最終話 魔法チートのなれのはて
― Side ラウス ―
俺の魔力の源たるミスリル剣。それが無くなっていることに気づいた俺はアホみたいに取り乱した。いや、アホになっていたのだと思う。
背中に剣をつけてないか顔を向けようとして体ごとその場で何回転もさせ、「落ち着いてくださいご主人様。背中にも剣はありません!」と注意された。シャラの言う通り自分を落ち着かせようとアイテムポーチから水筒を取り出して水を飲もうとして、「落ち着きなさい! 水筒が逆さまよ!」とセノビアに指摘されるまで俺はアホみたいに水筒の底に口をつけていた。
二人が俺を落ち着かせようとしていたが、結局ミスリル剣がなくなったことにパニクった俺はシャラとセノビアに命令して「剣を見つけるまで戻ってくるな!」と怒鳴ってしまった。
そのあとは一人で家まで帰ったが道中の記憶がない。
それから三日も一人で家の中で過ごした。
食事は最低限の果物だけ口に入れて喉が渇いたら水を飲む。あとはもう頭がこんがらがってひたすらベッドに倒れていた。
「ふざけんなよ…どうすんだよこれ…」
もう完全に詰ゲーである。
俺の魔力はミスリル剣から補充していた魔力500だけで、その後豚鼻エルフに風魔法とこの三日間での義手の維持で残りは400程度…。このまま何もしなくても義手の維持で魔力は消費され一月後には完全に枯渇するだろう。
そうなれば俺の両腕は動かなくなり魔法が使えなくなるのだ!
「尻も一人で拭けねーよ…」
介護が必要になる。
今までの稼ぎで金は持っているから生活は余程贅沢でもしない限りは大丈夫だ。だが異世界に来て魔法が使えなくなり冒険もできなくなる。それは死ぬよりも辛い罰だ。
テレビ、ゲーム、漫画、パソコンといった室内で楽しめる娯楽が皆無な異世界で家にこもっても退屈すぎる。
「俺のバカ…どうしてミスリル剣をもっと大切に保管していなかったんだ…もっと無くさないように厳重に管理していれば…早く魔力回復の方法を研究しておくべきだった……いや…それよりもまず他のミスリルに魔力を移して分けて置けば…」
なんてこった。
神様お願いです。もう悪いことなんて絶対しません。調子にも乗りません。だから僕のミスリル剣を返してください。お願いします。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
二年の時が過ぎた。
あれから家でいくら待とうともシャラとセノビアが帰ってくることはなかった。二人はミスリル剣を見つけることができなかったのか、それとも俺に呆れて逃げてしまったのか。…今ではどうでもよかった。
俺の両腕のアームは魔力切れで動きが停止して邪魔なので外してある。
生活は不便で手助けが必要なため奴隷をもう一人購入した。そいつに家事や俺の世話を全て任せる。
それから数年は奴隷に世話をさせて家にこもりっきり。
魔法もアームも使えない俺は異世界に恐怖したのだ。人さらいや盗賊が当たり前のように存在する異世界でもう外へは出たくない。
家も安全とは言えないがそれでも外よりはマシだ。布団に潜って目を瞑り何も考えないようにする。
俺はこのまま一生をこの退屈な世界で終えるのだろう。
「…死にたい」
今日も俺は何も無い部屋で空白の一日を過ごすのだろう。
これが魔法チートだった俺のなれのはてか…。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
…という夢を見ていた。
「はっ! 夢オチ!?」
あまりのリアルかつ恐ろしい自分の未来を見て冷や汗で体中ぐっしょりだ。
「あんな未来は絶対にごめんだぞ」
やばいっす。マジガクブル。
こんなところで現実逃避している場合ではない。なんとしてもミスリル剣を取り戻して魔力ラインを確保せねば。
最悪見つからなかったとしてもあの二人を連れ戻さないと。
「シャラ! セノビア!」
俺はすぐに家を出て街に向かう。
二人を探すため残り少ない魔力も惜しまずに使った。既に三日も戻ってないからこの街を離れた可能性もある。それでも街中をしらみつぶしに捜索した。
日が暮れるまで探したが二人は見つからなかった。
魔力も切れてしまい両腕が動かなくなり歩いて家まで帰る。帰り道で何度も後悔した。どうして二人にあんな命令をしてしまったのか。
俺はこの世界に来て本当に大切なものを見失っていたのだろう。
「馬鹿だ俺…」
肩を落として家に帰り着く頃には空が明るんでいた。体中汗や土だらけで汚れてしまっているが気にもならない。
もう俺の失ったものは何も戻ってこないのだから…。
家の扉を開けようとして両手が動かず、取っ手を掴むことができないことに気づく。どうしようかと考えていると勝手に扉が開いた。
「…あれ? 何で?」
「ご主人様!」「ラウス様!」
そこにはシャラとセノビアの姿があった。
「どこに行っていたんですか! 心配したんですよ!!」
「本当にどれだけ心配させたと思っているのよ!」
二人は俺の体を心配そうにさすってくる。
ああ、俺は今度こそ間違えないよ。
「二人共…お疲れ様!」
何もなかったように俺は笑顔で言った。
部屋の中、テーブルの上に銀色に輝く一本の剣が見える。




