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南陽11

(いぶか)しげな麗宝をよそに、蓮青は事も無げに言う。

「さあ。 でも、南陽ではたまに見かけるけどね」

「そうなんですの?!」

「誰かが使ってるところは、さすがに見たことないけど」

勿論、この通貨を大っぴらに使おうとする者は、いくら南陽とはいえ即刻捕縛されるだろう。

凱帝国は、百華国の南に広がる好戦的な国だ。

元は黄華州にも満たない小国だったのだが、周囲の国を次々と併呑(へいどん)して行き、現在では既に白華州に迫る大きさの大国である。

百華国は過去に数回も凱帝国に侵攻されて来た経緯から、正式な国交は途絶えたままだ。 今でも凱帝国との国境には、『長城(ちょうじょう)』と呼ばれる高い石造りの壁が張り巡らせてあり、壁上の通路には常に国境警備兵が配置されている。

百華国では主に、黄華州が国境を接しているが、黄華州は百華国の中でも豊かで、唯一、金を産出する州でもある。

黄一族が、隙あらば黒華族に替わって百華国の支配者になろうとしているのは公然の事実なのに、この一族から故黄皇后を迎えた程に厚遇されているのは、黄華州が金鉱を握っている上、凱帝国に隣接している重要な緩衝地帯だからだ。

長城があるとはいえ、王都の王華府がある白華州と凱帝国との間に位置する黄華州が、万が一にでも凱帝国に寝返ったとしたら、たまったものではない。

「それにしてもこの金貨、どうやって国境を越えて来たのかしら。 検問での所持品検査は、随分厳重だと聞いていますのに」

「なにも、検問を通って来たとは限んないだろ~?」

「え?」

「国境には確かに長城がそびえてっけど、地面の下に壁はないんだぜ~? 穴はどこでも掘り放題。 密輸用のトンネルだって、長めの穴を掘れば、警備兵の目が届かない所まで楽勝で行けるだろーな」

「そんな……それでしたら、密輸なんてし放題ですわ」

「うん、国境付近ではそうなのかも知れないね。 史明が残した地図見てっと、禁足地の御龍神山だって、思い切り国境の真横みたいだし」

麗宝が、卓子に載せられたままの地図を手にとる。

確かに蓮青の言う通りだ。

しかも……。

「黒華村は、随分国境に隣接していますのね」

「そーだね。 やっぱ何か隠すとしたらそこじゃない? 人手もあるしね~」

それよりも俺、腹減った、と催促する彼に急かされて、麗宝は南陽酒家を後にした。

少し離れた所にあるという、蓮青お勧めの店へと移動しながら、彼女はめまぐるしく考えていた。

百華国は広大な自給自足の国だ。 資源にも恵まれており、中でも銀は大陸一の埋蔵量を誇る。

周辺国では銀の産出が少なく、主に特産品等を百華国に輸出して、銀貨を補充しているような状態だ。凱帝国に至っては、元々の領土では銀鉱すら無かった位である。

しかし、百華国では金鉱は黄華州にしか発見されていない。 それでも十分な産出量はあるのだが、金貨を国外へ持ち出すことは禁止されている為、他国との商取引では決済に銀貨が使われる。

国内に他国から金貨を持ち込むことも、禁止されている。 国外の金貨は混ぜ物が多く粗悪な上に、金の市場価値を混乱させるとの理由からだ。

百華国の金貨と銀貨の価値は一対百。 ところが、周辺国では大抵一対十だ。

銀貨が欲しい国にとっては垂涎の的なのである。

歩きながら麗宝が、誰にともなく言う。

「もしも……もしも黒華村に金鉱が無かったとしたら……黒華村では、単に凱帝国の粗悪な金貨を、純度の高い百華国の金貨に精練し直しているだけだとしたら……?」

春萌から聞いた話からすると、黒華村が金の採掘から精錬までを担えるほどの大きさだとは、とても考えられない。

だが、単に精練と鋳造だけを担っているのだとしたら。

村人達全員を養えるだけの食料を自給自足していても、可能なのではないだろうか。

彼女の呟きを耳にした蓮青が訊く。

「ふうん……有り得ない話じゃないかもね。 でも、黄華州の誰かさんはそれで利益をがっぽり手に入れるとして、凱帝国の方には危険を冒す程の価値があるわけ?」

問題はそこだ。 

確かに慢性的な銀貨の不足に悩ませられている凱帝国にとっては、たとえ金貨と銀貨の価値が一対十のままで取引したとしても、旨みのある話には違いない。

だが、既に相当数の銀貨を手にしている筈なのに、いまだに危険な橋を渡り続けている理由は何だろう。

(史明ったら、金貨だけじゃなくて、手紙も残して行ってくれればいいのに)

広場を横切りながら、心の中で弟に文句を言う麗宝に、誰かが声を掛けた。


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