第16話:マリーが心配でたまらない~エドワード視点~
それは僕が9歳の時だった。
「奥様、大変です。今、グラッセル侯爵家から使者がやって参りまして…シャラティア公爵夫人が亡くなられたそうです」
「そんな…マリオネット様が…」
リースの話を聞いて、その場でへたり込む母上。
「リース、それでマリーは、マリーは大丈夫なのかい?」
「そこまでの情報は…ただ、侯爵様の使いの者の話では、シャラティア公爵が頑なに、夫人の亡骸と対面させたがらないという事なので、もしかしたら…」
そう言葉を濁すリース。
「そんな…それじゃあ、マリオネット様は…」
「奥様、しっかりしてください。とにかく、奥様をベッドに。お坊ちゃま、手伝ってください」
あまりのショックに、意識を失った母上。まさか夫人が殺されるだなんて…
「リース、僕はマリーが心配だ。今すぐ王都に戻る」
「何をおっしゃっているのですか?あそこはまだお坊ちゃまにはとても危険な場所です。とにかく、落ち着いて下さい」
「母親が殺されたのだぞ!きっとマリーは悲しんでいるはずだ。一刻も早く行ってあげないと」
そう伝えたのだが、リースに必死に止められてしまった。とにかく、今僕が王宮に戻ったところで、また命を狙われるだけだと!
なにも出来な自分が不甲斐なくて悔しくて、どうしようもない気持ちのまま日々をすごす。そして夫人が亡くなってから1年後、やっとグラッセル侯爵がお忍びでやって来た。
そして、マリーの父親が再婚した事、さらにマリーが王太子殿下でもある、ルイード殿下と婚約したと教えられた。
「そんな…マリーがルイード殿下と…そんな…」
「殿下、落ち着いて下さい。私達はあなた様を王にする事を諦めておりません。ルイード殿下はエドワード殿下とは比べ物にならない程、愚かな人間です。とにかく、希望を捨てないで下さい。マリオネットが残してくれた証拠の一部を私たちは握っていますし、引き続き、私達で調査を行いますから」
そう言ってくれたグラッセル侯爵。でも僕は、マリーがルイード殿下と婚約したことがショックでたまらなかった。
結局僕は、一番大切なマリーを奪われてしまったのだ…
それからは心にぽっかりと穴が開いた様な日々を送る。正直僕はもう、国王なんかに興味がない。マリーがルイード殿下と幸せに暮らしてくれるなら、それでいい。そう思う様になって来た。
そして夫人が亡くなってから、9年が過ぎようとした頃、ある女性が訪ねて来たのだ。
「あの…ここにアンリ様という方はいらっしゃいますか?」
「アンリは私ですが、何か?」
「よかった…届けるのが遅くなり、申し訳ございません。これは亡き奥様…マリオネット様からのお手紙でございます」
古い手紙を手渡してきた女性。マリーの母親からの手紙だって!。
「とにかく、中に入って頂戴」
急いで女性を客間に案内した。聞けば夫人が亡くなる寸前、“この手紙をアンリ様に届けて欲しい。レックスィンの街にいるから”と言伝を頼まれたらしいのだが、レックスィンの街を、レイストロンの街と勘違いし、あちこち探し回っていたとの事。ただ、どこを探しても見つからないため、もしかしたら違う街にいるのかもと思い、似たような街を渡り歩いていたらしい。
「お渡しするのが遅くなり、申し訳ございませんでした」
そう言って頭を下げる女性。
「母上、手紙にはなんて書いてあるのですか?」
僕は夫人の手紙が気になって仕方がない。すぐに母上に手紙を開ける様に伝えた。急いで手紙を開ける母上の横で、僕も手紙に目を通す。
「これは…」
その手紙には、自分はもうすぐ殺される。もし自分が死んだら、娘にはアンリ様を頼る様に手紙を残した。さらに数々の証拠も、娘に手紙で残してある。あの家にいたらきっと娘は不幸になるから、どうか娘の事をお願いします。絶対にルイード殿下には嫁がせないで。
その様な内容が書かれていたのだ。
「母上、これは…」
「夫人は自分が殺されることを知っていたのね。とにかく、この事をすぐにグラッセル侯爵とマスティン侯爵に知らせましょう。でも、どうしてマリーちゃんは、私たちを頼ってこなかったのかしら?もしかしたら、手紙を読んでいないのでは?」
「もし手紙を読んでいないのなら、もしかしたら今頃、公爵家で辛い思いをしているかもしれない。公爵はすぐに再婚したのだろう?とにかく、マリーが心配だ」
夫人が亡くなってから、既に9年も経っているのだ。もしマリーが辛い日々を送っていたのだとしたら…胸が張り裂けそうになる思いを、必死に抑えた。
とりあえず手紙を届けてくれた女性にお礼を渡し、すぐにグラッセル侯爵とマスティン侯爵に手紙を書く事にした。するとすぐに返事が来た。すぐにでもマリーと連絡を取りたいのだが、生憎最近姿を見ていないとの事。
いつも寝る間を惜しんで公務を行っていた為、もしかしたら倒れたのかもしれないとの事だ。どうやらマリーは、夫人が亡くなった後、かなり過酷な生活を強いられていた様だ。
ただ…侯爵たちも助けたくても助けられなかったらしい。引き続き、マリーとの接触を試みるとの返答が来たのだった。




