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兄様離れ

「なんかいい夢見た気がする」


翌朝、いつもよりも清々しい気持ちで目を覚ます。


どんな夢だったかな??嫌な夢は覚えてるのにこういう時はすぐ忘れちゃう。


すっごくあったかくていい気分だったのは覚えてるんだけどなあ。


まだ少しぼやっとした頭で考えながら、

兄様へ朝のご挨拶をしに行こうとベットから降りた。


するとコンコンコンッとノックが響く。


あれ?こんな朝早くに誰だろう?


ドアの方へ視線を向ければ


「坊ちゃま朝食の準備が整いましたのでお呼びに参りました。」


扉の外からそう声をかけられた。


え?朝食?


なんで今日は早いんだ??なんか予定はいってたかな!?


「坊ちゃま??」


混乱しているともう一度声がかかった。


「すっ、すぐ行く!」


急いで身だしなみを整えれば、時計の針が7時を指していることに気づく。


もう7時!?


こんな時間まで寝てしまっていたなんて!


いつも通りの時間に起きていたつもりが大寝坊している。


もうすでに兄様は起きてる時間だ。


これじゃ今日は朝のご挨拶できない!!


学園が休みの日は、馬車に乗らないから朝と夜しか兄様にちゅーできるチャンスがないのに……


その貴重な一回を失ってしまうなんて


自分の失態に落ち込みながらも僕は大慌てで部屋を出た。


♢♢♢


「ふぅ……間に合ってよかった。」


なんとか父様と兄様を待たせずに食堂へ行くことが出来た僕は静かな朝食を終えて自室に戻って来た。


そんな僕の心は沈んでいる……。


「あぁー!兄様に朝のご挨拶できなかった!」


勢いよくベットへダイブすれば、ボフッと受け止められる。


こんなこと一度だってなかったのに!


それを引きずってしまい、朝食の時間だって、せっかく兄様がいるのに兄様が食べ物を口に運ぶたびにちゅーのことを思い出してしまって、大変だった。


兄様にちゅーしたいよおおお!!


「ううううううううう!!!!」


枕に顔を埋めて叫んでいると、外から声が聞こえてきた。


「では……振……から」


「……しく………ます」


「ん!?兄様の声がする!!」


ベットから降りて、窓から外を伺えば兄様と剣術の先生が素振りをしている。


しまった!!今日だ!!


毎週太陽の曜日は兄様の剣術の稽古の日なのに、寝過ごしたせいでそれすら忘れちゃうなんて


僕のおばかさん!!


僕は自分の頭をぽかぽかと殴る。


失敗が失敗をよぶとはまさにこういうこと


僕は急いで部屋を飛び出した。


「フッ!フラン様!?」


「廊下を走っては危ないですよ!」


廊下を凄まじい速さで駆け抜けていく僕に掃除中のメイドさん達が驚いている。


「ごめんなさい!急いでいるので」


そう声をかけて通り過ぎていく。


「あぁ、きっとファラン様の稽古を見にいくのね」


「でもいつもは早くから庭先に隠れていらっしゃるのに、今日は珍しいわ」


「フラン様、あれでバレてないって思ってるみたいよ」


「ええ!?あんなにまるわかりなのに!?」


そんな会話がされてるとはつゆ知らず、

庭に辿り着けばバレない様に植物の間に身を潜める。


僕がいるとわかると兄様の邪魔になってしまう可能性があるからだ。


「はぁ……はぁ……。」


息を落ち着かせながら植物の間からこっそり覗けば、


「じゃあ始めるぞ」


「お願いします」


互いに礼をしてから剣を構える。


兄様と先生で打ち合いが始まるみたい……!


二人は間合いを図り、攻撃の機会を伺い合っている。


「はっ………!!」


「っ!!……っと!!!」


先に動いたのは兄様だ。

師匠に切り掛かるが上手くいなされてしまうが、もう一度攻撃を仕掛ける。


あ、またかわされた……。


先生が攻撃を交わし、すかさず兄様の懐へ斬り込む。兄様は受け止めるがパワーで押されている感じがする。


「おいおい!こんなもんかお前の剣は?」


「……っ!!はあっ!!」


兄様が先生の剣を弾き返した!


兄様……。頑張って……。


僕は硬く指を握りしめて応援していた。


軽い打ち合いのはずなのに、本気の戦いを見てるみたい。


しばらく打ち合いは続き


カキンッ!!!!!!


「……くっ!!」


最後は兄様の剣が弾き飛ばされ師匠が勝利してしまった。


「あぁ!!」


思わず声が出てしまい、自分の口を手で塞ぐ。


二人には気づかれてないみたい。


よかった……。


「流石は俺の教え子だ。教えたことがちゃんとできてるぞ。」


「……はい。」


太陽の光が兄様の頬を伝う汗を照らす。


師匠の話を真剣に聞きながら兄様は無造作にその汗をぬぐう。


くっ……。兄様の色気が……!!


「だが今日のお前の剣にはお前の意志がない。集中できていないのがバレバレだ」


「すみません……」


ええ!あんなにすごかったのに、兄様集中できてなかったの!?


なんでなんだろう……。


疑問に思いながら兄様の剣術の稽古を最後まで応援することができた僕は、すっかり機嫌を取り戻していた。


朝のご挨拶できなかったことをいつまでも悔やんでても、しょうがないよね。

次から寝坊しないようになにか策を考えよう。


それにしても、稽古している兄様もかっこよかったなぁ!!


この時の僕はまだ知らなかった。

これからもっと落ち込む出来事が起きるなんて………


それが起こったのは夕方だった。


「危ない危ない。父様に書類を渡すの忘れてた。」


父様の書斎へ向かうために廊下を進んでいると


「…………から………………………る。」


「……く…………い。」


誰かお客様でもいるのかな??


時間をおいて、また来ようかな。


そう思い、引き返そうとすると兄様の大きな声が聞こえた。


「お断りします!!」


その言葉に僕の足はピタリと止まる。


兄様!!??


いつも落ち着いてる兄様があんなにおおきなこえをだすなんて


なんの話をだろう??


書斎のドアのそばまで近づくと、次に聞こえてきたのは衝撃的な言葉だった。


「私にはもう大切な人がいるのは父様も知ってるではないですか」


!!!!!!


兄様に大切な人!?


今、凄く僕の表情筋が仕事しているような気がする。


「お前の気持ちはわかっている。その上でこの話をしてるんだ。」


「わかっているのならどうして見合いなんて」


「お前が本気で………」


なんとか気を保ち話を聞いていたが、耐えられなくなり途中でその場を離れる。


急いで自室に入り込めば、先ほどの話を思い出す。


兄様は既に恋人と父様公認の仲で……。


だけど父様はお見合いをもってきた?


もしかして、父様は兄様の恋人をよく思っていない!?


なんてこった!!


僕が知らないところでそんなことが起きてただなんて!


手に持ったままの書類にくしゃりと皺がよる。


「あっ」


やってしまった。


大切な書類なのに……。


何回か手で皺をなでつけるが、書類は元にはもどらない。


もういいやと諦めてゴロンとベットに横になった。


兄様に恋人かあ……。


そうだよね。兄様はあんなに素敵なんだからいるに決まってる。


それでゆくゆくは結婚して、子供ができて……。


未来を想像していけば喜ばしいことのはずなのに、気分はどんどん沈んでいく。


でもそれはきっと、兄様離れをしなきゃいけない時なんだってわかっていたからなんだと思う。













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