‐Ⅵ.自分探しの旅って言うけど旅なんか出なくてもお前はそこにいるんだぜ‐ Interval
話は前日に遡る。
シャオリンの華々しい登場と、新ヒーローの登場シーンに欠かせない大活躍、つまりその敵であるヨキの無残な敗走がつつがなく終了し、その日もつまらないニュースが流れ始める夕刻のこと。テレビではシャオリンの華々しいデビューを、戦闘の映像がないぶん資料映像を用いながらことさら盛大に報道していた。
《続きまして四人目の仲間であるミスリスシルバーレイ・シャオリンのご紹介です。しかし残念ながら資料には正義の味方としての姿は変身のバンク映像しかありません》
女性ニュースキャスターが淡々と原稿を読み上げる様子を、ヨキはパンの耳をかじりつつ、苛立ちながら観ていた。
押しも押されもしない人気ニュースキャスターである彼女の名前は、霧雨あえか。若手ながら浮いた話のひとつもなく、番組中にこぼす笑顔は営業スマイルのみで、タブロイド紙ですら性格やプライベートを全く掴めないでいる。
最近になって初めて装飾品を身につけるようになり、すわ男の影かと一時期その話題で持ちきりになったが、結局真相は分かっていない。何よりヴルガリの中では安価なイヤリングだったため、相当稼いでいる女性に男性が送るものとしては不適当だからと、すぐに噂は打ち消されてしまったのだった。
きりっと整った眉目、アップにした髪、右の泣きぼくろ。人を惹きつける容姿と、ただ忠実に職務だけをこなすストイックな姿勢、そして神秘のベールに包まれた私生活が、ミステリアスな雰囲気を演出しているようだ。『キャスターデビュー』から三年間、他局を含めたニュースキャスター人気ナンバーワンの座を守り続けている。
そして、思慮深き夜ヨキ伯爵の逆鱗を逆撫でする能力は世界の誰よりも優秀だった。
《こうしてシャオリンの活躍により、秘密結社パーリナイッはサタデーナイトフィーバーして夜空の星になりました。残念ながら続編でステインアライブとはいかないもようです》
「うまいこと言ったつもりか! それと原稿書いた奴は何歳なんだよ! テレビの前のお父さんお母さんにも伝わらないからね!」
よせばいいのにテレビに向かって噛みつくヨキだが、それでキャスターが報道をやめるわけでも、ヨキの気が晴れるわけでもない。傍目にはかえって苛立ちが募っているように見えた。
《社会に出る前にきちんと挫折と成功を経験していないと、こうして自分にできることとできないことの分別ができない大人ができてしまうんですね。しつけのなってない犬と同じです。これからは駄犬と呼びましょう》
「大きなお世話だ! ってか本当に原稿にそう書いてあるの!? 人格攻撃になってしまうのは、私は行けないと思うぞ!」
《死ねばいいのに》
「絶対書いてないだろ!」
《なるべくすり潰される感じで》
「お前だったの!? 十円チョコでわらしべ長者されてしまった! 返せ!」
叫び声を上げながらブラウン管テレビをガタガタ揺さぶるヨキは思慮もへったくれもない有様だった。
「ヨキくん落ち着いて~!」
後ろからルナリエが袖を引いて宥めていたが、怪獣映画さながらの迫力に彼女は戦々恐々としていた。もちろんヨキのみっともない姿に恐れおののくのはルナリエくらいなものなのだが。コトハとガルガンチュアはそれぞれ、部屋の片隅でインバネスコートに針を通したり、チラシの次回作に没頭したりしている。
「はー……はー……」
伯爵怪獣がひとしき暴れまわったが、狭い室内に誇りが舞っただけで被害は軽微だった。物を壊しても己の損害になることは分かっていたヨキが自分をセーブした結果であろうが。それでも、腰にしがみつくルナリエの存在に気づかないていどには取り乱していたようだ。
「ルナリエ、すまない。もう大丈夫だ。……ルナリエ?」
すっかり平静を取り戻すヨキ。それもへばりついているルナリエが一向に離れようとせず、すぐに怪訝顔になる。むやみに露出が多い彼女がその肉感的な体をぴったりくっつけていると、ヨキは直視できないが、ルナリエが何を思い、そしてなぜ震えているのかは分かりきっていた。
「私が何かしてしまったか」
違うと分かっていながら、そんなことしか言葉にできない。案の定ルナリエは、ヨキの胸にすがりついて頭を振っていた。
「ゴメン、ゴメンねヨキくん……私やっぱり、笑顔で見送るなんてできないよ」
気づけばコトハもガルガンチュアも、手を止めてうつむいたまま動けずにいた。
「ヨキくん、明日あなたは……」
「あぁ、やはり私は戦場に赴くことにしたよ」
端的に告げるヨキの声は──凄烈な決意を秘め、あるいは確信に満ち、何者にも揺り動かすことができないのだと感じられた。
しん、と部屋が静まり返る。
ヨキは静かに身支度を始めた。




