6義理父2
私はせかされるように義理父の部屋に行った。後ろとエドワードとアンナがついて来る。
「僕、あいつらからかあさま守る」
義理父は部屋に入ると走って書斎の机を開けた。
義理父の部屋は今も昔のまま執務机もあった。義理父を他の部屋に移そうとした事もあったが義理父は頑なにこの部屋がいいと言い張った。
引き出しの中には小ぶりな箱があった。幾重にも細かい彫刻が施されたその箱はかなり年季が入っていた。蓋には鍵が付いていてその鍵も義理父はどこにあるのか知っていた。
義理父は迷わず机の上にあるペン立てを逆さまにして鍵を取り出して小箱の鍵を開けた。
「おとうさま?」
「これ見て、あいつら悪い事してる。これが証拠」
義理父は蓋の開いた小箱を私に差し出す。そこには黒い革の手帳があった。
私はエドワードの顔を見た。エドワードは同意するように頷く。
「おとうさま、見てもいいんですか?」
「僕も悪い子だった。でも、あいつらもっと悪い」
「おとうさまも?」
「うん、でも、僕、かあさま好きだから‥これあげる」
義理父はもちろん男で私より背が高い、体格は病気のせいか痩せている。
だからと言って差し出される小箱は私の胸の辺りの高さで顔は皺のある自分の父親のような顔だ。
それでも眼差しはキラキラ輝く瞳をして真っ直ぐに私を見ている。
「ありがとう、じゃあ、見せてもらうね」
思わず子供相手の返事をした。
恐る恐るその手帳を開く。
年月は5年以上前だ。私が結婚する前、義理父がまだ爵位を持っていて伯爵として執務をしていた頃だ。
色々な商会への支払い記録らしい。
実際の仕入れ金。支払金との差額がはっきり書いてある。
反対にこちらの支払金の割引も多くあった。
それに多く記載されているのが交際費と書かれている項目。細かくいつどこの商会の人間に会い金の受け渡しが記載されている。これは接待や賄賂に使ったお金の事だろう。
シュタイアー家との取引記録も記載があって私の婚姻の支度金が高位貴族に流れた事も書いてある。
それにシュタイアー家との共同事業でも売り上げの一部がある商会に流れている事もわかった。
よく見るとその商会は隣国ナザール国にあるモリバート家の縁せきのファルソン商会。セシリーナの実家であるファルソン男爵家が経営している商会だ。
えっ、なにこれ?
わいろとして流れているお金はかなりファルソン商会に入っている。
これって完全に計画的じゃない。
これがもし表に出ればシュタイアー家だけではない。他の取引先との関係もおかしくなる。
そんな重要な証拠を義理父は私に見せている。
「マルティナ様。これはシュタイアー家から得ていた情報以上ですね」
エドワードが呆れたような声を出した。
元々エドワードが監査役としてここに来たのはシュタイアー家がモリバート家の不正を嗅ぎつけていたからだ。
父は私が巻き添えになってはと心配してエドワードを差し向けた。エドワードはこういう調査には慣れているし信頼も厚かった。
だから、すぐにでもルキアスを追い詰めることが出来るだけの証拠はあった。
だが、ここに来てこんな証拠まで出て来た。
「ええ、まさかここまでとは思っていなかったわ。これはとんでもない事になるわ。確かに私はルキアスのやった事に頭に来てるし義理母にもセシリーナさんにも腹を立てている。だからと言って商会の使用人や取引先にまで潰そうなんて思ってはいないのよ。モリバート伯爵家にしてもなんとか立ち直ってほしいとさえ思っているわ」
「ですが、結果としては同じ事だと、マルティナ様の離縁でシュタイアー家が悪意でなくても取引を見直せば他の取引先にも火の粉は降りかかります。どうあがこうとモリバート伯爵家が無事で入れる確率は果てしなくないかと。マルティナ様は優し過ぎます」
「そこまで追い詰める気は‥だって、これを見せてくれたのは‥」
私はちらりと義理父を見る。
彼は私に小箱を渡して満足したらしく今は部屋にあるソファーに座ってテーブルのあるクッキーを美味しそうに食べている。
「おとうさま」
「かあさま、このクッキーすごく美味しいよ。一緒に食べる?」
さっきの事はもう頭から消し去られたかのようににっこり笑ってまたクッキーに手を伸ばしている。
その笑顔は天使のように見えた。
いや、天使ではないが。




