‐Ⅶ.悪の総統は相当な悪‐ 6
全周を結界で囲まれており、爆発の熱量も極大であったため、煙が引くまでにすでに数分経過していた。だが爆発の余燼が晴れてきても、吹き飛ばされた肉片や、数を減じるところも見せず新手の敵が姿を現すだけで何一つ好転していない。
エメラルドとテトラは、能力のリソースのほとんどを使用中であるため、戦線から一歩引いたところに下がる。その二人を背後にかばうようにして、ヨキ、セラフ、シャオリンは武器を手に横一直線に並んだ。
「ねぇ、伯爵」
セラフが遠慮がちに声をかける。
「お、おい伯爵ッ」
シャオリンがもじもじしながら声をかけるのも同時だった。
「スーツユニットの活動限界があるんだけど。敵ってどんくらいいるの?」
「お、お手洗いの限界が近いんだけど! 休憩時間っていつなの?」
「……」
ヨキは落ち着き払って両脇に立っている、それぞれ限界を訴える二人の少女の顔を順に見る。
彼は充分に溜めてから、今の心境を端的に口にした。
「……えっ?」
『えっ?じゃないの!』
少女たちは声を唱和させて彼を怒りつけた。自分に非はないのに八つ当たりされたヨキは憮然となったが、セラフの言葉は無視できない大問題だ。
一度ほとんどの敵が殲滅されたはずだったが、煙が晴れるころには広大な土地を埋め尽くすほどの敵がひしめいていた。醜悪な屍体が意思を持って迫り来る構図は、圧巻の一言に尽きる。
「限界はあとどれくらいなんだ」
「アクティビティとかダメージにもよるけど、もって一時間ってとこね」
セラフが緊張した面持ちで爪を噛む。命のやり取りをする戦場であることを充分に自覚しており、声の色に真剣な焦りが感じられた。
「ボクはあと数分しか」
「貴様には聞いてないが」
「ムカツク!」
ヨキが冷たく言い放つと、内股になっているシャオリンが食って掛かる。世界の命運を賭けた戦いをしていたはずなのに、生理現象と戦っているだけではぞんざいな扱いを受けても仕方ないことだろう。シャオリンが心中穏やかでないのは分かったが、ヨキは見られただけで凍り付きそうな無感情な目つきで見返す。
「……無様」
最早、シリアスな緊張感は微塵もなくなっていた。それぞれの理由で青ざめた顔をしているものの、心も課題もバラバラになっているのだから手に負えない。それもたった一人がギャグみたいなピンチに陥っていることが原因なのだ。
「な、なんだよ! こっちは一大事なんだぞ!」
「真のアイドルは小も大もしないらしいから我慢しろ」
「無茶言うなよ! ボクだって恥を忍んで言ってるんだからな!」
「うるさいなあ。おもらしキャラとかさすがの伯爵もドン引きだぞ」
「そんなキャラ付けするかああああ! もうヤダ、なんでボクばっかりこんな目に……」
スカートの裾を自由な片手で押さえて内股でもじもじしている様子は、動機さえ不純でなければさぞや世のアイドルファン諸氏をどよめかせただろう。
そんなものは完全無視してヨキは黒刀に気力をみなぎらせる。敵は目前まで迫っていた。
「セラフ! もうなんかアレなくらいグダグダだがほっといてゆくぞ!」
「オッケー! とりあえずとにかくとんでもなく足手まといのはほっとくわ!」
「うわん! セラフの裏切り者!」
二匹の獣が、亡者の群れに飛び込んだ。
「一刀・六道ッ、『畜生道』!」
ヨキが全力の運動エネルギーを肩からの当て身で敵へぶち当たる。と同時、間髪を入れずに刀を持った手での肘打ちから斬り下ろしへと繋いで、一刀のもとに斬り伏せる。その流れでヘソの位置で両手持ちになると、別の敵へ向かって刀を返すようにして自分の背中を押し込んだ。
「一刀・一斉ッ、『臥龍』!」
一本背負いの要領で振りぬく黒き刃が、動く屍体をただの肉塊へと還す。敵に囲まれないためには絶えず動きつつ、少ない手数で確実に仕留める必要がある。ヨキの黒刀は振るわれるたび、巨躯を確実に葬り去っていった。
セラフもその目に闘志を燃やしながら、しかし冷静に戦況を見つめていた。
「ロード、昏黄波紋・フレイムロード!」
敵を焼きながら進行を阻む炎の壁。それを目眩ましに、燃え盛る剣で敵を斬り捨ててゆく。敵の巨躯を駆けのぼって次から次へ飛び移っていき、一振りごとにぱっと火柱が上がる様は、まるで炎と戯れているようだった。
「天壌紅炎圏ッ『オーバーロード』!」
ひときわ敵が集中しているところにたどり着くと高く飛び上がり、きらびやかに火炎を纏う。
「絢爛紅蓮王、群烏!」
掲げた炎の剣が無数の火の粉を撒き散らし、それが意思を持ったように敵へと襲いかかった。




