‐Ⅴ.物語のタイトルにチョコレートが入ったら十中八九は萌え系‐ 3
りぁむが満腹のご満悦状態で現れたのはそれからすぐのことだった。
「話は聞かせてもらいましたわ! とりあえず世界の危機ね!」
「絶対聞いてなかっただろ。あと口のまわりをふけ」
ヨキは冷静に突っ込むが、当の本人はまるで聞いていない。
「セラフ、わたくしも手を貸しますわ!」
変身。ぺかー。
「くそっ、なんでどいつもこいつもろくに話を聞かないんだ」
悠長に変身している少女の横で、なぜかセラフが不敵な笑みを浮かべている。
「フフフ……アンタ、おしまいね。命ごいしたって許さないわよ」
「なんだその意味深な笑いは。それと貴様、正義の味方とは思えんセリフだぞ」
「言ってなさい。今のテトラは、この前より輪をかけてお腹いっぱいよ」
「なにッ!? 前の壊れたときももう、なんていうか――ヒドイなんてもんじゃなかったが、それよりもさらに上を行くのか!?」
ヨキは愕然とした。そうこうする内にテトラは変身を終えていた。
「お待たせですわ! わたくしが来たからにはシュレディンガー・シュレッダー!」
「のっけから!?」
テトラは変身するなり武器を呼び出した。日曜大工や十三日の金曜日によく目にするチェーンソーっぽい器物を振りかざす勇姿に、ヨキはただ慄然とするしかない。チェーンの刃の部分が二つ並走するいかにも殺傷力の高そうな独特の外装は、よく見ればウサギをモチーフにしてあるらしく、ちょうどウサ耳を突き出して構えているようだった。しかしディーゼルエンジンの重低音が響いていたり、持ち手である左手はウサギの口に突っ込んでいたりで、かわいさを追求しているコンセプトは台無しだった。
「せんめつ――じゃなくて説明しますわ!」
「今さらりと何を言い間違えた? あのー、正義の味方さんたまには普通の武器で清々しく戦ってみませんか?」
ヨキの悲壮感が溢れる必死の呼びかけも虚しく、テトラは生き生きと解説を始めた。
「物質の持つ質量には『振れ幅』がある――それは光と同じく、空間もまた粒子と波の性質を持つからですわ。そして何らかの理由で振れ幅が振り切れたとき、分子や原子のレベルでは質量の明滅、あるいは消失が起きていますのよ。あなたもわたくしも、原子レベルではどこかに消え続けていますの」
「聞け。いいから聞け。まずは聞けって。聞いてほんと頼むからまじで」
「このコはその振れ幅をあるていど操作して、本来はそれぞれでランダムに明滅する無数の原子の集まりであるあなたを、全体でいくつかの振れ幅に変えてしまうのですわ! つまり細切れにして異相へ飛ばすことが可能ですのよ!」
長々とした口上が終わると、初めぼんやりと何かを考えていたヨキの表情がだんだんと蒼白になっていく。
反応が薄くてテトラには不服だったか、コホンと咳払いしてから付け足す。
「かみ砕いて言うと任意でおこせる神隠し現象」
「なにそれこわい」
背景へと引っ込んでしまったセラフへ視線を向けると、悪の総統も真っ青な表情でほくそ笑んでいる。視線を戻すとウサギの耳は『ヴイ〜ン!』と腹の底を揺さぶるような居心地の悪い重低音を響かせ始めた。どう見ても電磁的機関が搭載されているのにエンジンの音が聞こえるのは、完全に趣味の産物だった。
「コンセプト以前にその武器、外観がすでに危険すぎるだろ」
「悪人は消えなさいませー! ……物理的に」
ボソりと付け足す言葉を聴いた瞬間が、十三日の金曜日の幕開けだった。
「うぎゃっはああああああああああああああああああああああっ――」
どんなに革新的な名案も支持されなければ異端だ。
ヨキのスポーツ脳理論が世に浸透するのは、惑星が逆回転を始めたころになるだろう。




