5義理父1
そこにルキアスの父リュートが走って来た。
「かあさま」
義理父は私がここに来た時にもかなりボケが進んでいた。この一年で自分が誰か分からなくなることが多くなった。
数か月もすると義理父は世話をする私の事を母と思ったらしくいつの間にか母様と呼ばれることが増えた。まあ、それでも、時々は正気に戻って私が息子の嫁と認識できる日もある。
身体は丈夫である程度の身の回りの事も出来る。まあ、オムツはしているが。
「おとうさま。どうされたんです?」
だからと言って私は呼び方を変えたりしなかった。
義理父が私に縋るようにそばに来る。お父様と呼ばれてもそれがおかしい事だと言う事もわからない。
しかし、いい年のおじさんにする寄られるのはいつになってもいい気はしない。
「かあさま、怒ってる?」
義理父は瞳を揺らしながら私を見た。
瞬間、自分がルキアスとの話し合いでかなり気が張っていたのだと思った。義理父には私が怒っているように見えたのかもしれない。
「怒ってませんよ。それよりどうしたんです?」
「‥かあさま行っちゃう?僕‥置いて行くの?」
自分よりも二十歳以上も年上の男が私の顔を覗き込み私の手をぎゅっと握る。
こんなになっても自分の事を心配してくれる人だと認識できるのだろうか。
思わず胸に熱いものが込み上げた。ルキアスよりよほど可愛い。
私はこの一年必死で義理父の面倒を見て来た。
朝起きると大声で人を呼ぶ。寂しいと泣く。私はそばに行き義理父の背中をとんとんして慰め着替えをさせて食事をさせる。
使用人が食事させることをいつしか嫌がるようになっていつの間にか食事を食べさせるのは私の仕事になって行った。
執務をしていても部屋に入って来ておやつを食べようとせがみ一緒にお茶を飲むのは毎日の事だった。
満足すると落ち着いて時には書類を見て意見したりもして、それが案外助かることもあったりで人の頭はどうなっているのかと思う。
起きている間ほんの数分元の人格に戻り一日の大半は子供になる。そんな義理父は午後は疲れるのか昼寝をすることが多かった。
そして夕食は私と食べると言い張って逆らうと暴れて手が付けられなくなることもあって結局この半年はいつも一緒に食事をするようになった。
私が来るまで義理母やセシリーナさんはどんな対応をしていたのかと思う。まあ、今ほど病状が進んでいなかったのかもしれないが聞いたところでは、今と同じ状況だったらしい。
義理母も世話をすることを嫌がりセシリーナさんも父には近寄らなかったらしい。
それに最近気づいたが、父はルキアスを見ると怯えたような顔になる。私の後ろに隠れ背中で私の服をぎゅっと握りこむ。
恐い。そんな感情がひしひしと伝わっていた。
暴力でも奮っていたのかもしれない。
この一年私は自分なりに義理父には愛情を注いで来たつもりだ。最初は戸惑ったけど、優しさは伝わったらしい。
そして今では母様と呼ばれるまで義理父は私に心を許してくれている。それがすごくうれしい。でも、私は義理父を連れて行くわけには行かない。このまま置いて行くことに凄く心が苦しくもあった。
「まあ、どうしてそんな事を?」
「だって、あの人達が来たから、かあさまは行ちゃうんでしょう?」
さっき食事をした事さえ覚えていない事もあると言うのに1年も前の事を覚えているの?
いやいや、そう言う問題ではない。私はルキアスと離縁したのだからここにいる事は出来ないわけで、義理父とも縁が切れお別れする事になるのだけれど。
「大丈夫です。おとうさまには奥様や息子様がいるんですから、心配ありませんよ」
「やだ!かあさまがいい。かあさまがいい。僕知ってる。あいつら悪い人。証拠ある。かあさま来て。こっち」
義理父はそう言うと私の手を取った。




