第20話:ルーマさんは私の第二のお母様です
“…ドおにいちゃん…とおくにいっちゃうのね…”
“またすぐに戻ってくるよ、だから泣かないで、マリー”
…ドおにいちゃん…聞いたことがある名前、またすぐに戻ってくる?
いつもの時間にぱちりと目を覚ます。今のは夢?なんだかとても懐かしい夢を見ていた気がするわ。そう、ずいぶん昔の出来事のような…なんだったかしら?全く思い出せない…
「おはよう、マリアナちゃん。メイド長の話だと、随分と屋敷のお坊ちゃんに好かれているそうじゃないか。さすがマリアナちゃんだ。今日はそのお坊ちゃんと街に出るのだろう。せっかくのデートだからと、娘たちが張り切っていてね。悪いのだけれど、我が家に来てもらってもいいだろうか?」
「おはようございます、ルーマさん。まあ、ルリアさんとルルミさんが。でも、別にデートなんかでは…」
「ほら、ブツブツ言っていないで、早く」
ルーマさんに連れられ、本宅へとやって来た。すると
「待っていたのよ、マリアナちゃん。今日はとびっきりおしゃれをしましょう。まさかあのお金持ちのお坊ちゃんに見初められるだなんて。さすがマリアナちゃんだわ」
「別に見初められていません。そもそも、お坊ちゃまがあまり街に出た事がないとおっしゃるので、私が成り行きで案内する事になったのです」
先日、この前の休みにルリアさんたちと街に買い物に行って、カフェでお茶をした話をお坊ちゃまにしたら、自分も行きたいと言い出したのだ。それで急遽、今日お坊ちゃまを連れて街に出る事になった。
「どんな理由であれ、デートはデートでしょう。あのお屋敷のお坊ちゃん、神的に美しいと聞いたことがあるわ。今日は私達も、様子を見に行く予定だから、よろしくね」
そう言って、ルリアさんとルルミさんがウインクをしている。
「2人ともおよしよ!盗み見だなんて、行儀が悪いよ。ごめんね、マリアナちゃん、この子たちがデートの邪魔をしない様にちゃんと言い聞かせておくから」
もう、だからデートじゃないのだってば!そう何度も伝えているのだが、なぜか私の話なんて全く聞いていない3人。ただ、盛り上がっている間も、ルリアさんとルルミさんが手分けして私に化粧を施し、可愛らしいワンピースまで着せてくれたのだ。
「やっぱりマリアナちゃんは可愛いわね」
「本当に、どこかのお姫様みたい」
「これでお坊ちゃんも完全ノックアウトだね。さすがマリアナちゃんだ」
3人が満足そうにそう呟いている。それにしてもこの人たち、私の事を褒めすぎなのだ。こんなに褒めてくれると、なんだか本当に自分が可愛いと錯覚してしまう。
「こんなに素敵にして頂き、ありがとうございます。それではそろそろ行って参りますわ」
3人に頭を下げて、家から出る。ちょうどそのタイミングで、屋敷の馬車がやって来た。
「おはよう、マリアナさん。今日のあなた、とても可愛いわよ。今日はお坊ちゃまとデートですものね」
「もう、メイド長まで変な事を言わないで下さい!」
「メイド長、マリアナちゃんの事、よろしく頼んだわよ。それよりも、お坊ちゃんという人は、誠実な人なんだよね?もし変な人だったら…」
「もちろん、誠実で素敵な人だよ。もう、ルーマはマリアナさんの事になると、さらに口うるさくなるのだから…」
「そりゃそうだよ、この子はもう、私の娘みたいなものなのだから。娘を泣かすようなお事では困るからね」
そう言って笑っているルーマさん。私の事を娘だと思ってくれているだなんて、薄々は感じていたが、面と向かって言われるとやっぱり嬉しい。
「ルーマさん、私もルーマさんの事を第二のお母様だと思っておりますわ。もちろん、ルリアさんとルルミさんの事も、お姉様だと思っております」
「なんて嬉しい事を言ってくれるんだい!やっぱりお坊ちゃんがまともな人かどうか、この目で確認する必要がありそうだね。私も今日は屋敷に行くよ」
「それなら、私たちも!」
3人がすかさず馬車に乗り込もうとしたのだが…
「定員オーバーだよ。本当にもう!さあ、マリアナさん、行きましょう」
ルーマさんとルリアさん、ルルミさんを押しのけると、急いで私を馬車に乗せたメイド長。
「ちょっと、何をするんだい!全く!マリアナちゃん、今日は楽しんでくるんだよ。もしろくでもない男だったら、私が締め上げてあげるから」
「ルーマさん、ありがとうございます。でもお坊ちゃまはとても紳士的で、素敵な男性ですわ。それでは行ってきます」
馬車に乗り込み、イスに座る。窓から外を見ると、3人が笑顔で手を振っていてくれたので、私も振り返した。
「本当にルーマは心配性で嫌になるよ。マリアナさんも大変ね」
メイド長が苦笑いしている。でも私は、いつも私の事を考えてくれているルーマさんとその家族の事が大好きなのだ。




