‐Ⅴ.物語のタイトルにチョコレートが入ったら十中八九は萌え系‐
『~バレンタイン終了のお知らせ〜
差別やいじめ、不平等の完全根絶を目指して。無限会社イクナイ』
黒髪の少女そぁらは、怒りに震えながらビラを破り捨てた。
「何度……何度言わせればビラを撒くのやめるのよ! ってか言ってることとやってることが結びつかないんだけど!?」
ヨキは正体をすでに表していて伯爵スタイルだ。あからさまに嘆息すると眉根を押さえて気だるそうに呟く。
「ふぅ、またお前たちなのか。いいかげん辟易としてくるよ」
「それはこっちのセリフよ! こっちのセリフよ!」
「まぁいい。それよりチョコレート販売業界主導のこんな不毛なイベントは、ミスタ・バレンタインの死を冒涜するものだ。ミスタについては、詳しくはウェブで」
「手ぇ抜くな!」
「考えても見ろ、ひとつもチョコレートをもらえなかった者たちの嘆きを。もらったらもらったで『三倍返しね』などと半笑いで命令される不条理を」
ヨキはヤレヤレと嘆息し、持っていた紙芝居をめくる。
「当たり前にそれ持ち出すんですの!? そのフリップやめてくださらない!? 第一なぜわたくしがその半笑いする女の子の役になってますのよ!」
ちなみに紙芝居に噛み付いたのは、りぁむだけだった。
けねぁとふぇむとはそれぞれ、困ったような、あきれたような顔をしている。
「今日はなんだかテンションがおかしいわねぇ」
「一行目と二行目以降で趣旨が百八十度違うし」
破られたビラが風で飛んでくるのをキャッチして手持ちのゴミ袋に入れていたヨキだったが、急に乱暴な手つきで袋ごと地面に叩きつけた。
「えぇい忌々しい! 『二次元のキャラにもチョコ届くのにお前らときたら』だと!? 人の傷口に塩を塗りこむようなまねを! この痛みは筆舌に尽くしがたいぞ!」
「自分から負けを認めてますわね」
「ってかひとつももらえてないの?」
りぁむとふぇむと、二人から気の毒そうな視線を浴びて我に返る。
「フ、フフッ。いかんいかん、悪の総統たる者、いつだってクール&ストイック。戦場に立てばグルーヴ&タフネス。フフ、フフフフフフフ……。それにバレンタインがなくなったとして、誰が損をする。クサいものにはフタの理論で言うなら、羨望と失望と血にまみれたこのイベントは無期限に停止するべきだ!」
「なんで血にまみれるのですかしら」
「どーせ自分チョコの食べすぎだろ」
決め付けたように言い放つのはふぇむとだ。
「……えっ? い、いやいやいや。伯爵はそんな軟弱じゃないから。自分チョコなんて、みずからを欺くようなことしないから」
年端のいかない少女の思いも寄らない決めつけが、ヨキをうろたえさせる。
「は、鼻血が出るほどの自分チョコ!? 少しだけ哀れになってきましたわ」
「でもちょっと優しくしたら付け上がるから」
「あーそれもそうですわね。かろうじて生きてるのがお似合いですわ」
「……」
さんざんな言われように思わず閉口するヨキ。
「……フフッ、フフフフッ。おい、そこまでにしておけ」
強がって笑みを浮かべるヨキだったが、少女たちは聞いていないどころか気にせず続けている。
「目が合っただけで好きになられても困りますわね」
「女の子と縁がないタイプがストーカーになりやすいんだ」
「でもあの人は行き着く先が悪の総統ですのね」
「その身を悪にやつしてまで世間に復讐がしたかったなんて」
二人は憐憫の情を目に浮かべ、哀れな総統に視線を投げかける。
「……」
ヨキは今まで感じたこのないような、いたたまれない圧迫感を覚えた。なぜかチョコをもらえなかったから悪の総統になったみたいな疑いをかけられているが、返す言葉が見つからない。
少女たちは深くため息をつく。
「世もまつですわね」
「世もすえだよ」
「おいやめろ。もうやめろ。やめて差し上げろ」
ドスの利いた声でヨキは制止を求める。これ以上は彼の尊厳が保てなかった。弁明に追われ、身振り手振りを交えながら必死に訴えかける。
「てかほら、ヨキ伯爵ってば人と群れるのが嫌いだからそんなのいんなくね?みたいな。むしろもう差し出されても、お前を不幸にするだけだって言って受け取らないし」
だらだらと流れる脂汗。平静を取り戻そうとわけの分からない理屈をこね始める。
そうする間に、
「もう……いいかげんに――」
そぁらが静かに変身を終えて、空間から燃え滾る剣を取りだしていた。
「しなさいっ!!!」
「えっ? うわ、ちょっ――」
一瞬後。盛大な火柱が街に響き渡り、断末魔の悲鳴は轟音にかき消された。
「あんぎゃああああああああああああああああああああああっ──」




