兄様離れの1日の始まり
「んみゅ」
朝、ゆっくりと目を開ければ部屋の中はまだ薄暗くて、時計をみればいつもと同じ時間だった。
「まだ……こんな時間……」
やっぱり習慣は身体に染み付いていたみたい。
だけど今日の僕は昨日の僕とは一味ちがうのだ。
いつもならこのまま兄様のもとへむかって
朝のご挨拶をするが、今日は布団を被りなおして、もう一度寝る態勢にはいる。
もう……兄様へのご挨拶はしない。
ちゅーも……しない。
今日から兄様を卒業する。
それは昨日決めたことだった。
兄様はゆくゆくは結婚して大切な家族できる。
今は学生だからたくさん兄様と一緒にいれる機会があるだけで、この先の未来は僕と兄様はどんどん離れてしまうんだ。
それならば、今のうちから兄様と離れる練習をしないと。
心の準備をしていれば、いつかその時が来ても僕は笑顔でお祝いすることができるはず。
兄様が寝てる時間帯でなければ挨拶できないから早起きしていただけで、朝食の時間までまだまだ時間はたくさんある。
「うぅ……やっぱり兄様にご挨拶……」
兄様のことを考えれば考えるほど、兄様への気持ちが溢れてくる。
んー!!ダメダメ!ちゃんと兄様から卒業するんだから!
僕は毎日一緒に寝ているテディベアさんをぎゅっと抱きしめなおし、目をぎゅむっと瞑った。
頭の中は兄様でいっぱいだけど、目を閉じていると次第にまた夢の中へ入っていく。
次に目を開けた時には、カーテンの隙間からは日差しが差し込んでいた。
そろそろ支度をしなくちゃ
ベットの上で、「んんんーーーっと!」身体を伸ばしゆっくりと起き上がる。
まだ眠い目を擦りながら洗面台に向かい、水で顔を洗えばその冷たさに頭がハッキリしてくる。
そのまま身支度をすませていれば
コンコンコン
「坊ちゃま。朝食の時間でございます。」
ノックと共に声がかかった。
「わかった。今行く」
使用人と共にダイニングへ迎えば、兄離れ最初の朝食の時間が始まった。
兄様をみない……。食事に集中。
あむ。
そう心の中で唱えながら、僕の大好物のポトフを口に運んでいく。
あれ?おかしいな……。
味はいつもと変わらないはずなのに
なんだか今日はいつものおいしい!!って感じがしないなあ。
兄様をできるだけみないように食事をしていたのに。
僕は気づいてしまう。
兄様の口にパン屑が!?
兄様が口元にパン屑がついていることに気づかずに黙々と食事を続けている。
かわいい……。
今までそんなことなかったのに、珍しい兄様の様子にじっとみてしまう。
いやいや、みないみない。
僕は兄様離れするんだ。
すぐに顔をそむけた瞬間。
カチャン!!と音が響いた。
急に響いた音に僕の身体はビクリとする。
「すみません」
「すぐに新しいものをお持ちいたします。」
「頼む」
兄様がカトラリーを落とした音だったよう。
使用人がすぐに新しいカトラリーを持ってきてくれて、そのまま何事もなかったように兄様は朝食をはじめた。
昨日もトレーを落としていたし、今日も……それに、まだパンはお口についているし……
兄様体調でも悪いのかな?
そう思っていると、これまた珍しく父様が口をひらいた。
「ファラン、口を拭きなさい。」
「……!ありがとうございます……」
父様の言う通りに口を拭えば、パン屑がついていたことに兄様は気づいたみたい。
兄様の顔の血色が良くなった気がした。
今日は珍しいことがいっぱいだ。
それに……やっぱり今日の兄様なんか……変??
兄様の様子を不思議に思いながらも、朝食を済ませた。
「いってきます」
「いってきます」
いつも通りに父上に声をかけて馬車へ乗り込む。
兄様と二人っきりの時間。
昨日までの僕にとって最高に幸せな時間だったが今日は違う。
兄様を眺めたりちゅーしたい誘惑に抗わないといけない試練の時間にかわった。
うう。僕は耐えれるのだろうか?
兄様をみれば既に目を閉じている。
ううぅ。
やっぱり兄様かっこいい。好き。
ちゅーしたい。
最後の一回だけしちゃおうかな。
はっ!ダメダメ!
両手で目を塞いで兄様を隠す。
ここで誘惑に負けてしまえば、昨日の夜のご挨拶を我慢したのが台無しになっちゃう!!
そうだ。僕も兄様をみないように寝てしまえばいいんだ!
そうと決まれば、早速目を閉じる。
早く学校につきますように……。
馬車の揺れに身を任せると簡単に眠りにつくことができた。
「んんん……。」
気持ちよく眠っているとほっぺをつんつんと突かれたような感覚がする
まだ起きたくない。
身じろぎすれば、また頬がつんつんとなにかにされる。
もう……いやなのに
眠たい目を持ちあげれば既に馬車は学園の前で止まっていて、兄様は馬車を降りている最中だった。
「もうついた……」
状況を理解すれば、まだぼやっとしながらも馬車をゆっくりと降りた。
どうやらぼくは試練乗りこえられたみたい。
胸をほっと撫で下ろせばちょうど馬車から降りてきたルカを見つける。
「おはよう。ルカ」
「えっ、フラン!?おはよう…」
あからさまに驚くルカにちょっとムッとする。
「なんでそんなに驚くの」
「お前から声かけてきたの初めてじゃないか?俺びっくりしたんだけど」
確かにいつも兄様のことみてたから、いつもルカからだったかも?
「僕は昨日までの僕とはもうちがうんだ」
「はぁ……?またなに、おかしなこと言ってんだ?」
ルカは怪訝そうな顔をしている
ルカにはお昼の時にたっぷりと僕の昨日と今日の凄まじい葛藤を聞かせようじゃないか!
「まあ詳しいことはお昼に話すから!楽しみにしといて!」




