第7話 ギルドで買取り
― Side ラウス ―
ダンジョンでの疲れを癒した俺はシャラとセノビアを連れてギルドへ向かった。目的は素材の売却と???装備の鑑定だ。
ギルドの買取所に行くとパーティー名を『弓と鞄』にしに行ったときの受付嬢がいた。黒髪ショートの受付嬢で赤いカチューシャが特徴のお姉さんだ。
「素材の買取りをお願いします」
「あら、ダンジョンに行ってきたの?」
「はい。今回は六日間だけ潜っていました」
「そう。それで魔物の素材はどこかしら? ギルドの外に置いてあるの?」
俺はアイテムポーチからコケ鰐を出してみせる。
受付のお姉さんは目を見開いて驚いた。
「アイテムポーチです。ダンジョンで倒した魔物は全てこのポーチに入っているんですよ」
「そ、そうなの。驚いたわ」
「アイテムポーチのことを知りませんでしたか?」
「いいえ。光の国アポロンで発明されたとても便利な魔道具だと聞いたことがあるわ。
でも凄く希少で貴族でも中々手に入らないと聞いていたのに…もしかして君は家が凄かったりするのかな?」
「いえ、ただの冒険者ですよ。このアイテムポーチは運良く手に入っただけです。それより買取りをお願いします」
「え、ええ。分かったわ。そっちに魔物を置くスペースがあるからそこでお願い」
「分かりました」
受付嬢の指示通り学校の体育館ほどある広い場所に倒した魔物を並べて出していく。アイテムポーチのおかげで丸ごと持って来られたのでかなりの量だ。
「たくさんありますねー。それに状態もいいです。査定に時間がかかりそうですので金額の受け渡しは明日でも構いませんか?」
「わかりました」
「私はシイカといいます。何かあったら受付で呼んでください」
「シイカさん。俺はラ、…バルです!」
「はい知っていますよバルさん」
「あっ、呼び捨てで構いません」
やだ、なんかゴキブリ殺す名前みたいじゃん。
それにしても偽名は使い慣れないな。
「それでシイカさん、ダンジョンで宝箱を見つけたので装備品の鑑定をお願いしたいんですが…」
「それはおめでとうございます。鑑定はあちらの小部屋でできます」
一番聞きたかった鑑定所も分かり、シイカさんに一礼してすぐに鑑定所に向かう。
「いらっしゃい」
鑑定所に入るとカウンターの前にローブを着た男が座っていた。顔はフードで隠れていて声には覇気がない。
「この4品の鑑定をお願いします」
「ああ」
男は俺の渡した装備品を手に取り細かく見つめている。
数分して全ての鑑定が終わった。
宝箱の装備品の内容はこうだ…。
・???の短剣 = 風の短剣 レア度☆
・???の篭手 = 鎧竜の篭手 レア度☆☆☆
・???のバックラー = アナライズバックラー レア度☆☆
・???の双剣 = 風昆虫の双剣 レア度☆☆☆
レア度の☆が多いほど貴重なものとなる。
☆ = ノーマル
☆☆ = レア
☆☆☆ = 家宝級
☆☆☆☆ = 国宝級
☆☆☆☆☆ = 伝説級
☆☆☆☆☆☆ =神話級
☆は最高が6でノーマルとレアは武器屋や防具屋で金を払えば購入できるレベルらしい。今回は☆☆☆の武具が二つあったので鑑定士の男性に別途料金で詳しい説明も聞いてみた。
『鎧竜の篭手』は素材の方に価値があり滅多に手に入らないものらしい。鎧竜シリーズを揃えようとするマニアに高値で売れるとのこと。
『風昆虫の双剣』はジェネラルマンティスという蟷螂の魔物の素材で出来た武器で黄緑色に薄く輝く刃は美しく、芸術品としての価値も高い。武器としての性能も高く、【風属性】、【軽量】、【切れ味・中】の付与効果がある。
鑑定士には冒険者を続けるのなら手元に残したほうがいいとアドバイスを受けた。ギルドとしては売ってもらったほうが嬉しいのではないかと聞いてみると、「鑑定士は中立でギルドにも冒険者にも肩入れはしない。だが強い武器を持っていれば冒険者の死亡率も下がり探索も順調になる。そうなりゃまたここに装備品の鑑定に来るだろ?」。
俺は鑑定士のその言葉に好感を持った。
今度からもこの人に見てもらいたいな…。ついでに『アナライズバックラー』の効果も知りたかったので聞いておく。
『アナライズバックラー』は攻撃を防いだ時に効果を発動する。その攻撃に毒があれば盾が紫に光り呪いならば赤く光る。
防御系のスキル付与はないのであまり人気のないバックラーらしい。それでも俺は見た目が気に入っているし何より初めてのダンジョンで見つけた装備だから大切に使おうと思っている。
鑑定士の男性は『アナライズバックラー』の情報は無料にしてくれた。
俺はお礼と装備の鑑定の報酬を払う。一つの鑑定に半銀貨5枚だった。この鑑定士には今後もお世話になろう。
「ご主人様、これからどうします?」
ギルドを出るとシャラが聞いてきた。
俺としては数日の間は休暇としてのんびりしようと思っている。精神は十分に休めておかないと次のダンジョンはかなり潜るつもりだからな。
それにやってみたいこともある。
「なあセノビア、俺に剣術を教えてくれないか?」
「剣術を? ラウス様はそんなことしなくても十分強いと思うけど?」
「いや、ずっと拳で戦うってのも微妙だしな。それに今回手に入れた『風昆虫の双剣』を使ってみたいんだよ」
「そういうこと…。いいわよ~。ダークエルフ数千年の歴史を誇る『死邪暴風流双剣術』を教えてあげる」
何その中二全快の流派。全力でお断りしたいんですけど。
俺はセノビアに双剣術を教わることにしてシャラも魔法の訓練に力を入れていた。ダンジョンでの魔物の素材は金貨2000枚でギルドが買い取った。桁を間違えているんじゃないのかと驚いたが魔物の肉も大量にあるので妥当な金額らしい。
普通の冒険者の一回でのダンジョンの稼ぎが金貨50枚程度なので俺達は四十倍稼いだことになる。これは上級冒険者並みでひとえにアイテムポーチのおかげだろう。倒した魔物の素材を丸ごと鮮度そのままに持ち帰れるのだからな。ランクも一つ上がりDランクになった。
それから一週間で俺は『死邪暴風流双剣術』の初級認定をセノビアから受けた。流派の名前はともかく結構実用的で後40年も修練を積めば死邪暴風流双剣術最終奥義『死邪暴風』も習得も不可能ではないとセノビアに褒められた。
ダークエルフの寿命から考えれば40年という年月は短いのかもしれないが俺にとっては才能なしと言われた気分だ。
絶対に最終奥義を極めてやる!
双剣術も上達してもう一度ダンジョンに向かおうと手続きでギルドに訪れると思わぬイベントが発生した。
「お前が噂のルーキーだな?」
声をかけてきたのはフードを深くかぶった女性だ。
服装は安物布を胸と腰に巻いているだけで武器も古びた剣のみ。体は鍛え上げられており褐色の肌に長い金色の髪をしており、その佇まいには風格がある。
ハスキーな声も魅力的でフードの中身はさぞ美しい女性だろうと連想してしまう。…豚鼻さえなければ。
「そこで一杯やらないか? 話がある」
「間に合っています」
年上のお姉さんからの魅力的なお誘いだが豚鼻じゃね…。
「なっ! どうして断る!?」
無視してギルドへ入ろうとする俺を豚鼻女性は呼び止める。
「豚鼻だからだっ!!」
そう男らしく言ってやりたかったが俺は紳士。女性に向かって「ブスだから断る!」とは言えない。ここはオブラートに包んで丁寧にお断りをしなければ。
「なっ! 私が豚鼻だからだと!」
エスパー!?
そう思ったけどどうやらしっかり口に出してしまっていたようだ。
俺って正直☆
「ふざけるなっ! 確かに私はオークとエルフのハーフだ。だが親に譲り受けたこの鼻の事を馬鹿にするのは許さんぞ!」
何っ!? オークとエルフのハーフ!?
な、なんてもったいない! 見た目美人エルフなのにただ一点豚鼻の遺伝子が全てをぶち壊している!
これはエルフへの冒涜だよ!
「知るか豚女! とっとと失せろ! 見ていて吐き気がするんだよ!」
「き、貴様-!!」
「何だ? その豚鼻切り落とされたいのか?」
「ぶっ殺そす!」
ブチギレた豚鼻エルフが剣を抜いて襲ってくるが俺に焦りはない。
俺は即座に無詠唱の風魔法を発動、見えない風の玉を豚鼻エルフに放ち吹き飛ばした。
「ぐっ、馬鹿な! 呪文もなしに魔法を…」
「まだやるか?」
これ以上続ける気なら死邪暴風流双剣術の餌食にしてやる。
「くっ! 覚えていろよ!!」
俺が『風昆虫の双剣』を構えると豚鼻エルフは悔しそうに走り去っていた。
「へっ、雑魚が」
「ラウス様も中々えぐいな」
「そうですね。私があれと同じことをご主人様に言われたら死にます」
セノビアとシャラが非難めいた視線を俺に向けてくる。
何だよ? 悪いのは豚鼻だろ?
俺は自分が悪役になろうともエルフを汚すものを許しはしない!
「全く、無駄な魔力を消費しちまったぜ」
豚鼻エルフに使用した分の魔力をミスリル剣から補充しようと軽く手を伸ばす。しかしミスリル剣に触れることなく手が空振る。
「あれ?」
そこで意識をミスリル剣へと向ける。目で確認しても装着していたはずのミスリル剣がどこにもない。
慌てて腰周りやアイテムポーチ、【アイテムルーム】まで調べるがどこにもない。
「えっ、嘘だろ?」
呆然として自分の顔から血の気が引いていく。
「どうしたんですかご主人様?」
俺のその様子を心配したシャラが声をかける。だが今の俺はそれに答える余裕なんてない。
頭の中で何十もの思考を繰り返し、ようやく落ち着いたところで…。
「嘘だろおおおおおおおおおおおおおおおおおおォォっ!!!」
思いっきり叫びました☆
ミスリル剣紛失イベントが発生した。




