第17話:僕たちの前にマリーが現れた~エドワード視点~
侯爵たちからの返答に、怒りが収まらない。
「マリーはやっぱりひどい目に合っていたのだよ!もう我慢できない。今すぐ王都に行って、マリーを助け出そう。そして、この地にマリーを避難させるんだ!すぐに王都に向かおう」
こうしちゃいられない。9年もの間、マリーが辛い思いをしていたのだ。一刻も早く、助け出さないと。
「お坊ちゃま、落ち着いて下さい。王太子殿下の婚約者で公爵令嬢のマリー様を勝手に連れ出したら、あなた様が処罰されます。最悪、極刑という事もあり得るのですよ。とにかく今は、王妃殿下に弱みを握られる様な事をしてはいけません。そうそう、今日から新しいメイドが入ったのですが、とても可愛らしい女性でして…」
リースの奴、この話しは終わりと言わんばかりに、話題を変えて来た。この女、今この場で何を訳の分からない事を言っているのだ!
「リース、今は新しいメイドの事なんてどうでもいい。とにかくマリーの事を考えないと!」
「エドワード、気持ちは分かるけれど、とにかく落ち着いて頂戴。それで今リースがメイドの話をするのには理由があるのではなくって?」
「はい…金色の髪に青い瞳をした美しい女性でして…掃除も洗濯も普通にこなすのですが、動きがとても洗練されていて…もしかしてどこかのご貴族ではないかと思いまして」
「どこかの貴族がメイドに?それは不思議ね。それで名前はなんていうの?」
「はい…マリアナと申します」
「マリアナだって!僕が飼っていた犬の名前と同じじゃないか…」
マリーが僕の為に譲ってくれたマリアナ。残念ながら2年前、息を引き取ったのだ。
「わかったわ、明日一度会いたいのだけれど」
「はい、もちろんですわ。それでは、失礼いたします」
そう言って笑顔で去っていくリース。彼女は一体、何が言いたかったのだろう。とにかく僕は、マリーの事が気になって仕方がないのだ。皆はダメだというけれど、もうジッとしていられない。明日にでも荷造りをして、明後日王都へと向かおう。
そう思っていたのだが…
「エドワード…今新しいメイド、マリアナちゃんに会って来たのだけれど、マリーちゃん、いいえ、マリオネット様によく似ていらっしゃるの。ただ、やせ細ってしまっていて」
母上が血相を変えて僕に報告をして来たのだ。何だって?でも、マリーは今、王都にいるはずだ。この地にいるはずがない。そう思いつつも、急いで新しいメイド、マリアナを見に行く。するとちょうど洗濯をしているところだった。
彼女を見た瞬間、確信した。あの子はマリーだ!間違いない。僕が彼女を見間違えるはずがない!すぐに声を掛けたかったが、忙しそうに働いていた為、声を掛けるのは止めておいた。
「母上、彼女は間違いなくマリーだ。マリーの手の甲にほくろがあるのだが、あの子の手の甲にもほくろがあった」
「でも、どうして公爵令嬢のマリーちゃんがこんな所でメイドなんてやっているの?それに、リースの話だと、洗濯も掃除も完璧にこなす様よ。そう言えば…彼女を紹介してくれた方の話では、マリアナちゃんは父親と継母から虐待されていたとの事だったわ」
「父親と継母だって?まさにマリーが置かれていた状況と同じじゃないか。とにかく、すぐに彼女が本人かどうか、確認しましょう」
すぐに部屋から出て行こうとしたのだが…
「お待ちください、お坊ちゃま」
僕を止めたのはリースだ。
「マリアナさんはどうやら、自分の事を話すことを極端に嫌っております。ルーマの話では、この家の主が貴族ではないかと、心配していた様ですし。彼女はきっと、自分の存在を隠し通したいのでしょう」
「でも僕たちは、彼女の味方だ!だから…」
「マリアナさんは、あなた様達と過ごした記憶がないのでしょう。現に奥様を見ても、特に動揺するようなそぶりは見せていませんでしたし…それなら尚更、今は様子を伺うべきです。それにまだ、彼女がマリー様と断定できたわけではありません。とにかく一度侯爵様と連絡を取り、マリー様が今王都にいるのか確認を取るべきです」
「リースの言う通りよね。それにマリオネット様の手紙には、私たちに頼る様にとマリーちゃんに伝えたと記載されていたわ。本当のマリーちゃんなら、この地のこの場所に私たちが住んでいる事を知っているはず…それなのに、メイドとして働きにくるかしら?」
「でも、母上、マリーは母親の遺言を知らなかった、または理解できなかったとも考えられます。とにかく、彼女は絶対にマリーで間違いない!」
「エドワードの気持ちは分かったわ。でも、やはり今のマリアナちゃんに、“あなたは公爵令嬢のマリーちゃんよね”と突き付けるのは良くないわ。最悪正体が見破られたとの事で、この街を出て行ってしまうかもしれないし。とにかく、侯爵に現状確認を行ってもらうとともに、私たちは彼女が出て行かない様に見守りましょう」
きっとマリーは王都で酷い目に合ったんだ。目の前にマリーがいるのに、僕はどうする事も出来ないのか!悔しくて唇を噛む。
「エドワード、あなたの気持ちもわかるわ。でも今は、本当に彼女がマリーちゃんなのかの確認と、もしそうなら一体王都で何があったのか調べるのが専決よ。そうでしょう?」
「ええ…分かっていますよ」
こうして僕たちは、彼女が本当にマリーなのか、今マリーは王都にいるのかいないのかの確認を侯爵たちに依頼する事にした。それまでは、彼女を見守り続けるしかない。




