第10話:お坊ちゃまの専属メイドになりました
一旦持ち場に戻り、仕事をこなしていると、メイド長に呼び出された。
「マリアナちゃん、お坊ちゃまから話しは聞いていると思うのだけれど、あなたにはお坊ちゃまの話し相手になって欲しいと思っているの。奥様からも、ぜひ!と言われていてね。それで、あなたをお坊ちゃまの専属メイドにしようと思っていて。お坊ちゃまには特定の専属メイドがいなくて、この機会だから、ちょうどいいわ」
そう言われたのだ。
「あの、でも私の様な新米が、お坊ちゃまの専属メイドだなんて務まるのでしょうか?」
「大丈夫よ。この2ヶ月のマリアナちゃんの働きっぷりは素晴らしいもの。あなたの働きっぷりは、奥様もお坊ちゃまも陰ながら見ていらしたのよ。それできっと、今回提案されたのだと思うわ。それにお坊ちゃま、とてもカッコいいでしょう?マリアナちゃんもうまくやれば、お坊ちゃまと結婚なんて事も…」
「メイド長、何をおっしゃっているのですか?お坊ちゃまに失礼ですよ!」
「あら、そうかしら?マリアナちゃんはとても美しいから、お坊ちゃまともお似合いよ。ルーマだって、あなたのあまりの美しさに食堂で働かせるのは不安だと考えて、私に頼んできたのだもの。メイドの仕事だと、あまり街の男どもと関わる事もないでしょう?現に街の男どものほとんどが、マリアナちゃんに恋しているのだから」
それはそれは嬉しそうに、そんなあり得ない事を話すメイド長。
「とにかく、私たちはマリアナちゃんの味方だから。最近は随分とマシな体になって来たけれど、ここに来た時は本当にやせ細っていて。ルーマが世話を焼く理由がよくわかるわ。それにマリアナちゃんは本当にいい子だし」
笑顔でメイド長がそんな嬉しい事を言ってくれる。そんな事を言われたら、私もメイド長の期待に応えたい!
「ありがとうございます、メイド長。私、この街に来られて、皆に親切にしていただいて、本当に幸せですわ。私に務まるか分かりませんが、お坊ちゃまの専属メイドの件、一生懸命務めさせていただきます」
「よかったわ、それじゃあ、早速お坊ちゃまの元に向かいましょう」
メイド長と一緒に、お坊ちゃまの部屋に向かう。どうやらお坊ちゃまのお部屋は、3階の一番端っこの様だ。奥様の部屋も3階にあるとの事。ちなみに私は、3階に向かうのは今日が初めてなのだ。
3階の部屋には、基本的にメイド長以外は入らないらしい。
「マリアナさん、3階にはとても重要な資料などもあるとの事なので、絶対にお坊ちゃま以外の部屋には入らないで下さいね」
「はい、分かりましたわ」
「ここがお坊ちゃまのお部屋です」
メイド長がノックをすると、中から返事が。
「失礼いたします。お坊ちゃま、マリアナをお連れいたしました」
「今日からお坊ちゃまのお世話をさせていただく事になりました。どうぞよろしくお願いいたします」
「キャンキャン」
私が挨拶をすると、嬉しそうにジャミン様が私の元にやって来た。やっぱりこの子、キャスによく似ているわ。
「ジャミン様も今日からよろしくお願いいたします」
ジャミン様を抱っこすると、ペロペロと顔を舐めて歓迎してくれる。本当に可愛い。
「まあ、お坊ちゃまと奥様以外に懐かないジャミン様が、こんなに嬉しそうにマリアナさんに飛びついているだなんて…」
そう言って目を丸くしているメイド長。どうやらお坊ちゃまがおっしゃっていた通り、ジャミン様はあまり人間が好きではない様だ。
「メイド長、彼女を連れてきてくれてありがとう。マリ…アナと言ったね。今日からよろしく頼むよ。早速ジャミンを散歩に連れて行きたいのだが、一緒に来てくれるかい?」
「ええ、もちろんでございます」
“マリアナちゃん、後は任せたわよ。出来るだけお坊ちゃまの希望を叶えてあげてね”
そうメイド長が耳元で呟くと、一礼して去って行った。出来るだけ希望を叶えてあげてとは、どういう意味かしら?よくわからないが、とりあえずお坊ちゃまのいう事を聞けばいいのだろう。
「それではお坊ちゃま、ジャミン様。参りましょう」
お坊ちゃまと一緒に、ジャミン様を散歩させるために中庭へとやって来た。嬉しそうに走り回るジャミン様。キャスもよくああやって嬉しそうに走っていたわね。でも…あの子は無残にも殺されてしまった。痛くて苦しくて、辛かっただろう…
ジャミン様を見ていると、どうしてもキャスと重なって胸が締め付けられるのだ。
「マリアナ、そんなに悲しそうな顔をしてどうしたのだい?」
心配そうにお坊ちゃまが私の顔を覗き込んできた。いけないわ、私ったら仕事中に他ごとを考えてしまうだなんて。
「何でもありませんわ。申し訳ございません」
お坊ちゃまに深々と頭を下げた。
「それならいいのだけれど…マリアナは随分とジャミンに懐かれている様だけれど、動物を飼っていたことがあるのかい?」
「…はい、子供の頃ジャミン様によく似た可愛らしい犬を飼っておりました。でも…父に殺されてしまって…」
「そうだったのだね。ごめん、辛い事を思い出させてしまって。それにしても君の父親は、最低だね。動物の命を何だと思っているのだ!」
お坊ちゃまが怒りを露わにしている。
「こちらこそ、暗い話をしてしまって申し訳ございませんでした。ジャミン様があっちの方に行ってしまいましたわ。私、連れ戻して来ますね」
キャスの事を思い出し、今にも涙が溢れ出しそうになるのを必死に堪え、ジャミン様を連れ戻すふりをして涙をそっとぬぐったのだった。




