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黄家の証文

正殿正面に集められた参拝客達は、まるで次の命令に備えて待機しているかのように、虚ろな表情のままその場に立ち尽くしていた。

その傍らで春萌と天籟が、黒華村の最期の様子を鳳翔に報告する。

天籟はともかく、春萌に霊能力があると知って驚いた太子だったが、時間が惜しいからなのか、これまで彼が能力を隠して報告していたことについては諌めもせずに確認した。

「村民達の惨殺については、黄家の縁戚である御龍教の神長官が関与していたというのは、間違いないか」

天籟と春萌が同時に頷く。

「そうか。 故黄皇后の継嗣・黄範(おうはん)(しょう)に直接問い質したいのは山々だが……今はこの一行をここから無事に帰すのが先だな。 今日は祭の当日だ。 少なくとも神長官ならば天宮のどこかに居るだろうから、直ぐに傭兵達に連れて来させろ」

「はっ」

「それから、凱帝国の兵士がここに居たというのが気にかかる。 齋御史の考える通り、今もまだかなりの数の兵が神山に留まっているとすれば厄介だ。 地下通路があるだけでなく、凱帝国から武器を調達していたという話が本当ならば、凱帝国が神山を百華国侵略の足がかりにしようとしていた可能性が高い。 数人の斥候(せっこう)を放って、天宮の様子を探らせろ!」

「分かりました」

「それから……」

矢継ぎ早に指示を出していた鳳翔の視線が、本殿から少し離れて独立し、参道の両側に鎮座する大きな社殿に向けられると、彼の動きが止まった。

正殿に向って左側にある社殿の中から、深緑の衣を纏った男達が続々と出て来たかと思うと、無言でこちらに歩いて来る。

彼等を先導しているのは、神官らしき白い烏帽子を被った鉤鼻の男だ。

春萌が彼を見て、うわ言のように言った。

「神長官様……!」

「何だと? あの男がか?」

「はい」

鳳翔の問いに答えた春萌はしかし、太子の方へ視線を移すことなく、不審げに神長官を凝視していた。

獄吏様は、浄衣と呼ばれる無紋の白い狩衣と袴を厳かに身に纏っている。

しかし、今日が千年祭という大祭の当日であるならば、彼は龍の地紋様が付いた黒の衣冠で晴れの正装をしている筈なのだ。

浄衣は、神事または葬祭などの特別な清浄を必要とする儀式に用いる斎服なのに。

(どうしてわざわざ浄衣を……?!)

その獄吏様の後ろから、両手を後ろに縛られた、派手な服装の身分の高そうな男が、緑衣の男達にこづかれながらこちらにやって来る。

鳳翔がそのやつれた男を見るや否や、驚きの声を上げた。

「黄範勝じゃないか! 何故こんなところに!」

今や正殿の右側の社殿からも、続々と深緑の男達が姿を現して、境内に溢れ出していた。

彼等は統制のとれた動きで、鳳翔一行の両側に隊列を組んで行く。

一見ありふれた百華国の平服を纏ってはいるが、浅黒い彼等の容姿と斜めがけの武器の携帯様式が、明らかに異質な空気を醸し出している。

両側にずらりと並んだ無表情な男達を睥睨(へいげい)しながら、鳳翔が皮肉った。

「凱帝国の兵士か。 まさか向こうからお出迎え下さるとはな」

太子が吐き出した毒をものともせずに、神長官が彼の前に進み出ると、勘気を恐れぬ淡々とした口調で形ばかりの口上と苦情を述べた。

「この度は鳳翔殿下の行啓先に御龍神山をお選び頂き、誠に恐悦至極ではございます。 しかしながら本宮周辺の禁足地は、百華国では一部の神官にのみ入山を許されております神域です。 例え鳳翔殿下であらせられても、神域に許可なく入山されれば慣わしに従って神罰が下されますのでご了承下さい」

「そうか。 それではその様に殿下にお伝えしておこう」

「私は他でもない貴方様に申し上げているのですが」

慇懃(いんぎん)な態度で、神長官がやり返す。

どうやら、どこかから情報が漏れていたらしい。

(上等だ!)

鳳翔は、龍勢からばら撒かれた印刷物を彼に見せると、不敵な笑みでそれに応じた。

「俺達は『黒華村祭り』とやらが見たくてここにやって来ただけだ。 祭りが無いのならさっさと戻りたいが、連れの者達の様子がおかしくなってしまってな。 彼等の目を覚ますのに協力してくれれば、今直ぐ帰れるのだが」

「その必要はございません」

「ほう。 何故だ」

「貴方様は既に、凱帝国の領土に不法に侵入されておられるからです。 凱帝国の法では、不法侵入者は死罪を賜ることに決められておりますので」

鳳翔が、不快そうに眉を顰めた。

「何の話だ? 黄華州は紛れもない百華国の領土なのだが」

「ですがこの神山は、とうの昔に黄家から凱帝国へと割譲されております」

さすがの皇太子も、これには開いた口が塞がらなかった。

「そんな馬鹿な! 陛下の許可も無くそんな勝手な契約など、許される筈がない!」

「こちらが黄家から凱帝国に宛てた証文でございます」

彼が差し出した証紙には、鳳翔自身も馴染みのある、黄皇后の筆跡で書かれた署名と、黄家の当主印が捺印されていた。


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