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正義よ 傲岸なるその悪を討て!  作者: 斉放
‐Ⅱ.女が感情でものを言うときは黙って振り回されるのが男の甲斐性‐
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‐Ⅱ.女が感情でものを言うときは黙って振り回されるのが男の甲斐性‐ 4

「……ナニコレ、ですわ」

 もう一度眼鏡を掛けなおすためにわざわざヘッドホンをはずしてから眼鏡を装着する。芝居がかったしぐさで髪に指を通した少女は、今は懐かしいピンクハウス系のファッションをしていた。ウサ耳をつけて、とヘッドホンまで可愛く飾っている念の入れようだ。

 ヨキは演技をやめると、直視を避けてそのピンクの物体をやぶ(にら)みした。

「ずっと見ていると目がしぱしぱしてくるな」

「余計なお世話ですわ」

 カラーリングまでどピンクなので、目に優しくない。

 りぁむ、と呼ばれた小さな少女は、左右の肘をつかんで腕を組む。

「ひきこもりやニートを逆ベクトルに支援……? 妙な考えはおよしになったほうがよろしいんじゃなくて? まるで変なしゅ――」

「そうよ! 変な宗教みたいなことはやめなさい!」

「……そぁらはちょっと黙ってて。あなたは今回、出番ではありませんわ」

「え? あ、えーと」

 どうやら正義の味方にも内部ルールがあるらしい。そぁらが目を泳がせながら口をつぐんだ。

 あとの二人はウフフと笑ったり、興味なさそうにそっぽを向いたり、もはや背景と化している。

「出番が決まっているならなぜ全員を集合させるんだ?」

「お黙りなさいまし!」

 ぼそりとしたヨキの呟きを、りぁむは耳ざとく聞き拾う。

 ヨキはげんなりした。

「……スポンサーの意向か。と言うか首が疲れるから低いところに下りてくれ」

「お黙りなさいと言っていますの!」

 叫びつつ民家の屋根の上から、手近にあった小石を投げつける少女。

 ヨキはあさっての方向に飛んでいくそれを、言われたとおり黙って見送った。驚いたカラスがぎゃあぎゃあと鳴きながら飛び出す。

「……ま、まぁそれはおいといて、ですわ」

「え?」

 投石したことをなかったことにして、りぁむは気を取り直す。意味が分からないヨキは置いてけぼり感を満載して少女の顔と石の飛んでいった方角とを何度も見比べた。

「え? なに今の」

「おいといてですわ!」

 りぁむは強引に話を次に進める。

「ヒキコモリもニートも社会にとって百害あって一利なし。ショック療法や就職支援ならまだしも、あなたの言う逆支援なんてもってのほか! 経済不活性の原因を増長させるだけですわ!」

「ッ!? な ん だ と……」

 顔色を変えるヨキに気を良くしてさらに声を高めるりぁむ。

「だいたい親のスネをいつまでもかじり続けるような人間は、今まで自堕落に過ごしてきたツケを払っていないのを責められるべきですわ。何も耐えず、何も努力せず、何も乗り越えず、いつまでもツケを払わずになんていられないのに。努力もなく運だけで社会人になっている人がいるのも事実ですけど、努力も運もない者が厚遇されたいなんて、おこがましいですわよ! よってそれを援助しようといううあなたを社会悪と認定し、このわたくしがサンタ社の名の元に駆除させていただきますわ!」

 ビシィッ! と指を突きつけ、今にも高笑いまで飛び出しそうな勢いでまくし立てる。キンキン声で好き放題にわめき散らすのは聞くに堪えない。

 背景の二人がひそひそとしゃべりあっていた。

「いいの? ふぇむちゃん。あのセリフは……」

「別に。一言一句、全部漏らさずにパクれるのはいっそ清々しいね」

 りぁむはそこでようやくヨキの変化に気づいた。

「……アレ?」

「百害あって一利なし、だと。経済不活性の原因、だと?」

 サラリーマン・ヨキは険相に顔をゆがめ、声を低くする。

「黙って聞いていれば――そんなレッテルはクソクラエだ!」

 豹変したように声を荒げると、ネクタイを人差し指で抜き去った。相手を()めあげ、着ていたものを乱暴に脱ぎ捨てる。わずか一瞬の後、くたびれたサラリーマンは消え、そこには秘密結社イグナイトの総統、ヨキの姿が現れていた。

 りぁむは急な展開についていけず、驚愕におののく。

「えっ? なに、なんですのっ!?」

「あ、あなたは思慮深き夜――ヨキ=リヒター=フェイブラッド伯爵!?」

 うろたえている少女の代わりに、そぁらが敵を二つ名とともに呼んだ。お約束を忘れていたりぁむだったが、見慣れた敵が姿を現して、ひとまず混乱を落ち着ける。指差したまましばらく口をパクパクしていたが、正面から睨まれるのが怖いのか目をそらしがちだ。声のトーンも少し落ちている。

「レ、レッテルも何も事実ではありませんの! 将来を(にな)うべきいい大人が職にも就かないで、それでは国を背負う前に自分を養うことすらできませんわ! これはその人たちのためでもありますのよ!」

「アタシの後ろに隠れながら言わないでよ……。ってかあんまりしがみつかないで。苦しいから」

 そぁらのボヤキは黙殺された。りぁむはハラハラしながら様子を伺いつつ、まともに睨まれていることに気づいて息を呑んだ。

「私は放っておけと言っているんだ。手を差し伸べるつもりがないのなら、今までどおり無関心に振る舞えばいい。何が気に入らないのか分からんが、興味もないくせにアレコレと指図したいと言うのは、タチの悪いおためごかしだ」

 かつてないほどの強い姿勢を見せるヨキは、話題の間抜けさを差し置いてものすごい迫力だった。しばらくのあいだ睨みを利かせていたが、一転バサリとコートをひるがえして背中を向けた。

「フン。場がしらけたな。今日のところはこの辺で勘弁してやろう。だが覚えておくことだ。私の刀がひとたび牙を向けば、決して逃れるすべはないことを」


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