透いてる君は、変態さん?
これは、事故に遭った翌日の話だ。
私はラフなTシャツと短パンを身に纏い、自室のベッドで、仰向けになっていた。
広すぎる部屋で、エアコンの駆動音だけが響いてる。
耳を澄ませば、使用人さんたちが家事をする音が聞こえるくらい静かだった。
今日は日曜日で現在時刻は13時半。
けれど、この時間まで寝こけるという小犯罪を犯したわけではない。
8時には起きて、平日とほとんど変わらないリズムで過ごしている。今は自堕落に寝転がっているが、完璧な生活だろう。
今日は15時からバイトなので、それまでは自由時間だ。
でも『さあ、レッツフリータイム!』という気持ちにはならなかった。
昨日のことが頭から離れないのだ。
ずっと、ふわふわと雲の上に浮いてる感じがして、ここが現実じゃないみたい。
トラックに轢かれかけ、謎の透明人間に助けられた!
しかも、一糸纏わない姿で!
……普通に意味わかんないな。
その後、その人は多分どこかに逃げていった。この流れゆく情報社会に紛れるかのように。お礼の言葉を待たずに。
さらに人が集まって、大衆になったら人にぶつかってバレると思ったんだろう。賢い選択である。いや、賢いなら外を裸ではうろついたりしないな。
いやはや、やばい奴に出会ってしまったものだ。
「はあ、それにしても……」
私は仰向けからうつ伏せの姿勢に変え、枕に顔を埋めた。
「あの声、聞いたことがある気が……」
実は、昨日助けてくれた、変態──けふん、けふん、命の恩人である透明人間の声に聞き覚えがあるのだ。
私のことを『あやかさん』と呼んでたし、名前を知らなければ、エスパーでもない限り一発で当てられないはずだ。
となると、身近な人だろうか? バイト先? 学校?
……確かに、学校には透明人間が一人いる。
隣のクラスの人気者──東雲冬樹だ。
いや、偏見だけで決めつけるのは良くないな。
何か、確かめる術はないものか。
「あ、そういえば」
私は、机の上に置いてある充電中のスマホを取りに行った。
ネットで学校のホームページを検索して、一つの動画に目をつけた。
家事の音がノイズになるので、イヤホンを耳に押し込んだ。
ベッドに戻って、動画を再生する。
タイトルは『生徒会について』だ。
『皆さんこんにちは。私は今年度生徒会長を務める、宇佐美捺海と言います』
画面に映った二人のうち、右側にいる捺海が、先に挨拶をした。背筋がしゃんと伸びていて、かっこいい。
そして、次にお目当ての左側にいる彼女が挨拶をした。
『私は東雲冬樹と申します。今年度の生徒会の副会長を務めています』
冬樹だ。普段の一人称は僕だが、公共の電波に乗ることを考えて変えているのだろう。画面にはチョーカーや手袋などが浮遊して見える。
そのまま、私は冬樹の声に集中しながら動画を鑑賞した。
10分ほどして動画は終わった。イヤホンを外して、スマホと一緒にベッドの脇に置く。
そして、私は呟いた。
「……やっぱり、冬樹じゃん」
あの柔らかいハスキーボイスと一緒だった。冬樹で間違いない。
彼女は学校ではちょっとした有名人で、イケメンと称されている。
一年、二年とクラスは違うけれど、実は冬樹とはちょっと関わりがある。
去年、後夜祭を復活させたら面白そう! そう思って企画した時に、生徒会の一員として手伝ってくれたのだ。そこで仲良くなったし、イケメンは伊達じゃないことも知った。
例えば、私が抱えていた重い荷物を軽々と運んでくれたりとか。
そんな彼女が、そのキャラを崩すようなことは──
「僕は透明だから、見られる恐怖も、見られない恐怖もあるんだ」
記憶の一部がふと蘇った。
確か、後夜祭の終盤に差し掛かった時だっけか。
独り言のように、彼女が呟いたのだ。
詳しいことは忘れたけど、冬樹が私に悩みのようなものを打ち明けてくれたのは覚えてる。
その後は、なんか慰めて、『また何かあったら聞くよ』みたいに言ったはずだ。
かっこつけてるわけじゃないよ!
私だって人の心配ぐらいするのだ。単なる頭のおかしい奴扱いはしないでほしい。
というか、本当になんであんなことを……
ハッ、もしや冬樹は露出癖に目覚めたのか!?自分で服を引き裂いて……あれ、でも見えないから露出にならない?
いや、服は見えるから、通報はされるか。
だから、宙で服がビリビリに裂けたと通報され、パトカーで連行。
冬樹は少年院に入り、そして、反社会に足を踏み入れるのだ。
これはまずいぞ……!?
思考がぶっ飛んでるのは自覚してるが、半分くらいはあり得る話だろう。
いよし、冬樹が悪いイケメンになるのを阻止してやる!
かの経済学者マーシャルは言った。──『冷静な頭脳と温かい心』これが大事だと。
だから、私は温かい心を持って冬樹を説得し、冷静な頭脳でその策略を立てるのだ!
私は置いたスマホを手に取って、ライムを開いた。まずは情報収集、頼る相手はアキだ。
なにせ、アキは冬樹ファンクラブの会長なのだ。あんな情報や、こんな情報を持っているだろう。ポチッとな。
最後のやり取りは電話だった。昨日のことをめちゃくちゃ謝られたのだ。
でも、悪いのはあのクソ男なので、逆にぶん殴れなかったことを謝った。
言い忘れてたけど、あいつは捕まりました。さすがは日本の警察様だ。
では早速、メッセージを送ろう。
『アキ! 冬樹の持ってる情報、全部吐いて!』
挨拶もなしにドストレートに要求すると、5秒もしないうちに返信がきた。
『もちろん! ついに、あやちんも冬樹君の魅力に気づいちゃった!? なになに、ファンクラブ入っちゃう感じ? 今なら、フー君のメイクブロマイド10枚プレゼントしちゃうよ。どうかな?』
『ううん、入らないよ』
『え、じゃあなんでフー君の情報が欲しいの?』
一刀両断したのはいいものの、なんて返そうか。さすがに裸云々は語れないし、うーん……あっ、そうだ。
『ちょっと、面白いことを思いついて……冬樹を脅すんだ!』
『え!? なにごと、なにごと!? 面白そうじゃん!?』
しめしめ、食いついたぞ。面白いことが大好きなアキには効果てきめんだ。
『でしょ。だから、お願いします! 冬樹のファンクラブ会長様』
『任せて、あやちん! まずは特別にスリーサイズから。上から94.5、59.1、89.8。身長は175.2センチ。あやちんと20.3センチの差だね』
『まさかのミリ単位!』
その後も、アキからは他の情報もいっぱいもらえた。
でも、どうやって測ったかは教えてくれなかった。アキいわく、『ふふ、手練手管したまでよ』ということらしい。
……冬樹に貢ぎ物をしたのだろうか?
やっぱり、冬樹はワルだな。あいつは私が止めてやる!
名付けて『冬樹、変態化阻止作戦』決行だ!
私はベッドの上に仁王立ちし、拳を突き上げた。
えいえいおー!
◇◆◇◆
そして翌日、冬樹を呼び出すことには成功した。
方法は次回明かしますので、ぜひ予想してみてください。
さて、皆様。
どのような手段を使ったかは、次回明かします。
ここで、一旦立ち止まって予想してみて下さい。




