金貨製造の謎
南陽に到着するまでの間、春萌は鳳翔達に、御龍神山に関する情報を可能な限り話して聞かせた。
彼の霊能力については触れなかったが、神山には結界が張ってあり、千年前の戦の生き残りである黒華族の末裔が暮していること。
彼等は結界の外では、白華族が黒華族を狩っていると信じ込んでいること。
黒華村には腕が震えている者達がおり、彼等がその震えを龍神に選ばれた『御印』と呼んでいたこと。
人柱と思われる柱が四本、本殿を囲んでおり、本殿は穢れた柱と一緒に注連縄で囲われており、通常の神域でそれは有り得ないこと、等等。
彼が一通り説明し終わると、麗宝が訊ねた。
「黒華村って、どれ位の規模の村なのかしら……隠れて暮らしていけるくらいですもの、そんなに大きくはありませんわよね」
「外には全く情報が漏れていませんから、基本的に自給自足の生活を送っている筈ですが、もしも毎回御龍祭で十六人もの贄を出すとしたら、決して大きくはないと思います」
「禁足地で不正に金の産出が行われているとすれば、こちらの黒華村以外に有り得ませんわよね」
「僕もそう思います。ただ、金の産出にはかなり大規模な設備が必要なので……もしも結界で音の漏れは防止出来たとしても、果たしてそれほどの人手があるかどうかは疑問です」
金の産出は、ただ鉱石を掘るばかりではない。
どこをどう掘ったらより良い金脈に辿り着けるか、測量しなければならないし、坑道が崩れないように、木で枠を組み立てて岩山を支えなければならない。
掘った鉱石を坑道の外に運び出し、坑道の中にあふれて来る地下水を外にくみ出す作業も必要だ。
空気の流れが悪いので、新鮮な空気を送り込む為の作業も必須だし、ましてや金貨を鋳造するまでには、その他に数十もの作業がある。
とても小さな村一つでこなせる作業量ではないのだ。
無言で考え込む春萌達に向って、麗宝が口を開いた。
「齋同年のお話を聞いていて思ったのですけれど……黒華村の方々の『御印』って、汞の中毒症状に似ていません?」
鳳翔がそれに答える。
「俺もそう思った。だが、なぜそこの金貨に汞が付着するのか、理由が分からん。それに、黒華村に金の産出に十分な施設と人手があるかは疑問だ」
「これはあくまでも仮定ですけれど……もしや黒華村の方々は、汞を利用して金を精製しているのではないのでしょうか?」
「汞を使って、だと?」
「はい。通常、鉱石から混ざり物のない金を取り出すには、鉱石を細かく砕くことから始まる十数もの作業が必要です。ですが、汞を使用すれば、作業の簡略化が可能だと思うのです」
「詳しく説明してみろ」
「金や銀等は、簡単に汞に溶ける性質があります。ですから鉱石を粉砕して、金を含んだ粒子を岩石から分離し、汞を混ぜて金と融合させます。それから不純物をろ過・洗浄した後に、加熱して汞を蒸発させて除去すれば、最後に金が残るはずですわ。この方法でしたら、大がかりな施設がなくても、比較的少人数で金の精製が可能です」
実際に見たことはないのですけれども、と付け足す麗宝の前で、鳳翔が呟いた。
「そうか……! それならば、蒸発した汞を黒華村の者達が吸引しているから、中毒症状に似ている腕の震えも、金貨に汞が付着していたことも説明がつく!」
だが、麗宝は浮かない顔をして首をひねった。
「確かに『御印』に関しては説明出来ますけれども……金貨が製造された時点で、汞は一度きれいに洗浄されている筈ですわよね。どうして黄皇后の周りでは、死人が出る程の中毒症状が起こったのかしら……?」
再び沈黙する彼等に向って、鳳翔が言った。
「とにかく今はもう休んでおけ。南陽に着いたらまた、忙しくなるからな」
そして、眠れない麗宝達を休ませようとするかのように、彼はさっさと両目を閉じた。




