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正義よ 傲岸なるその悪を討て!  作者: 斉放
‐Ⅴ.物語のタイトルにチョコレートが入ったら十中八九は萌え系‐
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‐Ⅴ.物語のタイトルにチョコレートが入ったら十中八九は萌え系‐ 4

 ◇ ◇ ◇


 学校は少し憂鬱だった。

 代わり映えのしない昼休みの光景。思い思いの仲間たちで固まっているが、そぁらは誰ともつるむことなく窓の外をぼんやりと眺めていた。なお学校での彼女は、ショートボブに赤いふちのメガネ少女だ。

 校庭では自由時間にもかかわらず部活動の自主練習に取り組んでいる者もいる。黙々と真面目に走り込みを続けるその女の子の姿に、そぁらは羨望のようなものを感じていた。

《全員の変身後の姿が明らかになりましたが、まだまだプライベートは謎に包まれています。サンタ社からの情報は断片的で、そこから彼女たちの普段の姿をうかがい知ることはできません。その正体をお茶の間にお届けする日がくるのでしょうか》

 そぁらのすぐ横では、男子が集まって携帯電話のテレビを見ていた。

「なぁ、この中で誰が一番カワイイと思う?」

 進歩のない男子の会話は、そぁらにとって『明日も晴れるでしょう』くらいの価値しかないものだ。女と見ればすぐに可愛いだの胸がどうのと同じ論争を繰り広げ、女が何人か並ぶと今度はどの子が好みかとか、とかく話題がテンプレートどおりで変化がない。

 けれどそれくらいのことなのに、今日はなぜか聞き耳を立ててしまう自分にあきれた。

「ん~、そりゃやっぱ、いつもメインでがんばってる子でしょ。あの――」

 ぴくりと、そぁらは緩みそうになる口元を自覚して頬に力を入れる。

霧雨(きりゅう)あえか」

 ニュースキャスターの名前だった。

「はああああっ!?」

 イスを蹴っ飛ばして立ち上がると、隣の男子たちは飛び上がって驚いた。

「うおっ!? びっくりした!」

 そのままものすごい剣幕で掴みかかる。

「なんで男子ってそういう目でしか女の子を見れないワケ!」

「何怒ってんだよ! 何に怒ってんだよ!」

「落ち着けお前ら! ってかスオウはそうやってフラグ立てすぎなんだよ!」

「はあ!? ワケ分かんないこと言ってんじゃないわよ!」

 直情的なところがあるそぁらだったが、それにしても沸点が低すぎた。セラフの名が挙がるのかと期待してしまった自分への恥ずかしさからの反発もあったかもしれない。

 ともあれこのくらいなら、この教室ではよく見慣れた光景だった。互いにさんざん好き放題に当り散らして、ぜぇはぁと喘鳴だけが後に残る。いつもどおりで、つまらなくって、目新しさが全くなくて、くだらない。

 校庭をひた走る少女と、実はそんなに変わらない毎日を過ごしていることに、その場の誰一人気づかない。青春とはそんなものなのに。

「みんな、やめて~」

「?」

 消え入るような仲裁の声が聞こえてきたのは、すっかりケンカが収まってからのことだった。

「あ、いいんちょ」

「ぐすっ。みんな、ケンカなんてダメだよ~。仲良くしよ? ね?」

 長い黒髪を揺らしてなぜか涙ぐんでいる第三者の姿に、そぁらたちはバツが悪くなってしまう。当事者たちが鼻息荒くして感情のままに衝突しているが、この委員長は言ってみれば関係ないのに心を痛めてくれているのだ。他人の痛みに不感症な現代っ子でも、引っ込み思案なのに多感な少女を泣かせることは気が引けた。

「だってさ~いいんちょ、聞いてくれよ。前にクラスの女子をそんな目で見ないでってスオウに怒られてからは、有名人でしかそんな話してないだろ。あれもダメこれもダメって、スオウの言うことなんでも聞かなきゃいけないのかよ~」

「なっ。あ、あれはあんたたちがイヤラシイ目でアタシのこと見てたからでしょ。男子って女の子なら誰でもいいのね。この節操なし」

 そのセリフでまた男子に火が着く。

「誰が節操なしだよ!」

「節操ないじゃない! 誰にでも欲情して! あー怖い怖い!」

「誰でもいいわけないだろ!」

 第二ラウンドが始まると、二人をなだめようとしていた男子たちも距離をとった。委員長の必死の説得が続いていたが、こうなると届くことはないだろう。

 仲間の男子たちは遠巻きに見守りながら、気の毒そうな視線を送った。

「なぁ、スオウってさ」

「うん」

「フラグブレイカーだよな」

「……そうだな」

「えっ、ナニナニ? 何の話?」

「誰でもいいわけないもんな、って話」

 別の女子が話を聞きつけて興味本位で首をつっこむ。核心には触れないいきさつを軽く聞くとすぐにピンときたらしく、しみじみとうなずいた。

「罪作りな女ね~」

「だろ?」

「そこ、どういうことよ! アタシの味方はいないワケ!?」

 似たような感想が漏れるのを耳ざとく聞いていたそぁらが非難の声を上げた。しかしそれもクラス中の好奇の目を助長するだけだった。

 女子が一人加わると誰も彼もと増えていき、堰を切ったように輪が大きくなっていく。

「えとあの、止めないと――」

 戸惑っている委員長に別の女子が親指を立てて見せた。

「いいんちょ。クラスがまとまったの、体育祭のとき以来だね」

「え? ……ほ、ホントだ!」

 ぱあああっ、と顔を輝かせる委員長。

 クラスが一丸となったときだった。

「アタシは!? アタシは省かれてるけどいいの!?」

 教室のドアから中をのぞきながら、古株の女教師がウンウンとうなずいていた。

「青春ねぇ」

 五時限目の授業開始は、決着がつくまでの三分間、繰り下げになった。


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