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月華の神鐘と史明の決断

久しぶりに本編に戻って来ました。 大変お待たせしてすみません。また宜しくお願いいたします。

(…………このままでは、彼等は皆殺しになる!)

普段は何事にも動じない史明の表情に、焦りが浮かんだ。

例え人数が多くても、通常の催眠ならば彼には容易に解けるのだが、さすがに神鐘による術となるとそうはいかない。

姜乎(きょうか)による結界への攻撃を防ぎながら、一人一人目を覚まして行く時間など、もう残されてはいなかった。

史明が、麗宝に向って鋭く叫ぶ。

「麗宝!」

ぼうっとした様子で立ち尽くしていた彼女が、急にびくりと反応すると、史明の方を見た。

自分達に相対している猛亮達の殺気立った様子が視界に飛び込んで来ると、一気に目が覚める。

「どうしたの、猛亮様達は?!」

「例の神鐘で術にかけられておる。 月華の鐘を出すのだ、早く!」

「でもこれ、どうやって使えばいいの?! 打点がないのよ!」

慌てて麗宝が鐘を取り出して思い切り振ってみるが、やはり音は出ない。

二、三度腕を振った彼女の行動が、その本能を刺激したのか。

突然、猛亮が麗宝目がけて襲いかかって来た。

「きゃーっ!」

「麗宝!」

史明が結界を保ちながらも、彼女を庇って立ちはだかる。

他の傭兵達と違い、猛亮は武器を携えてはいない。

だが、彼は肉体そのものが既に凶器なのだ。

しかも、ごく薄いとはいえ、彼には瑠夏同様に白龍の血も流れている。

直ぐさま史明が猛亮の正面に、見えない結界の壁を飛ばした。

「ぐあっ!」

猛亮が野性の熊の様な咆哮を上げて、弾き飛ばされた。

「猛亮将軍!」

思わず心配して声を上げてしまったのも束の間。 

今度は他の傭兵達が、まるで彼の叫びに触発されたかのように、鳳翔達に襲いかかって来た。

「麗宝、鐘を! 早く!」

「分かってるわ! でも……きゃあっ!」

必死に振り続けていた麗宝が、突然横から襲いかかって来た傭兵に驚いて、バランスを崩した。

「麗宝!」

史明が傭兵に向けてすかさず電撃をお見舞いし、気絶させる。

その間に麗宝が、なす術も無く地べたへと転倒してしまった、その時。

倒れた麗宝の元から突然、竪箏(たてごと)のような美しい音が(とどろ)いた。

トウロロロロロロォン…………。

まさに鳳翔達に刀を振り下ろそうとしていた傭兵達の動きが、ピタリと止まる。

(え……?)

「今私、何も触らなかったけれど……?」

彼女がもう一度、音が聞こえて来た辺りの空間を、手で探ってみた。

トウロロロロロロロォン…………。

「――――史明、何もないのにここから音がするわ!」

再びあの甘美な音が響き渡ると、猛亮達の目が次第に正気に戻って行った。

史明が微かに苦々しげな声音で言う。

「…………せめて使い方を記しておいて欲しかったのう」

鳳翔達に刀を振り上げていた傭兵達が、己が一体何をしようとしていたかに突然気付くと、ぎょっとして刀を地面に落とした。

麗宝が念の為に、もう数回神鐘を鳴らす。

まもなく結界内に居る傭兵、鳳翔達、そしてとうとう参拝者達全員が、催眠から解き放たれた。

いつの間にか御龍教の天宮で、殺気立った兵士達に囲まれていることに気付いた参拝者達から、悲鳴が上がる。

ひとまず差し迫った危機が去ると、史明は再び正殿へと視線を向けた。

だが、先程確かに(きざはし)に佇んでいた旺李の姿は、既にどこかへ消えていた。

鳳翔達一行にこれ以上の神鐘での攻撃は無駄だと悟って、正殿へと戻って行ったのであろうか。

(嫌な予感がする…………)

姜乎は春萌に、白龍の子孫を生かしておく必要があるのは、千年祭までだと言っていた――――。

(彼等はまさか黒龍を、この人界に解き放つつもりなのだろうか)

確かに黒龍が放たれれば、少なくとも百華国は致命的な打撃(ダメージ)を受けるだろう。 憎い史明の安住の地を、あの旺李が破壊しようとすることは、十分に考えられる。

けれどもそれならば、わざわざ凱帝国と黄華州を利用してまで、百華国侵攻の準備を進めて来る必要など無かった筈だ。

(では、一体なぜ……?)

彼の思索を、鳳翔の切羽詰まった声が中断した。

「龍榜眼、この後俺達はどうすればいいか、名案があれば聞かせて欲しい」

いつもの無表情に戻ると、史明が答える。

「彼等は、黒龍を天宮から開放する気やも知れぬ」

「何だと?!」

「……黒龍は何としてでも我が止める。 だが我が居なければこの結界は保てぬ……さて、どうすれば良いかの」

史明の呟きに、呆気にとられた鳳翔が(うめ)いた。

「黒龍を止めるだと?! お前は一体……?!」

人間なのか。 この一言を呑み込んだ鳳翔の様子には構わず、彼は天籟(てんらい)に呼びかけた。

紫刑部侍郎(しけいぶじろう)。 そなたにならば、我が張ったこの結界を維持することは可能であろう?」

驚いた鳳翔が、今度は紫侍郎に視線を向ける。

「暫くの間、我の代わりに結界を守って欲しいのだが、頼まれてはくれぬか」

史明の言葉にポリポリと頭を掻いた紫ウサギ侍郎が、「う~ん……」と唸りながらも思案する。

「俺、紫家から『決して人界以外のことには首を突っ込まないように』って、固く約束させられてるんだけどなあ……」

まあ、非常時だから、許して貰えるかな。 うん。

そう呟いた彼を取り囲む空気が、ふいに変わった。

相変わらずニコニコした大きな白ウサギの顔を被ってはいるが、何故か彼の周囲にだけ、冷たいつむじ風が巻き上がっている。

「では、結界はそなたに任せたぞ」

史明があっさりそう言ってのけると、鳳翔の目が大きく見開かれた。

どうやら既に紫ウサギは、結界を引き継いでいたらしい。

(――――お前もか、紫刑部侍郎!)

一体自分の官吏達は、皆人間なのだろうか。

もはや諦め気味にそう思いながらも、冷静に彼が訊ねる。

「龍榜眼、この後はどうすればいい? あの神長官と兵士達は? このまま皆が結界の中に居るのも限度があるだろう」

突然史明が無表情のまま、じいっと皇太子の顔を見た。

「……何だ。 俺の顔に何かついているのか?」

思わず手で顔を拭って見た彼に、史明が言う。

「そなたは吝嗇家(りんしょくか)で苦労性ではあるが、中々度胸もある上、いざという時の冷静な判断力も備えておる。 将来国を治める者として悪くはないのう」

「何だ、いきなり……?」

お前から褒められるほど、不気味なことは無いぞ。

今更おだてても、特別手当は出さないぞ。

そうはっきりと顔に書かれてありそうな鳳翔の反応を眺めながら、史明がふいに彼に向って微かに微笑んだ。

(あの龍史明が、笑った――――?!)

冷静沈着な筈の太子が、びくりと怯えた。

(何だ、一体何を考えている?!)

龍史明の笑顔ほど怖い物は、これまでの人生で数える程しか無かった気がする……。

驚愕の眼差しで己の官吏を凝視している皇太子に、再び元の無表情に戻った史明が告げる。

「神長官は人では無い、赤龍だ。 黒鳳凰でなければ太刀打ち出来ぬぞ」

見慣れた能面の史明に、安堵の息を漏らした彼が頷いた。

「やはり人間では無かったのか……。 分かった。 召喚の準備は既に出来ている」

鳳翔が、黒い羽根を懐から出して見せた。

「では……今後とも麗宝を宜しく頼む。 我が結界から出たら、直ぐに黒鳳凰を呼ぶのだぞ。 よいな」

「待て。 お前はどこへ行くつもりだ?!」

既にすたすたと歩き出していた史明が、振り返りもせずに彼に答えた。

「本殿へ」

「本殿だと?! 正気か?!」

「史明?!」

鳳翔達の話を聞いていた麗宝達までもが、一斉に驚きの声を上げる。

「我は、黒龍に用があるのだ」

一言、彼等に向ってそう言い残した後。

史明は鳳翔達の説得の言葉にも応じず、そのまま結界の外へと足を踏み出した。


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