第七話 『貴方の正体』
駅近くの繁華街にあるカラオケ店内。
梅歌宅が襲われてから時刻は、深夜を回っていた。
意気消沈している梅歌は、ソファーに横たわったまま。
その横で謙信は寄り添うように座っているが暗い面持ちで口を開くそぶりはない。
一方赤星は、頼んだコーラをストローで飲みながら二人を交互に見やる。
「……さて、これからど〜しよっかお二人さん。
このままここに居ても、あいつらにまた狙われたら堪らないし、そろそろ作戦を……」
「それよりも先に!なぜ両親が死ななくてはならなかったのでしょうか。二人は、何を知ってるんですか?!!
お願いです、ちゃんと教えてください……」
目を真っ赤に腫らしている姿が、とても痛々しくて赤星はまともに目を合わせることができなかった。
「……」
「だって、おかしいじゃないですか。
赤星が私の家に来たことも。あの配達員の男も。
まるで全部が仕組まれているみたいで……何を隠してるんですか!!」
初めて自分に食ってかかる梅歌を苦しげに見上げた謙信は、その重い口をようやく開く。
「……わかった、全て話そう」
「おい!オレは反対だ!確実にこの子を巻き込んでしまうんだぞ!!」
「……もう、充分巻き込んでしまってるんだ。
話す機会は、むしろ今しかない。
梅歌。黙っていて、すまなかった……」
深い深呼吸を一度、二度繰り返し。
彼は意を決して、語りだした。
「……俺は、外宇宙人工生命非検体No.121。所属惑星は、天王星。
人間ではない生命体に実験され、その後地球へ帰還したかつて地球人類だった者だ」
「……え?非検体、惑星……?
それが、今回の件と何の関係があるんです?!」
「つまり、オレたちってのは宇宙人ってことなんだ梅ちゃん。
あの配達員も、アイツが語った非検体No.131ってのも、俺らと同じ存在。……って訳さ」
「その非検体No.131と俺たちは、数年前に接近していたんだ。その際に記憶の霊魂を奪われた。
俺や赤星、そして他の何名かの元非検体含めて、記憶の喪失に伴い力が行使できないでいる」
「言ってる意味が、わかりません……。
ッからかってるですか!?」
「断じて違う。
これは憶測だが、梅歌のご両親を襲った奴が非検体No.131の仲間の可能性が極めて高いとみている。
建物を、ただの刀一振りで二つに裂くだなんてこと、普通では成せないからな」
「しかも、その刀も盗まれたやつだからねぇ……。全く世話焼ける狸だよねぇ〜」
「その非検体No.131というのは、一体誰なんですか……!!私の両親を殺した人は、一体!」
「……かつて天下統一を唯一果たした男。
それが、非検体No.131の正体だ。
……アイツの名は、徳川家康。俺たちの、敵だ」
「……!!!?ウソ……そんな。両親はなんで巻き込まれなきゃならなかったの……」
「あぁ。それは、梅歌には特別な力があるからだろう。
俺も赤星もずっと調査していたんだが……、奴等にそれを嗅ぎつけられた。
それでアイツらは今日も調べてる最中に、単独の俺を奇襲してきたんだろうな。
そのせいで、駆けつけた時には間に合わなかった……」
「………ッ!
何でそんな大事なことを、教えてくれないのですか!!」
「巻き込みたくなかった……のだろうな。
記憶が奪われる前から、謙信はアンタとの接触を避けてきた。
ずっと、影から見守ることに徹していたんだ」
「そんな……。そんなこと言われても!!
これから、どうすればいいの……」
「そこでオレから提案がありま〜す!
他の元非検体たちと合流すれば、梅ちゃんの力のことも、オレらの安全も今よりマシに担保される。……どう?」
「……私は」
(ただ、もう一度。謙信様と幸せになりたいと願っただけなのに。
こんな恐ろしいことに、知らぬ間に巻き込まれて、そして両親は殺されて。
そんな私に、どうしろって言うのよ……)
「ねえ、梅ちゃん。
キミの大先輩としてアドバイスするけどね。
仇打ち……とは言わないけど、もう逃げられる立場でもないことはわかってるよね」
「は……い……」
「次は、謙信が狙われるとすればキミはどうする?どうしたいと願う?」
「……!!」
「……運命から逃げるな。
もしキミの力があれば、もっと多くの人の犠牲を減らせるかもしれない。
こんなところで何もせずに、アイツらの餌食になって、それで後悔するくらいなら……。
抗うんだ、オレたちと共に」
「……」
(……心がついていけない。
どんなに鼓舞されようとも、仮に守れる力なんてものがあったとしても、私にそれを成すだけの覚悟が足りない)
「……俺は、それに反対だ。梅歌は、やはり安全な場所へ移動させよう。
命に関わるような真似事を、自らする必要はない」
「おい上杉、それ正気か?
自己犠牲を捨てろって、何回も言ってきただろーが!?
オマエのその異常なまでの過保護さが、彼女のチャンスを奪ってるんだと、何故二十二年間も見守ってきて気づかないんだ!!」
「二十二年間……?!」
「おい信玄!!?それだけは絶対に言うなとあれほど……」
「はぁ?!バレたところで、引かれるのが末路だろ。
コイツはキミをずっと、ずーっと、ストーカーしてたんだよ。気持ち悪いくらい、影に徹してたんだ。
触れることも、話すことも一切の妥協を許さずにね」
「……ずっと?それって……!?」
「あーあ、ようやく話せて精々するな!!
あとは、二人で勝手にしろよ。
オレは、もう関わりきれないからさぁ!?」
ご立腹であると自ら主張するように、赤星はわざと音を立てながら扉を閉じて、どこかへと行ってしまった。
(……さっきの話が本当なら、私に危害がないように、守ってくれてた……ということにもなるんじゃ)
頭を抱え俯く謙信を、ただじっと見つめる。
(記憶を失くしているのに、どうしてそこまでしてくれるの?
なんで、何も話してくれないの?
どうして、ずっと何でも独りでこなそうとするの?)
しかし梅歌は、この自問自答にハッとする。
赤星が何故あのように言ったのか。
梅歌にさえ何も話さずに、生前から謙信は独りで何でも決めてしまう。
それは何故か。
それはーー、
「……私があまりに頼りないからだ。
全ての元凶は、初めから私にあったんだ」
何も変わろうとせずに、弱い自分をいつも呪うだけ。
それでいて、頼って欲しいだの、話してくれないだのと……己の弱さから、責任からずっと逃げていたんだ。
それを謙信は一度も責めもせず、疑いもせず、守りに徹してくれていた。
知らなかったとは言え、自分の無知さと能天気さに腹の底から煮え繰り返る怒りが込み上がる。
(私は、弱い。
……弱いけど、弱いままでは、このままでは謙信様さえ失くしてしまう!!!
もうこれ以上、誰も大切な人を失いたくない!!)
「謙信様……」
「……赤星の話を聞いて気味が悪いと、思っただろうか。
嫌になっただろうか」
「そんなことは、ありません」
「……。
果たすべき約束だけが、俺を奮い立たせたんだ。
ただ一人、アンタだけのために。
今更、俺の生き方を変えるだなんてそんな酷なことできないんだ」
「……はい」
「頼む……。
俺から生きる意味を奪わないでくれ。
そうでなければ、これ以上俺は俺を保てなくなる。アンタを、無理矢理にでも閉じ込めて……他の誰かに殺されてしまう前に。その息の根を……止めてしまいかねない」
「それは、お断りします」
ご覧くださり、ありがとうございました!




