第15話:王都を離れる事になった~エドワード視点~
マリーとの幸せな日々が1年ほど続いたある日。
ある事件が起こった。それは、僕の食事に毒が入れられていたのだ。ただ、すぐに解毒剤を飲んだため、大事には至らなかった。
「きっと王妃様の仕業ですわ。ついにエドワード殿下に直接危害を加えるだなんて…王妃様はあの残酷で非道な男の娘ですもの。きっと今後もエドワード殿下の命を狙ってくるはずです。アンリ様、一刻も早く王都を離れましょう。ここは危険です。とにかく今は、エドワード殿下とあなた様のお命を守る事が専決ですわ!」
「そうね…エドワードにもしものことがあったら、私は…」
「とにかく落ち着いて下さい。まずは陛下に事情を話して、安全な地での生活をする許可を取りましょう。ただ、王妃様の魔の手が伸びると大変です。出来るだけ内密に事を進めましょう。とにかく、私に任せて下さい!」
夫人の言葉に、母上も安堵の表情を浮かべる。この王宮から出るのか。確かにこの王宮にいるよりも、別の場所に避難した方がいいだろう。でも…
僕はマリーと離れたくない。ずっと一緒にいたいのだ。そんな僕の願いも空しく、僕たちはこの国の端にある小さな漁師街、レックスィンで生活する事になった。この街は母上の義理の姉の実家、マスティン侯爵が領主の街だ。
父上の許可も無事おり、密かに引越しの準備を進める。そして、引越しの日。わざわざ夫人とマリーがお見送りに来てくれた。
「エドおにいちゃん!」
僕を見つけると、いつもの様に抱き着いて来たマリー。僕もギュッと抱きしめる。
「エドおにいちゃん、きょうとおくにいっちゃうのよね。わたし、なかないっておかあさまとやくそくしたの。またすぐにあえるからって。だからマリー、なかないよ」
そう呟くと、大きな青い瞳に涙をたっぷりと溜めて、必死に涙をこらえていた。やっぱりマリーは、可愛いな。そんなマリーを、ギュッと抱きしめた。
「マリー、すぐにまた会えるよ。だから、泣かないで」
「わかったわ。またすぐにかえってきて。それからね、このこ、おにいちゃんにあげる」
マリーが渡してくれたのは、フワフワの毛並みの子犬だ。
「このこ、キャスがうんだあかちゃんなの。エドおにいちゃん、ずっといぬがほしいっていっていたから。たいせつにしてあげてね」
「ありがとう、この子は大切に育てるよ。それじゃあマリー、また会おうね」
マリーを抱きしめ、そのまま馬車に乗り込んだ。僕が馬車に乗り込んだ瞬間、声を上げて泣き出すマリーを、夫人が抱きかかえ、慰めている。あんなに僕の為に泣いてくれるだなんて。
マリーの泣き顔を見たら、僕も涙が込みあげてきた。気が付くと僕の瞳からも、涙が溢れていた。すると
「くぅ~ん」
腕の中にいた子犬が、僕の顔を舐めてくれたのだ。どうやら慰めてくれている様だ。
「何だお前、慰めてくれているのか?ありがとう」
そう言うと、子犬を抱きしめた。柔らかくて温かくて、とても小さいな。まるでマリーみたいだ。そうだ、この子はマリーと名付けよう。でも、万が一王都に戻った時、マリーと同じ名前じゃあ、マリーが混乱するな。そうだ、マリアナにしよう。
こうして僕たちは、夫人の手助けを受け、何とか安全な街へと避難する事に成功した。王都にいた頃とは比べ物にならない程、穏やかな日々。さらにマスティン侯爵が僕の為に、優秀な家庭教師を雇ってくれた。僕がいつ王太子になってもいい様にと。
その上、この街の出身者でもあり、自身の屋敷でメイドをしていたリースを、メイド長として手配してくれた。リースは僕たちの正体を知っている、唯一の人物だ。さらに僕たちの事をうまく街の人たちに話してくれた。
こうして始まった僕たちの生活。もう誰の目も気にすることなく、好きな事が出来る幸せ。でも…
「マリアナ、僕はマリーに会いたくてたまらないよ」
マリーから譲り受けたマリアナを抱きしめながら、マリーの事を考える。そう、僕は王都に残してきたマリーの事が気になって仕方がないのだ。
そんな日々を過ごしているうちに、4年の月日が流れていた。先日、マリアナが子供を産み、新しくジャミンが僕たちの家族に加わり、我が家もにぎやかになった。
定期的にシャラティア公爵夫人から現在の状況が手紙で届く。マリーも元気に過ごしている様だ。
グラッセル侯爵やマスティン侯爵もお忍びで我が家を何度も訪ねてきてくれた。どうやらシャラティア公爵夫人が危険を顧みず、クディスル公爵家が母上の実家でもある、カリフィース侯爵家を陥れた情報を集めているという。
母上は夫人の事を随分心配していた。あまり無茶をして、万が一命を狙われる様な事があったらと…
まさか母上の不安が的中する事になる何て…




