっくり歩いてくるのは、奥様だ。後ろにはメイド長もいる。
「母上、一体どういう事ですか?」
私たちの元にやって来た奥様に、エド様がすかさず文句を言っている。
「ごめんね、ジャミンがどうしてもあなた達の元に行きたいって暴れるから」
「またジャミンのせいにして。母上が様子を見たかっただけでしょう」
「まあ、人聞きが悪いのだから!本当にジャミンがあなた達に会いたがっていたのよ」
そう言って奥様が抗議している。
「ジャミン様、私たちを迎えに来てくださったのですね。奥様も、ありがとうございます。エド様、そろそろ日も暮れますし、帰りましょう」
不満そうな顔のエド様にジャミン様を託し、そのまま馬車の方へと戻ってきた。
「さあ、奥様、それにエド様もどうぞお乗りください」
奥様とジャミン様を抱っこしたエド様を馬車に乗せようとした時だった。奥様とエド様、さらにジャミン様がこちらを見た瞬間
”エドおにいちゃん、このこ、たいせつにしてね“
その言葉が急に脳裏をよぎったのだ。
「エド…お兄ちゃん…」




