第83話
第83話です。
賑やかな店にフェンリルを連れた
女性が現れました。
どんな展開になるか。
では、楽しんでください。
不意に
「私を呼んだ?」
と声がした。
振り返ると大きなフェンリルを従えた女性が
立っていた。
「あぁ、そうだったな。
お前だったな、エルネーゼ。
今日はこんな時間にいるなんて珍しいじゃないか。
どうしたんだ?」
「ちょっと足を伸ばしていたから
帰りが遅くなったの。
ん?フェンリルの子じゃない。」
《風魔》が慌てて《松風》後ろに隠れた。
《松風》はフェンリルと対峙している。
「その子はマエダ様の契約獣なんだ。
話せるらしいから驚いていたんだ。」
「え?この子と話せるの?この人が?」
エルネーゼは慶次の顔を見た。
慶次は立ち上がり
「前田慶次だ。よろしく頼む。」
と手を差し出した。
エルネーゼは慌てて
「あ、こちらこそよろしくお願いします。
エルネーゼ グランディです。」
と握手をした。
「マエダ様、
このフェンリルの子と話が出来るのですか?」
「そうだ。俺は俺の契約獣とは普通に会話をする。
お主はどうやって意思疎通をしておる?」
「いえ、私はただ、この子に
命令をしているだけです。
あ、この子は ヴェンと言います。
ヴェンは私の言葉を理解しているので、
私の言った事を行動に
移しているというかんじですね。」
「なるほど。他の者も同じ様な感じなのか?」
「そうだと思います。
確かめた事はありませんが。
マエダ様は契約獣達と
普通に話をしておられるのですね?」
「そうだな。声に出す事もあるが、
基本は出さないな。」
「なるほど。念話という事ですね。
羨ましい、私もヴェンが
何を考えているか知りたいです。」
「俺が聞いてやろうか?」
「出来るのです?それならぜひ。」
「少々時間がかかるがやれるだろう。
《松風》は話せるか?」
呼ばれた《松風》はヴェンの方を見る。
ヴェンも《松風》の顔を見つめる。
『殿。話せますよ。』
《風魔》も
『殿。僕も話せるよ。あ、ます。』
《風月》も当然の様な顔で
『私も話せますわよ。
何がお知りになりたいのかしら。』
慶次は
「全員が話せるらしいぞ。何を聞きたい?」
「本当ですか?
では、私と一緒に居て
大丈夫なのか知りたいです。
ヴェンは最初は私の言う事を聞かなくて。
しばらくは契約した事を後悔したんです。
こっちの都合で強制的に
契約させられたわけですから。」
そこまで話すとエルネーゼは俯いた。
ヴェンはそんな彼女をジッと見ている。
それを見た慶次は
「話せなくとも、
俺にはヴェンの気持ちが分かるぞ。」
と言った。他の3人も頷きヴィクトルは
「そうだ。お前がヴェンを
すごく可愛がっているの知ってるぞ。
そんなお前を嫌っている訳は無いだろ。」
と話す。《松風》は
『殿。ヴェンがそんな事を考えていたとは驚いたと。
最初の頃は少し人見知りしていただけだと。
今と昔を比べてもそこまで気持ちは
何も変わらないと。』
慶次はその言葉をエルネーゼに伝える。
「そうなのですね。良かったです。
可愛がって見えるのは
後悔していたのかもしれませんね。」
ヴェンがエルネーゼにソッとすり寄る。
エルネーゼはヴェンの頭を撫でた。
「それはそうと、
マエダ様のフェンリルはまだ子供ですよね。
戦い方をヴェンに教われば
強くなれると思うのですが、どうでしょう。」
慶次は《風魔》をチラリと見る。
《風魔》は恥ずかしそうに
《松風》の後ろに隠れている。
「《風魔》は恥ずかしいみたいだな。
《松風》ヴェンに話してやってくれるか。」
頼まれた《松風》はヴェンに話をしている。
ヴェンは《風魔》の方へ近づき顔を見て舐めた。
《風魔》は驚きつつ嬉しそうにしている。
『殿。僕、この人に教えてもらいたい。
大丈夫かな?』
慶次は笑ってエルネーゼに
「《風魔》が教えて欲しいそうだ。
これから毎日、一緒に行動してやってくれるか?」
エルネーゼは顔を輝かせ
「良いのですか?分かりました。
明日から一緒に行きましょう。
あ、私もここで食べても良いですか?」
全員が頷き
「勿論だ。そうだ、エルネーゼ。
ここで話す話では無いかもしれんが、
お前に伝えなければならない事がある。」
ゼノンがそう話すと
「『艶紅の炎』の件ですね。
今日、他の冒険者に聞きました。仕方ありません。
私も覚悟はしていましたから。」
エルネーゼが俯いて消え入りそうな声で話す。
慶次は怪訝な顔でみんなを見る。
「エルネーゼの弟が『艶紅の炎』の
メンバーでした。」
とゼノンが話す。エルネーゼは涙を流し
「本当に大丈夫です。
それぐらいの覚悟を持って
冒険者をしていますから。
私が先かあの子が先かというだけです。」
その顔に慶次は自分の國の
覚悟を決めた女性の顔を思い出していた。
戦国時代の人の命、特に女性や子供は
時代の流れの中で軽かったり重かったりする。
冒険者の命もそんなモノなのかと思った。
「エルネーゼ、
明日にはメンバーの家族に俺が話に行く。
お前も来てくれるか?」
ゼノンがエルネーゼの様子を見ながら話す。
「そうですね。
ガルヴァンの家族はソルメラに居ますから
最初に行きましょうか。
確か、マルティナが最近、
プランタンシアで働き始めたと聞きました。
どこかの貴族の料理人に
宰相様から直々にお声がかかったと。」
それを聞いた慶次は
「マルティナ?
それは俺の家で働いてくれている女性だ。
そうか、亡くなったのか。」
みんなが驚いて慶次を見る。
「慶次がマルティナを
雇った貴族という事ですか?
そんな事もあるのですね。
明日、俺達は慶次の家に行っても大丈夫ですか?
その時は慶次も一緒に居てくれませんか?」
「そうだな。俺の家で話す方が良いな。
オズワルドに伝えておこう。
夫が亡くなったとなると
あの家に居る意味も無くなるだろうから、
俺もマルティナに話す事が出来たな。」
慶次は麦酒を呑み
「冒険者は武士に似ておるな。」
「そうなのですか?
武士という職業は分かりませんが、
私は弟を誇りに思っています。
あの『艶紅の炎』の一員でしたから。」
「まぁ、うまく説明は出来ないが、
自らの犠牲を厭わないというところか。
まぁ、そういう事なら、今日は弔い酒だな。」
「そうですね。賑やかに送りましょう。」
慶次は夜遅くに店を出た。
エルネーゼが帰り際に
「マエダ様、明日伺いますね。」
と話す。
「そうだな。よろしく頼む。
マルティナの事を支えてやってくれ。
それから、俺の依頼は魔物調査だから
本来の依頼は受けない。
エルネーゼは魔物の討伐を
メインに受けてもらいたい。」
「えぇ、大丈夫です。
これからは依頼を出来るだけ多く受けておきます。
明日からよろしくお願いします。」
慶次はエルネーゼ達と別れ
プランタンシア街の方へと向かった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
冒険者は家族みたいな関係です。
ランクが高いほど、家族がどこかのチームに
所属しています。
嬉しい事も哀しい事もみんなで分かち合います。
次回は慶次が家に戻ります。
では、次回を楽しみにしてください。




