第13話:僕の過去~エドワード視点~
「エドワード、やっぱりマリアナちゃんがマリーちゃんだったのよ。マリオネット様が好きだったお菓子を出したら、目に涙を浮かべながら“母が好きだったお菓子です”と言ったのよ。あぁ、あのお菓子を取り寄せておいてよかったわ。まさかこんな風に役に立つだなんて」
嬉しそうに私の元にやって来たのは母上だ。
「だから言ったでしょう。僕が彼女を見間違えるはずはないと…たとえ13年もの間、会っていなかったとしても…」
「でもどうして公爵令嬢のマリーちゃんが、平民になってメイドとして現れたのかしら?亡きお母様、マリオネット様の遺言を見たとも考えられないし…それにしても、随分と辛い生活を送って来たのね。まあ、あの王妃と公爵じゃあ、マリーちゃんがどのような生活をさせられていたかは想像がつくわ。公爵令嬢だった彼女が、洗濯や掃除を完璧にこなすだなんて。リースの話だと、ここに来た時には既に完璧にこなしていたと言っていたわ。きっと相当冷遇されていたのよね。可哀そうに…」
いつもあまり話をしない母上が、珍しく興奮気味に話しをしている。確かに母上の言った通り、マリーが冷遇されてきたことだけは間違いない。もしかしたら、平民以下の生活を強いられていたのかもしれない。
考えただけで腸が煮えくり返る思いだ!
「とにかく、すぐにグラッセル侯爵とマスティン侯爵に連絡を取って、どうしてマリーがこの地に来ることになったのか調査をしてもらわないと」
グラッセル侯爵家は、マリーの母、マリオネット殿の実家、マスティン侯爵家は、母上の元兄嫁の家だ。ちなみにこの街は、マスティン侯爵家が管理している土地でもある。
「分かったわ、すぐに手紙を書くわ」
そう言って部屋から出て行った母上。やっぱり彼女は、マリーだったんだ…
ふと過去の事を思い出す。この国の第二王子として生まれた僕は、同じ歳の異母兄で王妃が産んだルイードと明らかに差を付けられて育てられてきた。
母上は侯爵令嬢で父上の婚約者だったのだが、当時凄い勢いで権力を握り出した王妃の実家、クディスル公爵が“自分の娘と結婚しろ”と迫って来たそうだ。
さすがにそんな横暴な事は許されない、そう父上は訴えたらしいのだが、あろう事か、クディスル公爵は、母上の実家でもある侯爵家が謀反を企てていると騒ぎ立てたのだ。
さらに証拠まで提出して来た。その証拠が決定打となり、母上の両親と兄は処刑、実家は取り潰しになった。
家族が犯罪者になってしまった母上は、このまま王妃にはなれないという事で、今の王妃が父上の正妻になった。ただ、父上がどうしても母上を傍に置きたいという事で、何とか貴族たちを説得し、母上は側妃になったという訳だ。
父上の側妃になったものの、自分のせいで家族を殺された母上は、酷く落ち込み、後を追おうとしたくらいだったそうだ。そんな時に僕が生まれたらしい。
僕が生まれたことで、何とか正気を取り戻した母上は、僕を守るため王宮内では常に警戒していたらしい。そんな中、王妃派にマリーの父親、シャラティア公爵まで加わったのだ。僕たちの立場は増々危ういものになって行ったと母上が言っていた。
孤立無援の中で、僕を必死に育てていた母上。僕も王宮内で差別されて、本当に辛かった。でも…
~14年前~
「母上、どうして僕たちは、こんな狭いお部屋に閉じ込められないといけないの?僕もルイード殿下の様に、外に出て剣の稽古がしたいよ」
「ごめんね、エドワード…とにかく、どこで私たちの命を狙っているか分からないの。だから、我慢して頂戴」
そう言って僕を抱きしめる母上。まだ4歳だった僕にとって、ほとんど部屋から出してもらえない生活は苦痛でしかなかった。窓の外では、同じ歳のルイード殿下が楽しそうに剣の打ち合いをしているのに…いいな、僕もお外で遊びたいな…
そんな日々を過ごしていた時の事。
「アンリ妃、シャラティア公爵夫人とマリー嬢がいらっしゃいました」
「え?シャラティア公爵夫人ですって?」
母上は目を丸くして固まっている。シャラティア公爵と言えば、僕たちの敵だ。その妻が、一体母上に何の用があって来たのだろう。もしかして、母上に酷い事をするために!
そう思っていたのだが…
「急に押しかけて申し訳ございません。あなた様とエドワード殿下が置かれている状況を知り、居てもたってもいられなくなりまして。私に力になれる事があればと思い、訪ねてまいりました。それから、主人の数々のご無礼、どうかお許しください」
そう言い、母上に頭を下げた夫人。この人は母上の味方なのか?
「あの…シャラティア公爵夫人…どうしてその様な事を?」
母上が夫人に問いかける。すると…
「私は姉の様に慕っていたミリア姉様の仇を取りたいのです…」
ミリア姉様?誰だろう。ただ、母上は分かった様で
「ミリア姉様とは、私の兄の妻、ミリアお義姉様の事ですか?」
「ええ、そうです。私より5つ年上だったミリア姉様は、子供の頃からの仲で、本当に姉の様な存在でした。あなた様のお兄様に嫁ぐことが決まった時もとても喜んでいて。お腹に子供も出来て本当に幸せそうだったのに。でも…あの男!クディスル公爵の罠に嵌められ、義理両親と夫を殺されてしまったのです。ミリア姉様はあなた様のお兄様を心から愛しておりました。その為、お姉様の落ち込み様は酷く、ショックから子供は流産しました。夫も子供も失ったお姉様は、絶望の中自ら命を絶ったのです…」
そう言うと、ポロポロと涙を流す夫人。
「お姉様の亡骸に対面した時、私は心に誓ったのです。絶対にクディスル公爵を許さない。自分の欲望の為に、他の家族を犠牲にしたあの男を。それからと言うもの、密かにクディスル公爵の事を調べていたのです。そんな中、あなた様が冷遇されていると聞き、居てもたってもいられなくて…本来なら、あなた様が王妃殿下のはずですのに。ですから、どうかあなた様の力にならせてください」
必死に夫人が母上に訴えている。どうやらこの人は、本当に母上の味方の様だ。
14年前のエドワードは4歳ですが、非常に大人びております。こんな4歳いないだろう…と思われるかもしれませんが、どうかそのあたりはおおめに見て頂けると嬉しいですm(__)m




