プロローグ 小室泰六の自己紹介
さて、この物語を始める前に、少しばかり自己紹介をしておこう。
私の名は、小室泰六。
東京は神田に住んでいる。
普段は、ごく普通の暮らしをしているつもりだ。新聞を読み、本を開き、世の中の出来事にあれこれ思いを巡らせる。時には人の話を聞き、時には自分なりに事件の筋道を考えてみる。
もっとも、私には少々困った癖がある。
どういうわけか、眠りに落ちると、まったく別の時代や場所へ行ってしまうことがあるのだ。
以前にも、ロンドンで不思議な経験をした。
その時の私は、あの名探偵、シャーロック・ホームズだった。
もちろん、私自身が本物のホームズになったわけではない。だが、目を覚ませば、そこには彼の暮らしがあり、彼を知る人々がいて、彼の解かなければならない事件が待っている。
そして、彼の相棒といえば、もちろんジョン・ワトソン博士だ。
ホームズの観察力と推理力には、いつも驚かされる。ワトソン博士は、そんなホームズを支える、頼もしい相棒である。
それから、ベイカー街221Bの家主、ハドソン夫人。
何かと世話を焼いてくれる、親切な女性だ。
さて、今回も私は神田で暮らしている。
今夜は何が起こるのだろう。
いや、何も起こらないに越したことはない。
明日の朝も、いつものように目を覚まし、新聞を読み、平穏な一日を過ごしたいものだ。
そう思いながら、私は机の上の本を閉じた。
少し疲れた。
椅子の背にもたれ、目を閉じる。
ほんの少しだけ、休むつもりだった。
だが――。
私の意識は、ゆっくりと遠のいていった。




