表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
正義よ 傲岸なるその悪を討て!  作者: 斉放
‐Ⅰ.魔王は勇者がいなくてもなれるけど勇者は魔王がいないとなれない‐
12/62

‐Ⅰ.魔王は勇者がいなくてもなれるけど勇者は魔王がいないとなれない‐ interval 2

なんだこの話……

 その日の夕方のこと。

「あぁ、ヨキくん……」

 彼女は胸の前で左右の指を絡めるいつものポーズで畳にペタンと座って、今日もハラハラとブラウン管型の旧式テレビを見ていた。番組は昼間もニュースで流れていた内容を再編集しただけのものだったが、彼女はすでに一度見た内容を一心に見ていた。

「ルナリエさま〜。おこたに入ってあったまりませんかー? 焼きミカンありますよ、焼きミカン」

 後ろからネコミミ執事が呼びかけるが、ルナリエはテレビに釘付けだった。

 テレビの向こう側もこちら側ものん気なものだったが、彼女だけが悲愴の表情で悪の総統の身を案じている。「きゃあっ!」とか「危ない!」とかエキサイトしているのは彼女だけなので、コミカルと言うかシュールだ。これだけ暴力的でショッキングな映像が毎日のように放送されていても、普通の感覚が麻痺していないと言うのは貴重ではある。

 しかしながら、庶民感覚を忘れないセンシティヴな少女だったとしても、着ている衣装によっては繊細さが台無しになることはある。彼女の服は何と言うか、『悪の女幹部』とでも言うような、けばけばしいものだった。

 それでいて白い肌との対比がどこか神聖ささえ漂わせる。

「あぁ……だ、大丈夫かな、ヨキくん。周防さん手加減しないから痛そう……」

 美しい体のラインを損なわない黒のドレス。スカートの部分は生地が透けるような薄さなので幾重にも重ねてあるせいで広がり、黒バラの花弁のようだ。光を反射しないで人の視線まで吸着させるような黒髪が、ウェーブを描いて体に巻きついている。頭を飾るのは数珠繋ぎになった無数の小さな宝石類。指先から肘まで、細腕を包む黒のレガースも暗い印象をより濃くしていたが、今はアンニュイな表情を儚いものに引き立てていた。

「にゃっ!」

「きゃっ! ……こ、コトハちゃん?」

 ルナリエは背後で上がった素っ頓狂な声にちょっとだけ驚きながら、振り返って呼びかけた。ハラハラとドキドキがない交ぜになって涙ぐむ。

 コトハは耳を片方ぴくぴくさせ、鼻をスンスン鳴らした。

「ヨキさまとガルルンが帰ってきたみたいです」

「ほんと!?」

 ルナリエはもたもたと立ち上がった。コトハが先回りしてドアを開けると、ぼろぼろになったヨキが倒れこんでくる。

「にゃひっ! ヨキさま、どうされたんですか?」

「ヨキくん、大丈夫!?」

 抱きとめたコトハもテレビを見ていたはずなのに、なぜこんなことになっているのかまるで分かっていないらしい。

 ヨキは力を振り絞って体を起こし、差し出されるルナリエの手を丁寧に遠慮する。

「――く、ガルガンチュア・ロア、ここまでご苦労であった」

 ヨキはコトハがてきぱきと手際よく敷いた布団に横になり、苦痛に顔をしかめながら刀を鞘ごと体から放す。

「今回はさすがに死んでしまうかと思ったぞ。フッ、死ねるはずもないのにな」

 彼は軽口まぎれに皮肉を挟んだつもりだったが、思いのほか空気は重かった。

「ヨキくん……ごめんね、私も力になれたらいいのに」

 ルナリエの謝罪は、むしろヨキを苦しめるものだった。だからかえって軽口を助長させる。

「君にあんな思いをさせるつもりはない。あんな、いっそ死ねたらと」

 不意に言葉が途切れる。ルナリエが胸に抱きついていた。

「そんなこと言わないで、ヨキくん。私、あなたがいなくなったら……」

「……」

 言葉がなくなった。コトハとガルガンチュアを順に見る。それぞれいつもとそれほど変わらない様子のはずなのに、ヨキにはどこかしんみりしているように感じられた。

「ヨキさまが死んじゃったら、コトハも生きてる意味がなくなっちゃいますね」

 満面の笑みでそう告げるコトハ。嘘や冗談を言う才能がないことを、ヨキは痛いほどに良く知っていた。痛いのは、胸だ。

「な、何てことを言うんだ、コトハ。間違ってもそんなことを――」

「おれもです。地獄から救い出されたあの日より、この命はご主人とともにあります」

「ガル……」

 ヨキは自分が勘違いしていたことを痛感した。

 秘密結社イグナイトに、実のところ戦闘要員はヨキしかいない。しかし、一人で戦っているつもりでいたのは大きな間違いだと。それに気づいたとき、表情は晴れやかなものになった。

「そう、だな。すまなかった、みんな」

 彼が自信を取り戻すと、部屋の中に活気が戻ったようだった。

「お前たちを元の世界へ帰してやれる、その日まで」

「はい!」

 元気よく返事するコトハと、黙ってうなずくガル。ヨキは視線を転じ、

「そしてルナリエ、君をおとぎの国から呼び戻せる、その日まで」

 重ねられたみんなの手を、そっと手で包んだ。

「ヨキくんも、だよ」

「そうだったな」

 仲間たちに囲まれて、傷だらけの体はゆっくり、ゆっくりと癒されていった。

「みんなで戦おう。たとえ誰にも理解されなくても、私たちは孤独ではない」


次は2月16日アップです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ