‐Ⅳ.テコ入れが高じてバトルものになったらそれまでの購買層が見限るから注意せよ‐ interval
◇ ◇ ◇
ふぇむとはピンクの魔法少女ルックで、恨めしそうにテレビを見ていた。ちなみにテレビでの衣装は国営放送で細々と放映されている児童向け番組のものだった。
「……カメラいなかったのに……なんで……」
羞恥から小刻みに震えながら、必死に耐えようとへの字にした口を引き結ぶ。
カメラを振りきって戦闘をしたので、彼女にとって恥ずかしいこの姿がテレビで本格的にお目見えするのは先延ばしになったはずだった。胸を撫で下ろしていたところでこの恥辱以外の何者でもない映像のオンパレードである。
正義の味方の変身が四人目まで解禁されると、テレビはどの放送局もそれ一色に染まった。あの姿がお茶の間に登場するのを恐れていた人物にとって、四人の情報を発したサンタ社は怨嗟の対象だった。
テレビではいつもの愛嬌のない女性キャスターが記事を読み上げていた。
《続きまして四人目の仲間であるミスリスシルバーレイ・シャオリンのご紹介です。しかし残念ながら資料には正義の味方としての姿は変身のバンク映像しかありません。かわりに日本オリジナルコンテンツ協会、JOCERより、まちかど人情ドラマ『てくてく魔法少女隊』の映像資料が入っています》
「あ、ぁ……ぅゎぁぁ……」
顔を覆いながらも指のあいだからテレビを見ている。
画面が切り替わると、ごく一部にしか知れ渡っていない映像を臆面もなく垂れ流しはじめた。世間的にはマイナーな存在だった『魔法少女隊』は、この日を境に否応なく国民的アイドルに祭り上げられてしまった。
《アイドルとして活動している五十鈴シャオちゃんは、番組中で『魔法少女シャオリン』に変身して困った人の助けになっているそうです。ここでも変身しているんですね》
「アイドル……なりたいのは女優なのに……」
キャスターの抑揚のない声は、そうではないと頭では分かっているのに、なぜか嘲笑しているように聞こえた。
「おやぁ? 話には聞いていたけど、事務所も本気だったんだねぇ」
「あ、朝比奈さん、おはようございます! いらしてたんですか」
「かしこまんなくていいから。ま、座んなさい」
現れたのは事務所の先輩女優の朝比奈縁だった。
ふぇむととは十も年が離れているのに上下関係というものを感じさせない、気風のいい女性だ。役を演じていない普段から人間味あふれる人物で、落ち着いた物腰と色気のある声に定評がある。背が高くすらりとしていて、ブラウン系のカラーリングとスリムなパンツスタイルがよく似合っていた。
ソファの隣に座ってしげしげとテレビに見入る。
「あなたがアイドルに転向するって聞いたときは事務所の考えが分からなかったけど、今になってようやく納得がいったわ。こういうセールスまで話が出来上がっていたのね。本物の正義の味方なんて、バックに政府もつくしこれ以上ない宣伝だわ」
縁のその言葉にも、テレビのキャスターの言葉にも、他意はないはずだった。だがふぇむとは素直に喜べない。
「……でも恥ずかしいんです。演技をやりたかったはずなのにアイドルやらされて、それもいつのまにかとんでもなく話が大きくなっちゃってるし。けっこうなお金をいただいてるから文句言う筋合いないとは思うんですけど、それってお金あげてるんだから仕事を選ぶなって言われてるみたいで――」
信頼している人には滔々と悩みを話しこんでしまう。彼女の数少ない悪い癖だ。縁は相談を受けてもアドバイスをするタイプではなく、ただにこやかに聞いていた。
『本番はじまりまーす!』
小さなスタジオ内に機械ごしの声が響いた。
「あ、ハーイ!」
スタジオ内には、声の主どころか共演者の姿もない。数台のカメラと青く塗った壁があるだけだ。
『じゃあよろしく』『よろしくお願いします』
機械を通して聞こえてくる監督の声に続いて、別のスタジオで同時に撮影している遠くの共演者の声。
テレビ業界では今、撮影はこうして別々のスタジオで収録され、のちにCGで合成が行われるのが主流となっていた。別撮りで行われたスタジオ内の映像は、技師によってひとつにまとめられることになる。もちろん背景も殺風景なスタジオから自由に変更できる。
ふぇむとも丁寧にあいさつを返すと、そのときにはすでに純朴な魔法少女の役に入りきっていた。
「じゅうぶん役者やってると思うけどねぇ」
縁は我が子の成長を見る親のように、嬉しそうに見ていた。




