透いてる君に、救われた。
さて、皆さんいきなりですが1つクイズを出します。
正解者には変態マスターの称号が与えられます。
なんで変態って? それは最後まで読んだらわかるよ!
では早速、どうぞ!
私は今、学校の帰り道で宙に浮いてます。
体勢はクレーンゲームで人形のお腹ら辺を持ち上げられている感じです。
高さは……1.5mくらいかな?
私の影とアスファルトが視界いっぱいに広がっています。
デデン。
では、いったいなぜ、私は浮いているでしょう?
チクタクチクタク、チーン。
わかりますか? わかりませんか……。
では、特大ヒントを差し上げましょう。
この世界には透明人間という存在がいます。
……え? まだ分からないって?
なら、そんなあなたには、鈍感マスターの称号を与えましょう!
それでは、答え合わせです!
私──神代あやかは今、透明人間に担がれているのです。
◇◆◇◆
遡ること、多分、十分くらい前。
私立アザミ女子高等学校に通う、二年生の三人がコンビニにいた。
茹だるような暑さに抵抗するため、アイスの買い食いを試みていたのである。
現在店内には私、アキ、捺海。ついさっき、工事現場のおっちゃんみたいな人が入ってきた。
「暑い〜溶ける〜」
「こんな、涼しい店内で言わないの、私まで気が滅入っちゃうわ。……て、コラ! お店のものに顔をくっつけない」
アキが冷凍ケースに張りつこうとしたので、捺海が制服の襟首を掴んで阻止した。子猫をあやす、熟練の母猫みたいだ。
全く、捺海は真面目ちゃんだな。アキを見習って、少しくらいギャルになればいいのに。
「だって、40度くらいあるよ、外。人間だったら、死んじゃうんだよ〜。怖いでしょう」
「なんで、いきなりホラーに持っていくのよ。まあでも、六月なのにこの暑さは参るわね」
はあ、と捺海はため息をつき、前髪をかき上げた。
店内の安っぽい照明が艶やかな黒髪を照らし、汗で張り付いたシャツが妙に色っぽく見えた。
美人っていうのは、羨ましいねえ。
そんな羨望の眼差しを感じたのか、捺海はアキを解放して、こっちに来た。
「あやか、ほんとにそれ食べるの?」
捺海は私の目の前にある、ホットスナックのコーナーを指して言った。
実は二人と違って、私は唐揚げか肉まんかで悩んでいた。理由は単に気が変わっただけなのだが、捺海にはこの気持ちがわからないらしい。
「だって、こんなに美味しそうなんだよ。我慢なんてできへんて。」
「いきなり、関西弁使ってどうしたのよ。暑さで脳みそ溶けちゃったんじゃないの?」
「いや、そっちの方がホラーじゃん。」
捺海の恐ろしい発想に、私はつい突っ込んでしまった。
ボケる担当なのに不甲斐ない。
「……そんなに魅力があるのかしら、気が知れないわね」
「この魅力がわからないなんて、人生三分の一は損してるよ……」
「それで人生損するなら、食べなくて結構よ」
なんて、コントを繰り広げていた、その時だった。
「きゃあ!」と、アキの悲鳴が聞こえた。
反射的に振り返ると、アキがよろけて、ペタンと女の子座りをした。
それと同時、視界の端に店内にいたおっちゃんがカバンを小脇に抱え、店外に疾走していくのが見えた。
あれ、あのカバン、アキのじゃない?
そう思い、アキの方をよく見ると、その手にはカバンはなかった。そして、肩を震わせ、顔は青ざめている。
プツン、と私の中で何かが切れた。
あの野郎、ひったくりだ!
私は捺海に自分のカバンを押し付けた。
「捺海は通報しといて、私取り返してくる!」
その言葉を残し、私は灼熱の店外へと飛び出した。
「ちょっと、危ないわよ!」
捺海が忠告したが、その声は無視した。
◇◆◇◆
「待て!」
私はカーチェイスならぬ、ヒューマンチェイスを開始した。
あの野郎。アキを傷つけたんだ。逮捕される前に一発殴って、目の上にでっかいたんこぶ作ってやる!
私は追いかけた。
男が家の塀を乗り越えれば、私も乗り越えた。細い路地に逃げ込めば、私も無理やり身をねじ込み追いかけた。
しかし、相手はなかなか速く、付かず離れずの距離を縮められないでいた。
前を走る男の背中が、陽炎で揺らめいている。
大通りを抜け、商店街を素通りし、徐々に息が切れ始めてきた。
かれこれ、五分ほど逃走劇が続いていた。
視界はぼやけ、聴覚も鈍くなってきて、自分の荒い息遣いと、アスファルトを蹴る音しか、届かなくなった。
諦め悪いな!? あいつ!
そして、閑散とした住宅街を駆ける中、私は信号を渡った。もちろん、青い人型のマークが元気に輝いている時にだ。
だから、安全だと信じきっていた。
声をかけられるまで、疑いもしなかった。
「危ない!」
「えっ?」
3mを超える金属の巨体が交差点の右から、、私めがけて猛進していた。
それはトラックだった。
止まる気配なんて微塵もない。
遅れて、エンジンの音が脳天を貫く。
火照った体の熱が引き、体が硬直した。
動けない。
動けと命じても、足が震えるのみだ。
怖い。
息が止まる。
トラックがゆっくり近づいてくるように見え、コンマ単位で目に焼き付く。迫る影、チリチリと照らす太陽、人のいない道、フロントガラスの向こう、ハンドルに突っ伏した頭。
背中に一筋の汗が流れた。
恐怖で埋め尽くされた頭に、走馬灯が流れこんでくる。
気兼ねなく付き合える友人、気にかけてくれる使用人さんたち、父の後を継ぐ兄、機密が詰め込まれた広い家、その持ち主の仕事人間な父。
そして、そんな父に呆れ、私を捨てた母。
ああ、私って死ぬんだな。
世界から音が消え、つんざくような耳鳴りだけが頭に響く。
不可避の未来が徐々に迫ってくる。
私のお腹に何かの圧力がかかったのは、その時だった。
体が宙に浮き、トラックに対して真横に動いた。
視界が移り変わり、一寸先をトラックが通過する。
トラックは進む。
進んで、進んで、進んで、
衝撃音と共に止まった。
電柱にぶつかったのだ。
どこからか、悲鳴が上がった。
その方向へ視線をやると、先ほど私がいた場所には誰もいなかった。
あれ、何かおかしいな。
全身に確かな血の巡りを感じ、心臓が嫌というほど鼓動を伝えてくる。
ああそうか。私、助かったんだ。
……ん? でも何で助かったんだ?
そういえば、なんか足が地面についてないな。
……あれ?
◇◆◇◆
そして、現在。冒頭の事故直後へと戻る。
一体、なにが起こった。
私は理解が追いつかなかった。
溶解中の脳を無理やり働かせて考える。
うーん……まずは、今までのことを順に追うべきか。
コンビニ、ひったくり、追跡、トラック。ここまでは理解できる。問題は次だ。
……浮遊中。
……うん、どういうこと?
なんて冷静を装い、推理をしていたら、私の体がなぜか移動を開始した。
もちろん、浮いたままだったが、集まってきた少数のギャラリーは全員トラックの方を見てたので、私に気づく人はいなかった。
視界に映るトラックが、どんどん小さくなっていく。
もしかして、本当は死んでファンタジーの世界に転生したのだろうか。
頬をつねってみた。……痛い。どうやら現実のようだ。バイバイ、異世界生活。
近くにあった、建物の間にある路地まで移動すると、私の体は地面に降ろされた。日陰だから、少し涼しかった。
「大丈夫、怪我はない?」
すると、どこからともなくさっき危険を知らせてくれたのと同じ、柔らかいハスキーボイスが聞こえた。
広めの路地をくまなく探すが、人影は一切なかった。
はは、幻聴か。
「大丈夫です。」
でも、とりあえず、返答してみた。幻聴でも心配されたら、応えるのが礼儀だろう。
すると、またもや心配する声が降ってきた。
「良かった。あやかさんが無事で」
「……ありがとう、ございます」
少し落ち着いたからか、今度は目の前から声がしたことに気づけた。
何もない空間から声がする。
となると、幽霊か。だから私の名前が分かったのだろうか。
なんて、現実逃避をしていた時、ふと思い出した。
この状況を証明できる御伽話のような存在を。
幽霊なんかよりもよっぽど確実な正体を。
けれど、その思考に至ったのは、私の頭の中がピンクだから、ではないと思う。
決して。うん、本当に。
私は邪念を祓ってから、それを確かめるため、手を伸ばしてみた。
虚空に向かって、声のする方へ向かって。
この考えが嘘であることを願って。
ある程度腕を伸ばすと、柔らかい感触がした。それには人肌のような温もりもあった。
それと同時に「うわっ」と慄いたような声がして、柔らかい感触が逃げた。何の感触かは虚しくなりそうなので考えないことにした。
ともあれ、私は確信した。
臨死体験なんて初めてで、真実に辿り着くのに盛大に遅れてしまった。
これが早押しクイズなら、きっと私は−100億点を獲得しているだろう。
さて、追々詳しく説明しますが、ここで一つこの世界の透明人間の知識を与えましょう。
透明になるのは身体だけ。服は透明になりません。
そして今、私の視界に服は映っていません。
──ということは?
私は──神代あやかは、
裸の透明人間に助けられたのだ。
そして、理解して数秒後、私は思った。
透明人間といえど、スッポンポン
……って、私。変態に助けられたの!?
良ければ、カクヨムの方でもよろしくお願いします!
https://kakuyomu.jp/works/11054822665087683615




