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正義よ 傲岸なるその悪を討て!  作者: 斉放
‐Ⅴ.物語のタイトルにチョコレートが入ったら十中八九は萌え系‐
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‐Ⅴ.物語のタイトルにチョコレートが入ったら十中八九は萌え系‐ 2

 たったの一ページで殲滅されてもめげないのが彼のいいところだ。

「もぉぉぉっ! こんなビラ撒いたりするのいい加減にしてよぉぉぉ!」

 普段は人の話を聞かずに元気さと勘違いを全開にしているポニテ少女が半泣きになっているのは、少しくらいは可愛げがあっていい。ちなみにその仲間たちは近くのハンバーガーチェーン店で遅めのランチタイムのようだ。談笑しているガラスの向こうの様子と、わめき散らす少女がいる街中のストリートではかなりの温度差があってシュールだった。

 変身前のそぁらは短めのポニーを揺らしていて、まるで悲劇のヒロインだった。

 『スポーツ脳の恐怖

 スポーツマンはスポーツ界でも芸能界でも現世でも短命です。無限会社イクナイ』


 人だかりの向こうで嘆いている少女には目もくれず、下校途中の学生を捕まえてはチラシの押し売りをするスーツの男は演説口調になって、興味本位のやじ馬に早口で語りかける。

「ゲームをやっている人間を見下す論調は簡単に支持するのに、なぜスポーツ脳は脊椎反射で拒否するんだ! スポーツマンがタレントに転向しようったって、勉強そっちのけで運動をしてきた人間が俳優にも芸人にもなれるはずがないのだ、芸能界でも短命に決まっている! スポーツもゲームもどちらも趣味娯楽に過ぎないのにゲームだけが市民権を得られないのは、ゲーマーの涙ぐましい努力と時間とスキルを否定するものだ! 孤独で過酷なゲーム生活を送る“アスリート”たちは、賞賛や国家の支援など求めたりはしないのに! すべてのアスリートたちが真に公平に扱われることを、私は願ってやまない! 私の名はそう、思慮深き夜、ヨキ=リヒター=フェイブラッド!」

 ほとんど息継ぎせずに情熱的なひとり喧伝を披露すると、ばぁぁぁん、と自分で言いつつスーツの男はいい汗とともに正体を現す。

 そこへ斬りかかるそぁら。

「黙れ!」

 斬ッ!

「ぎゃあっ!」

 変身をする時間も惜しいのか、セーラー服のままいきなり斬りつけてきたそぁらの攻撃を、ヨキは悲鳴を上げながらなんとか躱す。前触れのない攻撃に、無分別な正義の味方を信じられないとばかりに見つめていた。

「何をアンタは――」

 そぁらは拾い集めたチラシを丁寧に整頓してヨキに押しつける。目を三角に吊り上げながら、チラシと一緒に人差し指を突きつけて大声で怒りつけた。

「何言ってんのよアンタはぁぁっ! そもそも、そもそもよ! 身体機能の維持と増進は健康と長寿の秘訣よ! スポーツをすることは誰に聞いたって悪いことだなんて言う人はいないの! 分かる!?」

「前半はきちんと理論になっていたが、後半は大衆に迎合する主観を総論しただけだな」

「ダメ出し!? ひそかにそんないいガタイしてスポーツ反対論とかワケワカンナイんだけど!」

「それは誤解と言うものだ。適度な運動は私も推奨するところだからな。重要なのは、若いうちにハードなスポーツを一心に取り組んだ者が、決して長寿ではないことだ。貴様の発言と矛盾するな」

「なんで悪人が健康にうるさいのよ! ってかスポーツマンが短命ってなによ!」

「論点がずれたぞ。にしても今日はやけに(から)む――ハッ、貴様さてはスポーツ脳か?」

「うがぁぁぁっ! うぅぅぅぅざぁぁぁぁいぃぃぃぃ!」

 そぁらは眉根を寄せて地団太を踏む。顔を真っ赤にしながら髪をさんざん振り回し、いつにも増してしぐさが幼い。

「貴様もそうとうだぞ」

 ポニー属性がないヨキは顔をしかめるのみ。しかもいつもと違って至近距離で大声が上がっているので、耳をふさぎたい衝動をこらえて目を細める。

「もういいわ!」

 何が、と問われるよりも早く、そぁらは赤のリボンをほどいて投げ上げた。

 ぺかー、と光を放って現れる戦士シャイニィレッド・セラフ。

 対してヨキは思わず半眼になる。きちんと抗議することも面倒そうに声を上げた。

「良くないが。ぺかーじゃなくてさ。聞けよ話を」

「どっちなのよ……」

 変身で力を使い果たしたようにそぁら――セラフが低く沈んだ声でうめく。

 しかしその瞳の奥にはめらめらと燃える激情の炎が宿っていた。

「アンタの言うゲームやってる連中をどうにかしたいのか、それともスポーツやってる競技者たちをどうこうしたいのか、どっちなのかでアンタの命運が変わるわ」

「正義の味方の高度戦術には脅迫もあるのか」

「こっちは遠征のためのお金を国に削られて怒ってんのよ」

「否定しないのかよ。しかし貴様、マイナースポーツの選手だったか」

「……そうよ。よく気づいたわね」

 セラフは不本意そうに口を尖らせる。

「競技人口が少ない。金が集まらん。補助金頼みになる」

 ヨキはこともなさそうに論拠を述べる。

 プロリーグなどでスポンサー収益をあげている野球やサッカー、ゴルフは国の補助金など必要としない。また国技である柔道や剣道などは、国からの補助金による支援を得て大会を運営している。マイナーなスポーツは補助金が削られるなど、しわ寄せを食いやすいのは今に始まったことではないが、それで困るのはその選手たちだ。

「しかし金が取り上げられたとしてもそれはやむを得んこと。公金である国の予算は、本来なら狭小(ニッチ)な枠に投入されない。金をかけてもその恩恵を受ける者が少なければ非難されるからな。スポーツと言えどそれは同じことだ」

「……フン」

 反論の言葉を持たない彼女は鼻を鳴らした。

「だが待ってほしい! この国のゲーム人口はかなりのものだ、逆にその論法で言えば、ゲーム業界にも補助を出してもいいのではないだろうかイヤ出すべきだゼヒ出そうっ!」

「そんなのアタシの知ったこっちゃないの!」

 急に目を輝かせたヨキの暴論もひどかったが、セラフにとってはどうでも良かった。アスファルトをガンガン踏みつけて再び声のトーンが上がる。

「そんなのソイツラが自分たちで集まってもっとちゃんと言いたいこと言えばいいことじゃない! なんで矛先が関係ないトコ向くのよ!

今でもみんな選手たちは窮屈な思いしてるのに!」

「ふむ。真理だな。さはされども、だ。されども言わずにはおれぬよ」

 両者の口が止まると、そのままにらみ合いとなった。手を伸ばせば届く距離にあって、セラフが安易に実力行使に及ばないのはめずらしい。


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