4離縁成立
それから数日後、体調を崩していた私がやっと元気になるとルキアスと義理母のマリアンに呼び出された。
向かいの席には義理母とルキアスが座っている。
私が向かいの席に座るとお茶も運ばれてこないうちに義理母は口を開いた。
まあ、私はお客ではないのでいいですけど。
「マルティナ、あなたもうわかっていると思うけどルキアスとは離縁してちょうだい」
「はい、依存はありません。ですが、この離縁はルキアス様の有責でよろしいんですよね?」
「おい、石女が何を言っている。お前に子が出来ないから婚姻を解消するんじゃないか!」
ルキアスがいきなり立ちあがって大きな声を上げた。
思わず肩が竦むがここで怯んではいられない。
「ですが、それはあなたが子作りをしなかったからで、私の責任ではありません。ですので慰謝料として王都の店は私が引きとります。もともとあの店は私が運営して大きくした店。取引の関係で名義も私になっていますので問題ありません。それでいいですよね?」
ルキアスがむっとした顔で私を睨んだ。
「ああ、店の売り上げはお前の取り分にしていい。その代り商品の仕入れ金はちゃんと払え」
私はすました顔でうなずく。
そんな事出来る訳ないじゃない。店の商品のほとんどの権利は私の特許なのに、まず最初の仕入れが無理だと思うわ。
でも、今は離縁届を完了させるのが先だ。
義理母のマリアンが離縁届をテーブルの上に置いた。ルキアスのサインはすでに終えてある。
「マルティナさん。まあ、あなたも少しは我が家の仕事を手伝っていたのだもの微々たるはした金くらいでぐちぐち言ったりしないわ。さあ、サインを書いてちょうだい」
義理母は店の名義を私がもらった事で慰謝料の話は終わったと思っているのだろう。
ルキアスも。
紙に添えられた義理母の指には大きなサファイアの石がきらりと光る。
いつまでそんなものを持っていられるかしら。
内心でそんな悪態をつきながら私はすらすらサインを書いた。
ルキアスは勝ち誇ったような顔で私を見る。
「ふっ、これでお互いもう夫婦でなく赤の他人と言う事だな。マルティナ、泣いてもいいんだぞ。お前俺の事かなり好きだったよな。それなのに捨てられて惨めだな。まあ、お前みたいな辺境の女は田舎で泥にまみれてるのがお似合いだ」
ピキッ、こめかみがピリッと引き攣る。だが、言わせておけばいい。これから泣くのはあなたなんだから。
くっと背筋を伸ばすと私は離縁届を折りたたむ。
「離縁届は私が提出しておきます。控えは後程伯爵家に送らせて頂きますのでご安心ください」
「ああ、手間が省ける」
離縁届のサインが終わると同時に私はエドワードを呼んだ。
エドワードが部屋に入って来る。私は今思い出したとばかりに言葉を紡ぐ。
「あっ、ルキアス様。父にモリバート伯爵と離縁する事を知らせました。離縁が確定しましたのでこれまで婚姻関係の上に成り立っていた優遇されていた条件も見直しが行われます。エドワード詳しく説明をして差し上げて」
私は視線だけをエドワードに向ける。
エドワードは立ったまま一礼すると話を始めた。
「失礼いたします。マルティナ様の離縁により変更される条件に付いてご説明させて頂きます。最初に今までは国境越えは我が家の鉱山の地下道を使っていましたがマルティナ様との婚姻が終わりましたのでもう使う事は出来ません」
はっ?と言うような顔でルキアスが立ちあがる。
「おい、いくら何でもそれは酷いだろう。あの地下道を使えなくなったらうちの商会は困るじゃないか。すでに荷物が入る段取りで注文も受けているんだぞ!」
「ですが、離縁をのぞまれたのはそちらですよね?マルティナ様を傷つけておいてそんな都合のいい事が通るとでも思われたのでしたらシュタイアー辺境伯家への屈辱と受け取りますが」
「ぐ!だが‥」
次の言葉を吐き出す前にエドワードが話を始める。
「それからシュタイアー辺境伯の縁せきと言う優遇措置はもう受けれません。割引価格だった価格は正規の価格に戻します。それから我が家との共同事業からも手を引かせて頂きます。ああ、それからもロバート家の領地の工場に派遣している機械設備などの作業員も引き揚げますので後の管理はそちらでお願いします。他にも取引の上での細々した書類は後程お届けすると言うことで。ああ、来月は相当支払いがあると思いますので早めに銀行と話を始めた方がよろしいかと‥では、マルティナ様行きましょうか」
「そうね。エドワードあなたがいてくれて助かったわ。では、義理母様、ルキアス様失礼します」
私は立ちあがるとエドワードを見た。
ルキアスが立ちあがって私に近づく。
「‥やっぱりお前達出来てるんだろう!おかしいと思ったんだ。俺は王都にいてお前たちは領地でこっそり仲良くしてたって事なんだろう?これも全て計画だったってわけだ。はっ、そんな事させるか。やれるもんならやってみろ!離縁は俺の有責じゃないからな。慰謝料とか工場から手を引くとか。そんな簡単にシュタイアー家の好きには出来んからな!」
私は何も返さなかった。
お辞儀をして顔を上げると怒りで顔を真っ赤にしたルキアス様がいた。
が。急に顔つきが和らいだ。
「マルティナ、おい俺達の仲だろう?そんな急に冷たくしなくたっていいだろう。なぁ、俺だってそんなつもりはなかったんだ、お互い気持ちよくわかれればいいじゃないか。なぁ」
「そうよ。マルティナさん。あなた、ちょっと冷たすぎるわよ。これはルキアスの言う通りお互い責任のはずよね?」
ふたりの戯言に付き合う気はない。
「…」
私はそのままエドワードとアンナを伴って部屋を後にした。




