表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/105

82 精霊騒動【休養日には異世界人とお茶を3】

 そんな二人の遣り取りを見ていたミラが、勘違いしてそうなユリに助言する。

「ユリさん。精霊さんっていうのはぁ、いろんなものに宿るんですけどぅ、何に宿っていようとぉ、精霊さん以外の何物でもありませんよぅ」

「あ~、はい」


(つまり、このボディは大きな操り人形で、存在の本質ではないってこと?)


 ユリが返事だけして、心の中で美少女(じつは精霊人形)のことを考えていたら、何も口に出して言っていないのに、当の本人から返事がくる。

「だいぶ違うけど、説明が面倒だから、それでいいよ」

 そう言って少女がOKを出すと、少女の一方的な発言に気付いたミラがユリに注意する。

「ユリさん。

 精霊さんには人の心の声が聞こえてますからぁ、変なこと考えたりしたらだめですよぅ。いつもみたいに精霊さんに悪戯(いたずら)して見ようとか考えるのは、もっての外ですからねぇ」

「ええっ!? 頭の中で丸裸ですかっ!?

 っていうか、いつもみたいにって何ですか! 私、精霊さんと仲良くしたいって思ってるだけで、悪戯(いたずら)なんてしませんよ! 変質者じゃないんですから!

 いやそうは言っても、う~ん、何も考えないとかはできないし……」

「ほほぅ、少女であるあたしを裸に剝いて確認したいだと?」

「ユリさん。精霊さんに、そんな酷いことしちゃだめですよぅ」

「し、しませんよ!

 ミラさんが変なこと言うから、この子と一緒にお風呂に入ってるシーンを思い浮かべちゃっただけだけです!

 それより、お嬢ちゃん。

 いくら精霊さんでも他人(ひと)の心を読むのは駄目ですよ!」

「あんたが勝手に見せて来てるんでしょ」

「そんなわけないでしょ!

 って、そうか!」


(じゅげむじゅげむごこうのすりきれかいじゃりすいぎょのすいぎょうまつうんらいまつふうらいまつくうねるところにすむところやぶらこうじのぶらこうじぱいぽぱいぽぱいぽのしゅーりんがんしゅーりんがんのぐーりんだいぐーりんだいのぽんぽこぴーのぽんぽこなのちょうきゅうめいのちょうすけ)


「ちょっと、あんた何いきなり変な呪術始めてんのよ」


(さんてんいちよんいちごぅきゅうにぃろくごぅさんごぅはちきゅうななきゅうさんにぃさんはちよんろくにぃろくよんさんさんはちさんにぃななきゅうごぅぜろにぃはちはちよんいちきゅうなないちろくきゅうさんきゅうきゅうさんななごぅいちぜろ)


「あ~~もうっ! 数字は頭が痛くなるからやめて~~!!」


(かんじざいぼさつ ぎょうじんはんにゃはらみったじ しょうけんごうんかいくう どいっさいくやく。しゃりし しきふいくう くうふいしき しきそくぜくう くうそくぜしき じゅそうぎょうしき やくぶにょぜ。しゃりし ぜしょほうくうそう ふしょうふめつ ふくふじょう ふぞうふげん。ぜこくうちゅう むしきむじゅそうぎょうしき むげんにびぜつしんい むしきしょうこうみそくほう むげんかい ないしむいしきかい むむみょうやく むむみょうじん ないしむろうし やくむろうしじん むくしゅうめつどう むちやくむとく。いむしょとくこ ぼだいさつた えはんにゃはらみったこ しんむけいげ むけいげこ むうくふ おんりいっさいてんどうむそう くうぎょうねはん さんぜしょぶつ えはんにゃはらみったこ とくあのくたらさんみゃくさんぼだい。こちはんにゃはらみった ぜだいじんしゅ ぜだいみょうしゅ ぜむじょうしゅ ぜむとうどうしゅ のうじょいっさいく しんじつふこ こせつはんにゃはらみったしゅ そくせつしゅわつ ぎゃてい ぎゃてい はらそうぎゃてい ぼじそわか。はんにゃしんぎょう)


「いや~~! や、止めて……。

 止めろって言っとるじゃろうが~~!!」


 クレアが最後には怒鳴りつけてきたが、そのときには既に顔面蒼白になって、全身をカタカタと震わせていた。


「勝った、さすが般若心経……。

 ていうか他人(ひと)の心を読むのをやめなさい!」


 ユリは、子供のころに覚えた寿限無と円周率と般若心経は、何か考えている時でもバックグラウンドで暗唱することができた。他人からは確認しようのない無駄な特技なので、これまで一度も(ひけ)らかすことは無かったが、その特技を、この少女の前で使ってみせて、思考の覗き見を邪魔することに成功したのだった。

 じつをいうと、ユリは前の世界でも、般若心経を魔除けとして夜中にこっそり唱えることがあった。こっちの世界に来てからも何回か唱えている。もちろん般若心経は魔除け目的の経典ではないし、ユリにはサンスクリットの文字を読むことも思い浮かべることもできないので、漢訳の般若心経を日本語で音読みしただけであり、その言葉にどれほどの効果があるのだろうかという疑問はある。せめて漢字で写経すれば効果もあるのだろうが、それだと時間も掛るし面倒くさいと思ってる辺り、般若心経の有難さを少しも分かっていないユリであった。


(あれ?

 そういえば、この子が私の心を読むときに、自動翻訳ってどうなってるんだろう? 覗き魔にまで翻訳サービスしてたりはしないよね? 相手の言語とか関係なく読めてる?

 般若心経がどう聞こえてるかは、ちょっと気になるわね)


 ユリたちが瀕死の男を脇に置いたまま不毛な会話を続け、ユリが妄想に(ふけ)っていると、遠くから若い男の声が聞こえてきた。

「お~い、クレア~!

 一人で勝手に物騒なところに行かないでくれ~~」

 その男は何と言うか、頭を金髪に染めた日本人に見えなくもない。男はそのままユリたちの所まで走ってきて、少女の足元に転がっている男を一瞥すると、肩で息をしながら大きく溜息をついて少女に語り掛けた。

「クレア、おまえなー、またやっちまったのかよ。

 悪人狩りは面倒なことになるから、もう()めろって言ってるだろうが。

 それで、このお二人さんは?

 おまえに襲われてないってことは、悪い人じゃないんだろ?」

 なかなか怖いことを言う男だった。しかも、その発言を聞く限り、この娘は本当にデーモンスレイヤーのお仲間で常習犯だったらしい。ユリが近くに来た男をよく見ると、肌の色は白人系、金髪でグレーの瞳、それでいて顔つき、とくに鼻の形が日本人だった。

 駆けつけてきた男の言葉に、クレアと呼ばれた少女が答える。

「こっちの黒髪は変な()だけど、私のことを助けるつもりだったみたい。

 でも、その後で虐められた」

「ちょっと! 変な()って、どういう意味よ!

 それに虐めてなんていないでしょ!

 あんたが他人(ひと)の心を読むから躾をしただけです」

 ユリが反論するが、クレアはそれを無視して続ける。

「あと、そっちのお姉さんは、私のことが分かるみたい」

 その答えを聞いた男が警戒心を露わにしたので、ユリが話をする。

「私はハンターのユリって言います。この子がそこの男に(さら)われそうだったんで、二人で駆けつけたんですけど、必要なかったみたいですね」

「ああ、そういうことでしたか。ご迷惑をおかけしました。

 俺は、アルバートって言います。そして、この()はクレア。

 失礼ですが、クレアのことはどこまでご存じで?」

「めちゃくちゃすっごく、死ぬほど重かったです!

 私がぎっくり腰になったら責任取ってもらいますからね」

 ユリがそう答えると、クレアが顔を赤くして反論する。

「こいつが今訊いてるのは体重の話じゃないじゃろうが!」


(あれっ?

 なんていうか、さっきもそうだったけど、う~ん。

 クレアさんって、怒ると口調が変わる子?)


 ユリが変なことに気がつく中、ミラがのんびりと話し出した。

「紹介が遅れましたぁ。わたくしはぁ、ハンター・パーティー『ラッシュ・フォース』のミラと申しますぅ。そちらのお嬢さんはぁ、かなり大きな陶磁製人形さんを素体にしていてぇ、かなり沢山の精霊が憑依されてますねぇ。どこかの森の精霊を丸ごと連れてきてしまったんでしょうかぁ?」

「あたしが好きでこの身体(からだ)に憑依したわけじゃないわよ。

 こいつが私で遊ぼうとしてやらかしたの」

「おい、クレア。誤解を招くような言い方をするんじゃない!

 俺は男性型のビスクドールに、森で集めた精霊を霊性付与しただけだ。そうしたら、こいつが勝手に今の姿になっちまったんだ」

「ビスクドール??」

 ミラが疑問に思うのも無理はない。この世界にビスクドールはまだ存在しないし、その言葉もないのだから。

「あの、ちょっとお伺いしますが、アルバートさんは、そのビスクドールをどこで入手したのですか?」

 ユリが訊ねると、相手は隠すことなく素直に答えた。

「ああ、ビスクドールっていうのは、顔や胴体、それに手足を、陶磁器の材料にする粘土で作った人形で、一度焼き固めた後に(うわぐすり)を塗ってもう一度焼いたものなんですよ。ただ、どこにも売ってないんで自分で作りました。普通は中を空洞にして軽くするんでしょうけど、それだと壊れやすいので、中に鉄心を入れて中身も詰まってるんで重いんです」

「この大きさの陶磁器にしても、かなり重いように思いますけど」

「あぁ、それはね。こいつは元々、俺が話相手になってくれる男友達が欲しくて、俺と同じくらいの背丈の成人男性の人形として作ったからですよ。それなのに、こいつが憑依したら勝手にこんな姿になっちゃって。俺としても困ってるんですよ」

「何を言うておる。おぬしの深層心理の求めに応じて、この姿になったと教えたじゃろうが」

「ちょっと待て、それじゃ俺がロリコンの変態みたいに聞こえるだろうが!

 それと、その爺さん臭い喋り方はだめだって、いつも言ってるでしょう!」

「アルバートさんって、そういう人なんですか?」

「断じて違う!!」

「ふふっ、ユリさん。精霊は変態の願いを聞いたりしないですよぅ。

 クレアさんは、人形に憑依するときにアルバートさんが妹さんか誰かを思う心を読み取ってしまったんでしょうねぇ」

「クレアさん、そうなんですか」

「う~ん、気がついたときには、この姿になってからな~。

 アルバートには世話になってるし、アルバートがそれでいいなら、そういうことにしておこうか」

「でも、少女に変身したなら、なんで重いんですか?」

「精霊が憑依して見た目が変わっただけで、物理的な性質が変わっていないからですよ。だから体重は元のビスクドールの重さのままです。肌や髪の毛に触れたときも、普段は偽装していて少女のような手触りと感触なんですが、こいつが人を殴るときは鉄心の入った石の棍棒のようになります。

 クレアは見た目が可愛いから、こいつと一緒に道を歩いていると、子供が疲れてそうだから抱っこしてやれとか、肩車してやれとか、余計なことを言ってくる奴がいるんですけどね。こいつの体重のせいで、俺はクレアを抱っこすることも肩車することもできないってのに、冷たい視線を向けられるんですよ。まったくもって迷惑な話です」

 その情報にユリが反応した。

「それで、クレアさんの具体的な体重は?」

「だいたい二百四十キロぐらいですね」

「二百四十キロ! そんなに重かったんですか!

 雄のマウンテンゴリラ並みですね。そしてあの戦闘力。

 これはもう歩く鈍器です。

 クレアさんの二つ名は『鈍器コング』にしましょう!」

「誰がするか!!」

「やっぱり手垢にまみれた(もじ)りじゃだめですか。何か別の名前を考えておかないといけませんね」

 そんなユリの決心を見ていたアルバートが、ミラに言う。

「ユリさんって、随分と変わったことに拘る人なんですね。でもクレアとは気が合いそうでよかったです」

「ふふっ、面白いことになりそうですねぇ」

 ミラの微笑みは、とても妖しげだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ