‐Ⅶ.悪の総統は相当な悪‐ 2
「結論から言おう。次元の向こう側からここに、侵略の橋頭堡となる次元の穴を開けようとしているのだ」
ヨキは大真面目な顔でそう告げる。しかし、大事な一語が抜けていた。
何を尋ねれば良いのかも分からず、あっけにとられていた少女たちだったが、科学的好奇心に駆られたテトラが半ば無意識に尋ねる。
「だ、誰が? どうやって?」
「無論、異次元に住まう者だ。情報は多くない。ただ、貴様らが科学だけでなく、おとぎの力を手にしたように、奴らは魔法だけではなく科学と異能に関するノウハウも手に入れた者、とは言えるな」
「あらっ?」
ごく自然に、ヨキは音もなく身を翻して一瞬のうちにエメラルドを左手に抱き込んでいた。何が起きているのか分からず間の抜けた声を上げるエメラルドだったが、微かに目に映った剣閃が全てを物語っていた。
振るわれた黒刀が、突如として現れた赤黒い巨躯を斬り捨てたのだ。
「すでに戦場だと言ったはずだ。……あとビンタはやめてください」
「ご、ごめんなさい、つい」
そうしおらしく言いながらもエメラルドは、自分の柳腰を無遠慮に抱き寄せる腕を必死に引き剥がそうとしていた。彼女が実力派の女優なんて呼ばれているとは思えないほどに赤面していることなどつゆ知らず、ヨキは再び周囲に気を張っている。
「コイツ、どこから!」
叫びにも近い非難の声を吐き捨てるセラフ。少女たちは身構え、そしてどこからともなく──穴もない地面から這い上がるように、あるいは逆巻くつむじ風の中からせり出すように、赤黒い肉塊が現れるのを目にした。そいつらは怨讐とも怨嗟ともつかない声で、天へと届く絶叫を衝き上げた。
「ぎ・やあああああああああ!? なんか出たあああああ!」
「えぇ……」
それにも負けない声でシャオリンが泣き叫んでいた。腰が抜けたように、自分より小さいテトラにすがりついている。気勢を削がれたヨキは、映画の巨大な怪獣も斯くや、という声量の少女をチラチラ気にしながら指示を飛ばす。
「エメラルド!」
「は、はい!」
急に呼ばれて背筋をピンとするエメラルド。
「辺り一帯を封鎖しろ! 全力でだ!」
「伯爵、もしかして私の力を……?」
「セラフ! 暴れろ!」
ヨキは質問には答えず、大音声により敵の標的になっていたシャオリンをテトラから引き剥がすと、加速度的に次々と現れる敵をおびき寄せて戦場を縦に突っ切った。それを見送ってセラフは不承不承ながらも指示に従い剣を抜く。
「暴れろって何よ。ったく、アタシに命令するなんて……何様のつもり!」
「オバケいやああああああっ! 助けて! 助けてえええええええ!」
ヨキが小脇に抱えた少女は、バトンだかステッキだかを一心不乱に振り回して、今や津波のように押し寄せる化物を片っ端から薙ぎ払っていった。ヨキはそら恐ろしい気持ちで手の中の少女に目を落とす。
「なんという火力ッ。突貫力こそセラフに譲るものの、これだけ広範囲にたいした殲滅力だ」
「伯爵、伯爵ー! わたくしは何をすればよろしいんですの?」
ただ一人、テトラだけが命のやり取りをしている実感が欠けたまま、手を振りながらのんびりとそんな問いかけをしていた。ヨキは足を止めず敵陣に斬りこみながら、エメラルドが結界を展開するのを確認してからテトラに指示を飛ばす。
「テトラ! 『四番目の座標』を特定しろ!」
「!」
それが何を意味するのか即座に理解したテトラは、年に似つかわしくない妖艶な笑みを浮かべていた。口角を上げた艶やかな唇から、熱っぽい声が漏れる。
「伯爵ったら、わたくしのことを酷く持ち上げてくれたものですわね。ふふっ、承りましたわ……!」




