第六話 『天国と地獄』
「って事で、善は急いで帰らないとねぇ〜!ほら、イケイケ」
「わかった!わかったから、そ、そんなグイグイ押さないで!」
結局、散々駄々を捏ねられた挙句。
赤星はおもちゃを買ってもらえない子供のように、道端でべそをかきはじめたので渋々連れて行くことになってしまった。
(謙信様、ごめんなさい。ごめんなさい。本当に、ごめんなさい!!)
家に辿り着くと、共働きの両親が珍しく揃って帰宅していた。
玄関前からは、食欲を掻き立てるスパイシーなカレーの匂いが漂ってくる。
扉が開くと、そこに母と父が揃って出迎えてくれた。
「梅歌、おかえりー!
あー!風林くんも、いらっしゃい」
「ふふ、今晩はお招きありがとうございます」
「おかえり。おお!赤星さんちの、大きくなって!ほらほら、入りな。かしこまらないで」
「そんな訳にはいきませんよ。これ、うちのオヤジからです」
「えぇ!!まあまあ!気を遣わせちゃってごめんねぇ」
「とんでもない、オレは幸せですよ。素敵なお母さんのご飯をいただけるんですから」
「あらまっ!もう、うまいんだからぁ!きゃー!小さい頃はあんなに可愛かったのに、今じゃこんなに俳優さんみたいにカッコよくなって〜!」
(この男!私といる時とまるで別対応!)
普通に招いている両親もおかしいが、慣れたように人の家に上がり込むこの男の神経も疑う。
「そもそもうちとどういった関係なのよ!」
「あれ、言ってなかったけ?」
「何も聞いてない!それよりこれから大事な大事な来客が……」
二階の自室へ向かおうとしたところを赤星に、手首を掴まれる。
「……!?」
「……」
沈黙の中。
逃がさないと言わんばかりに強まる力ーー。
「聞き捨てならないな。実のお母さんの手料理より、大事なことではないでしょ」
「そ、それは」
「……」
悪魔は口元に弧を描き、両親にバレぬように耳元で囁く。
「上杉謙信が知れば、なんて思うかな」
「……ッ!」
(何で、今その名を?!)
「何でって思ってる?」
「……」
「あいつは、謙信じゃないかもしれないよ」
「……」
(謙信様じゃない……?
それって、虎白さんのことを言ってるの?)
いつものような笑顔は、赤星からは消え失せていた。
(それとも何か、企んでいる?
赤星が、謙信様を?なんで)
ピンポン。
ピーンポーン。
ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポン。
まるで会話を遮るように、激しく鳴り続けるベル音。
「あらあら、どなたかしら?」
「お母さん、オレが出ますよ」
「え、でも……」
「たぶん、オレの来客なんで」
「凄い鳴らされてるけど……もしかして」
(謙信様?)
梅歌は玄関を開ける赤星の背中を、眺めていた。
そこには、全身黒色の服装と深く被ったキャップ姿の、見るからに怪しげな配達員の男が佇む。
「お届けものでーす!」
「ッ!!みんな伏せろ!!!」
配達員は、後ろ手に隠し持っていた刀を抜き出し、そのまま横一直線へと振り翳した。
その瞬間ーー。
凄まじい衝撃波が家を襲い、横真ん中に切れ目が入り込む。
鈍い音と共に、床へ落ちたナニカ。
赤星の指示通りにしゃがんでいた梅歌の視界に、それは入り込む。
ーー父と母の変わり果てた姿だった。
「……へ」
ものの一瞬で、穏やかな日常は反転し地獄絵図と化し、轟音は遅れて訪れるーー。
ゴゴゴゴゴゴォ……
「アハハ、非検体No.131から伝言で〜す!"三度目はない、邪魔するのであれば君たち元非検体全員漏れなく抹殺する"とのことデェス!それでは、これにておさらば」
「オマエ!!!待て!!」
(いや!今はそれよりも、梅ちゃんたちは……)
「ッイヤァァァア……!お父さん、お母さん!!体がッ……ぁぁあ!!!」
劈く乙女の嘆き。
床に散らばる血液。
鼻が曲がりそうな、鉛臭さ。
上半身と下半身が真っ二つになって横たわる夫婦の姿に、赤星のこめかみに血管が浮き上がる。
(一般人にまで手を出す外道共が!!!)
「……梅ちゃん。とにかくもうここは崩れる。早く外へ!!」
「イヤ、嫌!!
二人を置いていけないよッ!!」
(それは、そうだよな……大切な家族とこんな……。いや仕方ない……。手荒な真似はしたくないけど)
泣き叫ぶ彼女に、急所を避けて首真後ろへ打撃を繰り出そうとした。
「梅歌!!赤星、早く出るんだ!!」
そこに駆けつけた謙信の呼びかけが、屋内へと響き渡る。
泣き崩れていた梅歌は、パッと顔を上げた。
「謙信様!!」
「……、ごめんね梅ちゃん。少し辛抱しててね」
「……!!?」
気が逸れたタイミングを見計らって、小脇に抱えられる。
梅歌は抵抗しようとするものの、引き返せば赤星諸共下敷きになることは明白だ。
(……ごめんなさい、ごめんなさいッ)
父母を脳裏に焼き付けるように、ただ二人の横たわる姿を見つめることしかできない。
嗚咽を堪えるように、必死に奥歯を噛み締めた。
梅歌宅は上から雪崩れるように崩壊していく。
「赤星!よくやった!」
「……あぁ、けど両親が」
「そのようだな……まさか一般人にまで手を出すとはな……」
謙信と合流するも、梅歌は弱々しくまるで魂が抜け落ちたように脱力していた。
「……脱出したばかりですまないが、留まるのは危険だ。梅歌、俺の背中に来い。行くぞ」
三人は集まる住人を掻い潜りながら、人混みの多い繁華街へと走り抜ける。
『……』
状況の重苦しさに、誰も会話をする気にはなれず。
そのまま一同はさらに移動して、カラオケ店へと身を隠すこととした。
いよいよ、次話。
謙信と赤星、そして、梅歌の両親を襲った配達員の仲間である非検体No.131の正体が明らかに!
もしよろしければ、ご覧ください!ありがとうございました!




