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5 トウチュウカソウ

唐突に告げられたその言葉に、彼女はセラクの方を向いたまま呆然と固まった。張り詰めた静寂が、二人の間に重く横たわる。


だが、それも束の間、フラウは「ぷっ……あははは!」と吹き出すように笑い始めた。


「……なんで笑うんだ?」


「急に笑ってごめんね。でも……本当に言葉足らずだなぁって思わず……ふふ」


再び少し笑った後、困り顔で答えた。


「う〜ん……。それもいいかな、って思うけど……。やっぱり少し嫌かなぁ」


「死ぬのが、怖いのか?」


「怖い、のかな。優しい貴方のことだから、きっと私が眠っている間に、痛みも苦しみも無く終わらせてくれるだろうけど。でもね、死んでしまった後がどうなるのか、私には分からないから。こうして生きている今だって、周りの音が何も聞こえなくなった時の真っ暗な闇は、とても怖いのだから、きっと死の先にある世界も怖いのだと思う。……けれど、これはそうじゃないの」


「……?」


「貴方は覚えているかな。パパがいなくなってすぐの頃、私に聞いてきたでしょう?――自分たちは何のために生まれ。何のために生きているのか、って」


それは生まれて直ぐに死の運命にあった彼女と、人でない自分が、一体何者であるか故の、互いに対する問い。


「あの時は答えられなかったけど……。今はね、これだって思える答えがあるの」


そう語る彼女の顔からは、恐れは微塵も感じられない。


「私はきっと、貴方と出会うために生まれて、貴方がいてくれるから、今こうして生きているの」


優しい微笑みがあって……。


「貴方に聞かれてから、ずっと考えていたの。なんでこうなっているんだろうって。でも、いくら考えても理由は分からなくて……。だから、もしもこの身体が治ったらどうなるかを想像してみたの。でもね、たとえ足や目が治ったとして、この赤ちゃんのように小さな足が普通の大きさにまで育って歩けるようになるのか、長年閉ざされていた目が見えるようになるのかは分からない。結局、今と大して変わらない生活が待っていると思う。だから……今の私にとって、コレを治すことは大して重要じゃない」


口にする言葉の一つ一つに、確かな意思があり……。


「私は、貴方が答えを見つけるまでの、ほんの暇つぶし程度にお世話をしてくれたらそれでいい。だけどね……貴方が私という存在に縛られて、いつか後悔するなんて事はして欲しくないの。だから、その時が来るまで……」


それもまた、望みであるのだと……。


「貴方の傍で、生きさせてほしいかな」


――その「時」というのが、まさに今この瞬間でもあるのだと、首を差し出しているようだった。


だから、俺は「そうか」とだけ言って、彼女の方へと手を伸ばす。


ゆっくりと近づくその手に、彼女は身じろぎひとつせず、避けるような反応もない。


セラクの手は彼女の横をすり抜け、そのすぐ下、ベッドの上にある衣服を取って振り向き、別の洗濯用桶の中へと放り込み、そして、洗濯用に取り分けておいた残りの無臭の液体を注ぎ入れた。


背後から短い笑みのあと、何かを呟いたようだが、聞き取れなかった。


俺には理解が出来ない事だ。


それは俺が人でないからか…。そもそもそう言ったモノなのかは分からない。


きっとフラウは、あのまま俺が首に手を掛けたとしても、穏やかにそれを受け入れていただろう。


これまで、俺は幾百、幾千回と死にかけてきた。


それはこの世界で生きる為にと、サゴリュセに何度も殺される寸前まで追い詰められ、知識と共に戦闘の技術を徹底的に叩き込まれたからだ。

――「安全なときにこそ、死を間近に経験しておくものだ」

あの男はそう言って、俺に一切の手加減をしなかった。


俺はただひたすらに藻掻いた。死なない為に。苦しまない為に。


そう、必死に藻掻くのだ。


凶暴な異中でさえ、四肢が折れ裂け、頭の半分を失った死に損ないになろうとも、最期の瞬間までこちらを殺すとばかりに抵抗をしていた。


それなのにサゴリュセもフラウも、それを受け入れている。


人という存在がそうなのか。あるいは、その状態ゆえなのか。それとも二人が特別なのだろうか。


理解が出来ない。


だから、彼女を殺さないのは、彼女の為というよりも自分の為だ。


分からないそれを、理解するために。


彼女が死ぬという選択はいつでも、いくらでも簡単にでき、そして必然的なもの。

反対に、生かすという選択は難しく、死んだ後には出来ないものだ。


死んでからの後悔は分からないが、生かす後悔なんてこれまで感じてないのだから、無いに等しい。


もし…それを理解する事が出来たら…。


もし…彼女が死んだら…。


もし…万が一にも…彼女の病が治ったら…。


彼女は…。


俺は…。


思考の混濁に呼応するように、右手がグジュグニャリと不気味に波打ち、人の形を失いかけのながらも、再び滑らかな白い外殻の手に戻った。

その様子を見て、チラリと彼女の方へと視線を向ける。

こちらの気も知らないで、彼女は呑気な様子で、相変わらず楽しげに鼻歌を口ずさみ続けていた。


分からない。


だが、分からないからこそ俺は、俺の納得のいく答えの為に…。


彼女をできる限り生かし、この世界を生きていくのだろう。


その時まで。

ここまでが一話分となります。この作品は『WITHUOOM HSASTE』(投稿期間があいてますが)の派生となります。もともと考えていたキャラが本編で間接的に情報などが登場するかも……という感じで考えているうちに、どんな世界で生まれた、どの様な最後になって出てくるのかと、考えたものだから最少と最後は決まっていて、その間を埋められるかなぁ……って感じです。第二話に関しては既にできているので一週間以内には出したいと思います。

投稿期間が開くのは、本編を書いていての反省です。(書いてる途中で、前のここおかしくないかな。ああすれば良かったなど)その為、不定期となりますが宜しくお願い致します。

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