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第五話 『深まる影』


 【俺以外を信用するな】


 まるで釘を刺すような謙信からの連絡がきて、頭を抱えていた。

 そこへ、余程梅歌が気に入ったのか、逃がさないとばかりに帰路に現れた赤星。


 彼女にやたらと執着するが、何やら謙信との関係性に介入しようと、またも梅歌を徹底的に自分の世界へ引き込んでいく。


 「ふーん、余程信頼してんだね。

 あーあ、ぶち壊しちゃいたいなぁ。ハハ、なーんてジョーダン」


 「赤星、貴方の目的は一体何!?」




 秋の宵時。

 全身に雷が落ちたような衝撃が、頭から体を駆け巡る。



 さむ空には一番星が輝きを放ち、街には街灯が夜道を照らした。


 しかし梅歌は、家まであとほんの数分で到着する距離で、ただ呆然と立ちすくんでいた。




 【俺以外を信用するな】




 謙信からのそんなメッセージを見て、一人。 

 

 道端で頭を抱えて悶え苦しむしかない。

 


 「ホェェエエエエエエエ……」



 まるで、ムンクの叫びのように。



 「あのお姉ちゃん、何してんのー?」

 「シー!見ちゃダメよ」



 怪しさ満点な挙動に、周囲から若干引かれていたが当の本人は全く気づいていなかった。



 「いやぁあ!!?なぁんで!!

あ、私の読み間違い……じゃないですね。あはは……ナンデシッテルノ!?」



 疲労困憊(ひろうこんぱい)だった脳はフル稼働して、その理由を必死に絞り出そうとした。



 (まさか、どこかで見られていた?!

いやいや、でもなんでそんな追っかけみたいなことを……。パパラッチじゃあるまいし、聞いてくれれば、答えるのにな)



 どうしてその必要があるのか。

 どう返事したらいいのか。

 どうすれば変な疑いをかけられずに、正しく状況を伝えられるのか。



 キーボードをタップしては、震える指先で記入と消去を繰り返す。



 (……もしかして、ストーカーとか?いやいやいやいや!)



 【どこかで見ていたのですか?

もしかして、ストーカーですか?】




 これじゃまるで監視されているようだと思った梅歌は、問わずにはいられなかった。



(あ、誤字って思わず……)



 まもなく既読がつき、ポンと新たなメッセージが表示された。



 (ぎゃぁぁぁあ!!)



 【それは、まだ明かせない。

それを知ってしまえば、もうアンタは後戻りできなくなるからだ。悪い】



 (どういう意味!?え、もしかして……開かずの扉の中で一生鳥籠生活になる可能性が……まさか)




 【とにかく、変なヤツに出会したら何としてでも振り切るんだ。

……俺の誤算に巻き込んで悪い。アンタを責めるつもりは微塵もない】



 (はぐらかされた?!

 今、私からすれば謙信様もだいぶ変な人ですけど!)



 【本当は俺だけが一番隣で、髪一本から爪先隅々まで守り抜きたい。一時も離れずにずっと……俺だけが……】



 (……!!!)



 「ひゃぁあ!貴方にお守りいただけるなら、何よりも光栄!でも、逃げても逃げても追ってくる相手には、一体どうしたら……」

 「ほーん、男女のもつれ?教えてくれてもいいのにねぇ」

 「そ、そうですよね……そりゃ、まだ出会って間もないですけど、恋人なら少しは……って!?」


 「こんばんわぁ?今日ぶりだねうめちゃん」

 「貴方もストーカーかい!?」

 「えぇ、何のこと?」



 (くっ、よりにもよってなんでこの人が!!

画面見られてないよね……)



 咄嗟にスマホをポケットに押し込んだ。


 しかし赤星は見逃してはくれなかった。

 


 「隙やり!」

 「あー!泥棒猫!」



 スマホは彼によって奪われてしまうだけでなく、その内容も見られてしまう。



 「なーにをそんな見られたくないわけ〜?」

 「返して!それ私のものよ!」

 「嫌だよっ。……へぇ、アイツ何にも教えてくれないからさぁ。こんなことやってんだ」

 「警察呼びますよ!?」


 「今のキミも、不審者ぽいけどね!ほらッ!返すよ。

……あぁ、そうか。こっちに家があるんだ?」



 「わっわっ」



 放り投げられた端末を、間一髪。

 胸で受け止める。

 


 「あっぶなかったぁ……」


 「な〜いす!ねぇ、ねぇ、ねぇ。それよりさぁアイツなんかより、オレにしとけばいいのにって思うんだけど?考えてくれてる?」



 グイグイと目の前に迫り来る赤星を、睨みつける。

 


 けれど逃げ場を奪うようにジリジリと、壁際まで追い詰められていく。




 胸騒ぎと変な緊張感に、背筋には汗が一つまた一つと流れ落ちる。

 


 「ッ!」



 ついに、背中がコンクリートの壁に阻まれてしまい、目の前の赤星を見上げることしか出来なくなっていた。






 身体の底から冷えていく感覚に、息を呑んだ。



 「怖いの?」

 「怖くなんか!」



 彼はまるで獲物を捕食する蛇のように、巻きつくような視線で彼女をジットリ見下ろしてくる。

 

 


 「ねぇ教えてよウメちゃん。

キミと、そいつは本当に恋人なの?

そいつじゃないとならない理由は、ある?例えどんなに危険な目に遭うとしても、それは変わらないかな」



 先ほどの軽快さは消え、ワントーンも落ちた声音に、ハッとする。




 (謙信様が言った通り。この男は、危険だ!!離れないと!)



 逃げなければ、押し返さなければ。

 そう思うのに、体は硬直して動けない。



 「あれ、逃げないの?ツンツン!あはは!完全に硬直しちゃってんねぇ」



 (足が、震えて……。動かないッ!!)



 そうしてる間にもゆっくりと伸ばされた彼の指先が、梅歌の長い髪を一束掴んで弄ぶ。



 鼻唇をそっと押し当てて、梅歌を覗き込んだ。



 「ふふ、梅歌が教えてくれないからちょっとだけイジワルしたくなっただけさ。

ごめんね、怖がらせるつもりはなかったんだ」


 「へ……?」

 「え!?襲われると思ったの?侵害……」

 「なんで貴方まで驚いてるのよ……!」

 「いやだって、こんな所でよそ見してたら狼に連れ攫われちゃうじゃん……って忠告だよ?

ささ、帰ろう?」

 

 「答えになってないけど……!?」

 「オレに、悪気はないよ〜!これは警告だって、信じて」



 無抵抗だと言いたげに、両手をヒラヒラさせながら梅歌に背中を向けて一歩下がる赤星。



 ーーそう思ったのも束の間。



 すかさず彼女の背中に腕を回し、帰路をエスコートしようと隣に立ち直る。


 不思議なこの時間に、またポカンとしてしまう。



 「いやその、どうして?え、なんで?」

 「だって帰るんだよねん?」

 「……ねん?」

 「ふふ、ほらほら一旦お家には帰ろーね〜?わる〜い人に、ガブッと食べられちゃうぞー」

 「……?」

 「アイツから、連絡きてたでしょ?」

 「え」



 咄嗟にスマホを確認すると、確かに謙信から続きの連絡が来ていた。



 【とにかく一度、話がしたい。

近くに来ているから、すぐにアンタの家まで向かう。頼む、どうか待っていて欲しい。……ご家族にもご挨拶を】



 「え……!?」

 「へぇ、やるじゃんアイツ!

でもさぁ、これじゃ君の家を知ってるような言い草だよね。

君はまだ、気を遣ってるようにみえるしそこまで踏み込んだ仲にも思ない。ねぇ、もしかしてストーカーだったりして……」


 「早口!最後の部分しか聞き取れなかったけど、そんなわけないです!たぶん……」

 「ふーん、余程信頼してんだね。ぶち壊しちゃいたいなぁ。ハハ、なーんてジョーダン」

 「赤星、貴方の目的は一体何!?」



 「ふふ、それはーー。もちろん、君を助けるためさ。"最初"からね」



 冗談に感じさせない真剣な眼差しが、梅歌を射抜く。




 二人のその背後。

 数十メートル先。



 住宅街の屋根上から観察している影の存在に、まだ彼らは知る由もない。




 ご覧くださり、ありがとうございました(*'▽'*)

 とっても、励みになります!


 今夜中、もしくは明日には謙信と梅歌の過去回想話を投稿予定です!

 二人の濃い恋愛シーンまでいきたいのですが、中々自分の描きたい部分が満載でして……汗

 後回しとなっていたら、申し訳がないです……。


 もしご興味ありましたら、何卒よろしくお願いいたします。

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