第19話:平和な日々に感謝です
お坊ちゃまの専属メイドになって早1ヶ月。ジャミン様はもちろん、お坊ちゃまとも随分と仲良くなった。ただ…
「ジャミン様、お坊ちゃま、そろそろお昼ご飯の時間です。どうかお戻りください」
「わかったよ。今日も一緒に食べようね、マリアナ」
嬉しそうに私の手を握り、中庭から戻るお坊ちゃま。ジャミン様も嬉しそうに付いてくる。そう、なぜかメイドの私をメイド扱いしてくれないのだ。
食事は一緒に食べるし、どこか移動するときは私の手を握り移動するし。まるで家族の様な扱いを受けているのだ。
メイド長に相談しても“お坊ちゃまはマリアナさんの事を、本当に家族の様に思っているのでしょう。この地に来てから同じ歳くらいの人と触れ合う事もなかったので、嬉しいのです。どうかお坊ちゃまの我が儘を聞いてあげて下さい”と言われてしまった。
「ねえ、マリアナ、そろそろ僕の事をエドワードと呼んでくれないかい?そうだ、エドでもいいよ」
ニコニコしながらそんな事を言っているお坊ちゃま。本当にこの人は…
「何度も申し上げておりますが、私はメイドです!ですから…」
「それにしてもお腹空いたね。今日のお昼ご飯は何かな?マリアナが一緒に食べてくれる様になってから、特に食事が美味しくてね」
お坊ちゃまがそう言ってほほ笑んでいる。そんな顔をされたら、これ以上何も言えないじゃない。
「確かにこのお屋敷のお食事は美味しいですわね。料理長の腕は天下一品ですわ。さあ、奥様もきっとお待ちですわ。急ぎましょう」
ジャミン様を一旦お部屋にお連れしてから、私たちは食堂へと向かう。やはり今日も奥様が先にきて待っていてくれていた。
「お待たせして申し訳ございません。奥様」
「そんなに改まらなくていいのよ。マリアナちゃん。さあ、冷めないうちに頂きましょう。そうそう、今日はね、料理長が珍しいお料理を作ってくれたのよ」
「まあ、このお料理は…もしかして、オマールエビを使ったキッシュですか?懐かしいですわ、このお料理、母がよく好んで食べていたのです」
ここに来てから、よくお母様との思い出のお料理を頂く事が多い気がする。きっとたまたまだと思うが…
「そうなのだね。奇遇だな、僕もこのキッシュが大好きなんだよ。子供の頃からね。そうそう、この料理は、ある女性に食べさせてもらってから、大好きになったんだよ」
そう言ってお坊ちゃまが笑っている。
「そうだったのですね…このお料理はあまり有名ではない様で、母が亡くなってから一度も我が家では食卓に並ぶことはありませんでした。まさかここで頂けるだなんて。そう言えば先日奥様が出してくださったお茶も、母が好きでよく飲んでいたものですわ。どうやら夫人やお坊ちゃまの好みと、母の好みはよく似ているのですね」
あまり思い出すことがなかったお母様の事を思い出して、心が温かい気持ちに包まれた。お母様が生きていたころは、本当に毎日が幸せだった。あの頃は…あの頃は…なんだろう、大切な事を忘れているような気がする。
「マリアナ、どうしたのだい?」
心配そうにお坊ちゃまが私の顔を覗き込んできた。
「いいえ、何でもありませんわ。このキッシュ、とても美味しいです。本当に懐かしい味です」
昼食が終わると、お坊ちゃまが稽古に励まれている間に、本来の私の仕事でもあるメイドの仕事をこなす。
「マリアナちゃん、そんなに一生懸命やらなくてもいいのよ。あなたはお坊ちゃまと奥様の相手をしてくれているのだから。特にお坊ちゃまはあなたが来てから、随分と明るくなられたのよ。本当に、マリアナちゃんのお陰ね」
そう言って笑っている先輩メイドたち。
「ほら、そろそろお坊ちゃまが稽古から戻られる時間よ。早く行ってあげて。あなたがいないと、お坊ちゃま、機嫌が悪くなるのよ」
そう言って皆が笑っている。確かに機嫌が悪くなるのよね、本当に子供っぽいところがあるのだから。つい笑みがこぼれる。急いでお坊ちゃまの部屋に戻ると、ジャミン様が嬉しそうに飛んできた。
本当にジャミン様は可愛いわね。ジャミン様と遊んでいると
「マリアナ、戻っていたのだね。でも、少し戻ってくるのが遅いのではないかい?」
湯あみをしていた様で、上半身裸で出て来たお坊ちゃま。華奢な体をしていらっしゃると思っていたが、かなり筋力がつていて、ガッチリしているしお腹は割れている…て、何を私は考えているのかしら?
「お坊ちゃま、服を着てから出て来てください!」
急いで背を向ける。
「ごめんごめん、もしかして僕の事、男として意識してくれている?」
私の耳元で、そんな事を呟くお坊ちゃま。
「わ…私をからかうのはやめて下さい。とにかく、一旦部屋から出て行きますので」
そう言って出て行こうとしたのだが…
「待って、ほら、もう服を着たから大丈夫だよ。さあ、お茶にしよう。今日はね、君のお母さんが好きだと言っていたお菓子を、母上から分けてもらったんだ。あれは王都でしか売っていないお菓子らしいね。さあ、食べよう」
そう言ってお菓子を準備してくれたお坊ちゃま…て、お菓子とお茶を出すのは私の仕事なんだってば!
でも…
こうやって誰かとお茶が出来、たわいもない話しが出来るのは本当に幸せな事だ。それにお坊ちゃまと話していると、なんだか懐かしい気持ちになるのだ。なんだかずっと昔から知っている様な、そんな気持ちになる。
この日もお坊ちゃまと、楽しいティータイムを満喫したのだった。




