7堪忍袋の緒が切れる
義理父はクッキーを食べると眠くなったらしく昼寝を始めた。
私は証拠の手帳とシュタイアー家から取り寄せた証拠をエドワードに預け一旦自分の部屋に戻った。
そこにルキアスがやって来た。
かなり息巻いた雰囲気に私はアンナを部屋の隅に下がらせる。
ずかずか私の前までルキアスが来た。
「マルティナお前!エドワードだけじゃなく父までも色仕掛けで篭絡したのか!」
「何を馬鹿な事を、義理父様がどのような状態かご存知のはずです。今は子供のような思考になられて私を母親と勘違いしておられるのです」
「また、そんな嘘を。さっき見たんだからな!お前と父上が手を握って、おまけに昼日中から父の部屋に入って行った」
「お言葉ですが、エドワードもアンナも一緒です」
こいつ何を?言いがかりもいい加減にしてと思う。
「こいつらはお前の使用人だ。そう見せかけて入ってすぐに出て行ったんだろう」
私が言い返そうとするとエドワードが入って来た。
「モリバート伯爵。廊下にまで聞こえています。大体そのような話がある訳が‥」
エドワードは呆れたように首を振る。
「また、そうやってこいつを庇うのか!」
ルキアスは追い詰められて声を荒げる。
「困った人だ。まったくの言いがかりじゃありませんか。あの方が日常どんな状態かこの家の者は良く知っております。マルティナ様が仰っている通りあの方はマルティナ様を母様と勘違いされて慕っておられます。ですがあの方の思考は子供と同じ。それをそのような浅ましい考えに変換されるとは‥どうせ、それを言い訳に慰謝料やシュタイアー家との取引を穏便にすませたいだけでしょう?」
「ばかな事を。エドワード殿、それが事実だと知れればあなたも困るからそんな事を言うんだろう?となれば俺ばかりが悪い訳ではない。そちらの一方的な措置は勝手すぎると言うものではないのか」
何といつものような勝手な解釈。勝手な言い分。自分に都合のいい結末を描いている。
この男どこまで勝手な事を。
義理父の優しさに思わず狼狽えたがルキアス許さない!
私の中の怒りがぐわ~んと身体の奥でうねりを上げる。
エドワードが私をちらりと見た。
ああ‥ルキアスの奴。とうとうマルティナ様を怒らせたな。
シュアラスター一族が元竜人の家系だと言う事を知らないはずはないだろうに。
そんな事を思っているに違いない。
その通りよ。
オリーブ色の髪が波打ち緋色の瞳が燃え上がる。
「ルキアスいい加減にして。これ以上あなたと話をする気はないわ。離縁は整ったはず、さっさと出て行きなさい。さもなければ‥」
「なんだ?女のお前が少しばかり逆らったからと言って‥どうする気だ?」
ルキアスはニヤニヤしながら私に近づく。
「これだけ言っても分からないから仕方ないわ」
私はお腹の底から魔力を押し出すようにして手をルキアスにかざした。
バゴ~ン!
グハッ!
ルキアスの身体に雷撃を食らわす。
ルキアスは鼻血を吹き出し身体は床に叩きつけられ一度バウンドして身体は人形のように跳ね返ってうつ伏せになった。
「ああ‥だから言ったのに。マルティナ様は辺境伯の令嬢なんだ。祖先は竜人でもあって魔力は国内でも片手に入るほどの持ち主。父上はその魔力で辺境を収めていることくらい子供でも知っている事だろう?」
ルキアスはヒクヒク身体をさせ虫の息ながらも言った。
「うそだ‥俺は‥マルティ‥こんな、魔力をも‥‥知らなかっ‥‥」
ルキアスは意識を失った。
私はそんなルキアスの胸ぐらを掴んで上半身を起こした。
頬をはたいてルキアスの意識を起こすと言った。
「ルキアス良く聞きなさい。ったく。魔力を隠すのは当然でしょ!少しでもあなたに良い妻だと思われたいって猫を被ってたんだから、こんな所を見せる訳がないじゃない。大体、こんなくそったれだと知ってたら結婚なんかするんじゃなかった!いい?これ以上何か言うなら今度は手加減しないわよ。今度こそ地獄に落とすから!!」
「ひっ!わ、わかりました。もう二度と君には関わらない」
「あなた、伯爵じゃいられなくなるけど頑張って」
「そんな、頼む、許してくれ」
「それは無理。でも、商会や使用人に罪はないから、その辺りは心配しないで」
「だったら俺も‥」
「無理ね。あっ、でも義理父様はちゃんと面倒見るわ」
「なんで、あんな奴なんかどうでもいいだろう?それより俺を助けてくれ、これからは心を入れ替えて真面目に働く。だから」
「ルキアス、あなた、また地雷を踏んだわね。自分の父親をどうでもいいって‥そういうところ直した方がいいわよ。あなた、きっと捕まって鉱山の強制労働に行く事になるから」
「頼む、許してくれ。俺が悪かった。セシリーナとは別れる。マルティナお前だけを愛するって誓う。だから」
「相当頭おかしいんじゃない。まだそこを言う?愛するですって!遅過ぎよ。ふざけるのもいい加減にして!」
あまりに腹立たしくて私はまた魔力を爆発させた。
雷刃。
ルキアスの服が切り裂け皮膚を切り裂く。
頭から、肩から、腕から、足から、あちこちから血が流れ出る。
「許してくれ。マルティナ愛してるんだ」
「まだ言う?」
私は指先をルキアスの唇に向けた。
その瞬間ルキアスの唇が真一文字に切れた。
「‥‥」
「今度言ったら首を切り裂くわよ」
「ひっ!許してくれ‥」
「そう思うなら素直に罪を認めてきちんと償いなさい」
ルキアスはもう何も言わなかった。ただうなだれているだけだ。




