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正義よ 傲岸なるその悪を討て!  作者: 斉放
‐Ⅴ.物語のタイトルにチョコレートが入ったら十中八九は萌え系‐
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‐Ⅴ.物語のタイトルにチョコレートが入ったら十中八九は萌え系‐ Interval

 ◇ ◇ ◇


「じゃ~ん! ヨキさま、一日あけた今日になってこんなものが届きましたよ!」

 コトハが両手で指し示した机の上には、山のようにチョコレートが置いてあった。ちなみに秘密結社イグナイトは最寄りの郵便局に私書箱があるので応援のお手紙も送ることができる。みなさん、ヨキ伯爵に応援のお便りを!

「ほ、ほほーぅ。甘いものはあまり得意ではないが、無辜なる民の想いまでむげにはできんからな」

 嬉しくて顔がほころんでしまうのを咳払いでごまかし、どれどれとメッセージカードに目を通す。なかなか凝っているものも多く、見ているだけでもそれなりに楽しめた。

〈お仕事がんばってください!〉

〈まぁあなたの仕事も一定のニーズがあるようで。せいぜい励みなさいよ〉

「……うむ。思慮深き夜・ヨキ伯爵の存在意義を分かる者がいようとは。見込みがあるな」

 まんざらでもないどころか、子どものような笑顔を浮かべて二度三度と読み返す。肯定的な女性からのメッセージがある一方で、男からのものもあるようだった。

〈あんたの不正義は見ていてとても興味深く、いつも考えさせられる。ところで何をもって正義と定義するか問いかけるとき、あえて直接的な言葉にしないのは、暗黙の決まりごとでもあるのだろうか。正直に結末が気になっているのでぜひ最後までやり遂げてくれ〉

〈おもろい。がんばれ。超がんばれ〉

「まったく……悪の総統に励ましや謝辞など送るやつがあるか」

 口元をほころばせながら、いくつか並んでいる十円チョコをひとつ手に取ると、添えられているメッセージを開く。

〈十倍返しね。ヴルガリとかでもいいけど。お返しは別にあしたすぐでも良いですよ?〉

 笑顔がこおりつく。

「ふむ。十円チョコを十倍してもヴルガリにはならんな。さぁ次だ、次」

 見なかったことにして手早く次のカードに目を通した。

〈って言うか死んでくれません?〉

「……十円チョコって等価交換を無視していいことになってるのか? まぁいい、百年生きて玄孫(やしゃご)に囲まれながら安らかに大往生してやる。次」

〈なるべくすり潰される感じで〉

「さっきの続き!? 十円チョコでどこまで要求するんだ! えぇい、次!」

〈感動しました。よければ俺をもらってください。三十年物のヴィンテージですがまだ誰にも開封されていません〉

「よかったな、未開封で。次」

 ポイと横に投げ捨てる。むげにしない想いにも採用基準があるらしい。

〈宗教に興味ありませんか?〉

「好き好んで危険なものを選ぶのは仕事と女だけにしている」

 重なっているチョコレートの上のほうはまがりなりにも好意的なメッセージだったが、下に行くと珍妙な言葉のオンパレードだった。普段はあまり役に立たない直感が働く。

「私の前に誰か中身を見たり、並べ替えたりしなかったか」

 答えは分かりきっているのでガルを見ながら尋ねた。

「包装紙を破かないように開けるのに苦労しました」

 自信に満ちた顔だ。キラキラといい汗をかいているのが癇に障った。

「九割は触っただけでなぜか手がかぶれたり、かみそりが入っていたり、そもそもチョコレートじゃなくて劇薬のトリカブト的なものもあったので、もう一度封をするのにも細心の注意を払いました」

「うむ。いらぬ気遣いご苦労であった。あと最後のはむしろトリカブトだろ」

「恐悦至極」

「あー、ガルルンだけずるい! コトハも働いたんだから褒めてください!」

「よし、その残念な頭を撫でてやろう。ニューロンやシナプスも静電気で活性化されるかもしれん」

「わぁい! ♪かっせいかっ、かっせいか~」

「……くっ、泣けるッ。なにやっても残念なままな気がしてきた」

「うわぁ、感謝感激、感涙の感無量ですか?」

「感動のあまり言葉にできんよ」

 全くかみ合わないやり取りに疲労を感じて嘆息する。

 そこでヨキは机の山の向こうに別のものを見つける。

「ん? なんだこの和菓子は。ほかとは毛色が違うな」

「あ、それはコトハが使用済み切手を役所に持っていったとき、窓口のお姉さんにいただいたお饅頭とかアメちゃんです!」

「ほう。って、お前が行ったのか?」

「ハイ!」

「そのままの格好で?」

「ハイ!」

「ネコミミについて何か言われなかったか?」

「ハイ! あ、耳ですか?」

(今、ノリだけで返事したな)

 いちいち指摘する気になれず心の中だけにとどめておく。

「うーん、頭を撫でてもらいましたけど何も……。でも撫でながら『あれ?』とか『取れない』とか変なこと言ってました。ゴミでも付いてたんですかね。それともお仕事で疲れて、見えちゃいけないものが見えていたとか……」

「安心しろ。役所の人間は、すでに退職した団塊たちの残した『負の遺産』でいつでも疲れているぞ」

「そっかぁ。『フノイさん』って誰だか分からないけどドンくさい人なんですね。あ、だから残されちゃったのかぁ」

「残念すぎるだろ」

「ハイ! ってあの、な、なにか? 見つめちゃイヤンです」

 ヨキの視線の意味が分からないコトハは、見つめられて赤面しながら顔を伏せる。両手を左右の頬に当てて熱を冷ますしぐさだ。

「実に残念です。これが女ではないなどと」

「急に何を言い出すかと……そうなのか?」

 ガルが口を挟むことで、話がなお迷走した。

 水を向けられたコトハは慌てたせいか手をバタバタさせた。

「そそそれは! こここんな可愛いのに女の子なわけないじゃないですか!」

「いやさらに分からんが、そういうものか」

「ソウナノデス! じゃなきゃガルルンの食卓に並んでしまうのデス!」

「いやはや、ご主人がコトハを食べないのがようやく合点がいきました」

「私は確かに肉を口にするが、牛と豚と鶏のほかは好まんぞ」

「またまたー、そう言う意味の食べるではありませんよ、変態紳士伯爵」

「言いたいことはたくさんあるがそんな性格だったか? それとコノヤロウ」

「まだ登場回数が数えるほどなので性格が定まっていないのでしょう、特殊嗜好伯爵」

「設定上の問題とか苦しい言い訳は──上等だコノヤルァッ!」

「ダメー! コトハをめぐって喧嘩なんてしちゃダメぇぇって言ってみたかったのー!」

 止めに入ったコトハだったが途中から願望が叶った喜びの声だった。

 それからコトハが勘違いによる感激で抱きつき、意外なほどの膂力にヨキが身動き取れなくなって事態は収拾した。


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