第18話:やっぱり彼女はマリーだ~エドワード視点~
マリアナが僕の屋敷で働きだしてから、時間を見つけてはこっそりとマリアナの様子を伺った。あんなに朝から晩まで動き回って大丈夫なのか?疲れないのかな?
心配になりリースに話したが
「マリアナさんは本当に働き者で、進んで動いてくれるから助かっていますのよ。まあ、若いし大丈夫でしょう」
なんて呑気な事も言っている。ちなみにマリアナは、役所に勤めているルーマさんという方の家を貸してもらい、色々な面でお世話になっているとの事。それとなくリースからルーマさんに、マリアナの様子を伺ってもらったが、彼女の娘や嫁たちとも仲良くしている様で、プライベートでも楽しく過ごしているらしい。
ただ、マリアナは美しいため、男どもが群がらない様に皆で守っているらしい。彼女は相当苦労していた様で、ルーマさんという方も、かなりマリアナを気にかけてくれているらしい。
“一緒に食事をすればとても喜ぶし、娘たちと買い物に行けば目を輝かせてお店を見ているらしいし、あの子は本当に当たり前の幸せを親から与えられてこなかったみたいで…”
そう言って泣いていたらしい。
ただ、かなり頭は良く、当面の生活費もしっかり準備している様で、年齢以上にしっかりしているのではないか、とも言っていたらしい。
とにかく、マリアナは今まで、辛い日々を送っていた事だけは理解できた。毎日マリアナを観察していてわかったのだが、彼女はちょっとしたことでも喜びを感じる様で、良く笑っている。
その笑顔は、昔僕に向けてくれていたマリーの笑顔そのものだった。やっぱり、どう考えてもマリアナがマリーに違いない。
僕は確信しているのに、母上はどうしてもマリーがこの地にいる事が信じられない様で、侯爵たちからの返答を待ちましょう!と呑気な事を言っているのだ。
でも、いつまでたっても侯爵たちからの報告はない。1人ヤキモキしている間に、マリアナが屋敷で働きだしてから2ヶ月が過ぎていた。
今日はジャミンの機嫌が悪く、キャンキャン鳴くので、お昼過ぎに散歩に連れて行く事にした。散歩に連れ出した途端、嬉しそうに中庭を走り回るジャミン。
「ジャミン、どこに行くのだ?」
急いで追いかけると、そこには涙を流しながらジャミンを抱きしめているマリアナの姿が。そんなマリアナの顔をジャミンが舐めている。ジャミンが僕や母上以外の人間にあんな風に懐くだなんて。やっぱり彼女は、マリーなんだ。ジャミンはマリーが大切に育てていた犬の子孫なのだから…
でも、どうして泣いているのだろう…そう思っていると、僕の存在に気が付いたマリアナ。涙をぬぐい、改めて挨拶をしてくれた。もっと彼女と話がしたい、そんな思いでお茶に誘ったのだが、あっさり断られてしまった。
でも、僕は諦めるつもりはない。すぐにリースを呼び出し、マリアナを僕の専属メイドにする様に頼んだのだ。
「お坊ちゃま、あれほど見守っていてくださいと言ったのに、もうマリアナさんに絡んだのですか?」
はぁっとため息を付くリース。
「たまたまジャミンがマリアナに飛びついたから、仕方なく出て行ったんだよ。そもそも、僕はこの家の人間だ。今まで会わなかったこと自体、おかしいと思わないかい?よく考えたら、どうして僕がマリアナと触れ合ったらいけなかったのだろう?」
そうだ、僕はこの家の主人の子供なのに、どうして遠慮して遠目で見ていないといけなかったのだろう。クソ、2ヶ月も時間を無駄にしてしまった。さっさと話し掛けて、仲良くなればよかったのに。
「とにかく、ジャミンもマリアナに懐いているし、すぐに僕の専属メイドになる様に伝えてくれ」
「わかりましたわ。確かにお坊ちゃまの言う通り、別にお坊ちゃまとマリアナさんを会わせてはいけない訳ではなかったのですよね。この際、マリアナさんがお坊ちゃまを好きになってくれたら儲けものです。お坊ちゃまももう18歳なのですから。ここは私に任せて下さい!」
張り切って部屋から出て行ったリース。大丈夫かな?そう思いつつも、マリアナを連れてリースが戻ってきた。
ジャミンも嬉しそうに飛びついている。早速マリアナと一緒に、ジャミンの散歩に出かけた。僕はどうしてもマリアナが泣いていた理由が気になって、それとなく聞く。すると、昔ジャミンに似た犬を飼っていたが、父親に殺されたそうだ。
きっとキャスの事だろう。可哀そうに、あんなにも可愛がっていたのに!だからキャスの子孫でもあるジャミンを抱きしめ、キャスを思い泣いていたのか。
おのれ公爵!許さない!言いようのない怒りがこみ上げて来た。僕が人知れず怒っている間に、ジャミンは走り回り、あげく疲れたからといって、マリアナに抱っこをせがんでいる。こいつ、いつからこんな図々しい犬になったのだ?
ただ、マリアナが嬉しそうな顔をしているから、まあいいだろう。
部屋に戻ると、ジャミンにはお水と犬用のおやつを、僕には紅茶とお菓子を出してくれた。本当に手際がいいな。
せっかくなので、マリアナも一緒にお茶をしようと誘ったのだが、自分はメイドだからと、拒否する。僕たちは貴族じゃないから問題ないと伝えると、しばらく考えた後、納得した様で一緒にお茶をした。
やっぱり彼女は貴族で間違いない。お茶を飲むしぐさ一つとっても、非常に美しく洗練されている。ここまでのしぐさが出来るのは、相当身分の高い貴族くらいだ。それに歳も16歳だと言っていた。
もっと色々と聞き出したかったが、夕食の時間になったので仕方なく食堂へと向かった。本当はマリアナも一緒に食事をして欲しかったが、さすがに遠慮されそうだったので諦めて母上と2人で食事を済ませた。
食後はマリアナを解放し、急いで母上の元へと向かう。
「母上、やはり彼女は、マリーで間違いない。今日一緒にお茶をしたが、しぐさがとても綺麗で、上級貴族で間違いない。それに歳も16歳と言っていた」
「そうね…実はさっき侯爵たちから手紙が届いたの。ここ2ヶ月、マリーちゃんの姿を見た者がいないのですって。公務も滞っている様で、大臣たちが困っている様よ。どうやらルイード殿下だけでなく、王妃様までマリーちゃんに仕事を押し付けていた様で…今貴族の間でも、騒ぎになり始めているみたいなの」
「それじゃあ、やっぱり彼女がマリーで間違いないのでは?」
「でも、やっぱりまだ信じられなくて。そうだわ、明日私がマリアナちゃんをお茶会に誘ってみるわ。私にいい考えがあるの」
そう言って張り切る母上。そしてマリアナとお茶をした結果、やはりマリアナがマリーだと確信したとの事。
やっと母上もマリアナがマリーだと確信してくれた。これからはずっと彼女を守りたい。9年もの間、苦労をさせてしまったのだから…
長くなりましたが、次回、マリー視点に戻ります。
よろしくお願いします。




