‐Ⅱ.女が感情でものを言うときは黙って振り回されるのが男の甲斐性‐ interval
街は悪人にも寛容だ。居場所が少ないので誰かに蹴落とされないよう注意しなければいけないが、街がその存在をただ否定したりはしない。
たとえ社会に必要とされていなくても、居場所くらいはどこかにある。
「何を言っているんですか、ヨキさま〜」
「……」
全身が生々しい傷跡だらけでは、まるで説得力がないことは、本人が十分に理解していた。布団に横になり、コトハの手当てを大人しく受ける。
『こうしてサンタクロース社所属のギョティーヌロマンシア・テトラの活躍によって、悪の総統はなんやかんやで倒されて街の平和は保たれました』
今日もテレビは悪の総統をこき下ろし、平常運転だった。
なんやかんや、などと生やさしい表現では決して結びつかない地獄絵図がヨキの脳裏にフラッシュバックする。ちなみにニュースではテトラの武器が何十年も前のアニメで宇宙人が持っていた光線銃に書き換えられていた。
「うっ、思い出したら吐き気が……」
神経から性格まで図太く作られているつもりでいたのに、彼は自分で思うよりもずっとナイーヴだったのかと疑ってしまった。
「あ〜。一人でも厄介だったのに、もう一人あんな危険な者がいるなんて」
「それはもう一人だけですか?」
「……妙なところで鋭いな。考えないようにしていたのに」
コトハが屈託のない顔で疑問を投げかけると、ヨキの鬱屈とした気分はますます深みにはまっていく。
そうなのだ。最初にあとの三人が現れたときからうすうす勘付いてはいたが、ヨキの情報網によれば新たなスポンサーの数も同じだった。いずれ劣らぬ世界的な超一流企業だ。
最初のポニーテールの少女の名は、そぁらだったか。次の背丈の小さな白髪の少女は確か、りぁむ。変身後のインパクトが強すぎて変身前の名前は忘れてしまいそうだった。
変身前の名前はテレビでやその他一切のメディアで隠されてきたが、そこは秘密結社、敵の個人情報はすでにおおよそ掴んでいる。
敵を知り己を知れば百戦危うからず。悪の総統は地道な情報戦もお手の物なのだ。とは言え個人情報は予想外に無防備な反面で、セントアークローズ社や赫機関についてはついぞ尻尾すら掴んでいないのが実情だが。
「今日のアレは恐らく、先進技術およびその知的財産の積極保護と戦略的な技術共有コミュニティーをうたったペリドット社がスポンサーか。あとの二社は――くっ」
「あ、痛かったですか?」
薬師コトハ謹製の治療は丁寧だったが、それでもヨキは涙目だった。気を紛らわそうと敵方の傾向と対策を練る。
あとの二人は、けねぁとふぇむと。名前だけでも判明すれば、情報の探しやすさは格段に違う。
「そうだ、アンティークの流通から復元まで幅広くとり行う合同企業体、それからローティーン向けアニメ・ゲーム関連産業で権利関係の全てを総括する協会、だったな確か」
ヨキの世話をしているとき、たいていコトハは没頭しすぎて話を聞いていない。熱心なのはいいことだが自然と話が独り言のような内容になってしまう。コトハのほうも口を尖らせて妙な音程を口ずさんでいるので似たようなものだ。
今度の方針を整理し終えると、ちょうどコトハが薬箱を閉じたところだった。
「む。終わったか」
「いえ。先月補充したのに消毒液がもう全部なくなりました。こうなったら舐めて殺菌するのです」
それを聞き、ヨキは慌てて体を起こしてコトハから離れた。
「やめんか。猫の口内なんて雑菌だらけだ」
つかまれた腕を振り払おうとしているが、コトハは手放そうとしない。自信満々にさらなる治療に取り掛かろうとしたところを拒否されたからか、少し腹を立てているようだった。
「前にヨキさま、人間だって雑菌と暮らしてるようなもんだーって言ってたのに」
「ともかく舐めて治るなんて唾液に含まれる殺菌作用に比して猫の口の中はむしろヤバいだろ」
「ヤバいってなんですかヤバいって!」
「それはアレだぞ、日本人の美徳である婉曲的な表現であって」
「いつも貧相な語彙がなんとかとかボキャブラリーが貧弱とか言うくせにヨキ様のほうが言葉のバラエティがハラペコリーで激おこマリアナ海溝わだつみインパルス放水機ですよ!」
「知らんがな」
「ひどい!」
「それにザラザラの舌で手とか舐められたらビクッてなっちゃうだろう」
「なったらなったで面白そうです」
「や、止めろと言っている。これは命令だぞ!」
「スキあり、んべー」
「お、おいちょっ、やめっ放せ! あ……あ、ぁ……あふん!」




