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第八話

「そういえば、今回のセレモニーですが…」


急に春日さんが真面目な顔をして久世さんに話しかける。


「そうだね、今回は…」


言いかけて久世さんが押し黙り、チラっとわたしを見る。

聞いてはいけない仕事の話かな…と思い、わたしは邪魔にはならないよう、そうっとこの場から離れようと席を立った。

クン、と袖が強く引っ張られる感覚がして、なんだろう?と思ってその袖の先を辿る。

すると、久世さんがわたしの袖を掴んでいた。


「…く、久世さん…?」


オズオズと話しかける。

ハっと久世さんは自分の手が信じられないのかまじまじと見つめた。


「あの…?」

「っ、ごめん」

「い、いえ…お構いなく…」


(び、びっくりした…)


どうしたんだろう、今日の久世さんは少し可笑しい。

ドックドックと心臓の音が耳まで響く。


「…オレって今、犬も食わないメシでも食わされてます?」

「あの…きちんと人間の食事を出させていただいてます…」


呆れ顔の春日さんに、わたしは反射的に否定する。

久世さんを見ると苦虫を噛み潰したような、見たことのない表情をしていた。

この人もこんな人間くさい顔するんだなぁ…。


「いや、そういうことじゃなくて…。灯さんのそれってわざとですか?ほんとに?」


ガシガシと頭を掻きながら春日さんがやや不満げに尋ねる。

わたしは、サッパリ意味が分からないので首を傾げつつも、すみませんと謝った。


「ボクは…」


唐突に久世さんが切り出す。

ゆらりと瞳が揺れるのが見えた。


「いや、なんでもない」


自嘲気味な笑いに、わたしは口が開けなかった。


(ど、どうしたら…)


「灯さん」


急に声を掛けられてビクリと肩が揺れる。


「良ければ少し、庭でも案内してくれませんか?」


ガタンと席を立っていつもの軽い調子で春日さんがわたしを誘う。

助け舟だ…と直感で分かった。

でも、久世さんだけをここに置いていくのはと悩んでいると短く返される。


「…行ってくるといいよ」


下を向いたままで、久世さんの表情が読めない。

怒っているのかすらも声音からは分からなかった。

それでも、久世さんがそう促すのならとわたしは春日さんと目を合わせて頷く。


「…行ってきます」

「ハーイ、すぐ戻りますから調子、整いといてくださいね〜」


優雅に久世さん相手に手を振る春日さんに苦笑する。


(この人は、ほんとにもう…)


それでも、明るさに救われた。





わたしは、春日さんに中庭を案内した。

木も花も綺麗に手入れが行き届いている。

秩序だった草花は、父が生きていた頃そのままの姿だ。


(あ…)


わたしはポツンと咲いているドクダミを何気なくプチッと摘み、端に寄せる。


「え!?摘んじゃうんですか…!?」

「あ…これは、ドクダミなんです。臭くて、早く排除しないとダメな雑草なんです」


さきほどまであった白い小さな花は、端でもう目立たなくなっている。

ツンと独特な香りがわたしの鼻についた。

それを振り払うようにパンパンと土を落とした後、自分が知っている限りの知識で、植えてある植物の説明を始める。


「お気に入りなだけあって、物知りですね?」

「そういうわけでは…。家に置いてあることは基本、父から学ぶよう言われてたので…」


へー、と興味あるのかないのか春日さんは気のない返事をする。


(久世さん…大丈夫かな…)


さきほどの久世さんの顔を思い出す。

苦しそうな、どこか張り詰めたような表情は今まで見たことがなかった。

今日はずっと、様子が可笑しい気がする。

一人、食卓に残された久世さんが思い浮かび、何故かぎゅうと胸が締めつけられる。

考えるほど心配が募り、もう戻った方がいいのでは、と春日さんに相談しようとした時だった。


「…少尉のこと、どう思ってます?」

「ど、どうって…?」

「嫌い?それとも…好きですか?」


唐突な春日さんからの質問にわたしは誤魔化すように笑う。

嫌いなのだろうか?はたまた好き…?

そんなこと、考えたことがなかった。

自分でも、久世さんのことをどう思っているのかは分からない。

初めは凄く怖かった。

…それは、まあ、今でもあまり変わらないけれども。

それでも、初対面から考えれば、お互いに距離感を測れている気がする。

スゥ、と春日さんの目が細くなり纏った空気が変化する。


「少尉を…嫌わないでください」

「そんな…嫌いだなんて…!」


(そんなこと、考えたことないのに!)


わたしが曖昧に答えすぎたせいで誤解をされてしまった。

春日さんを安心させるように、慌てて答えた。


「家族として、きちんとお支えするつもりです」


安心してくださいとニッコリ笑う。


「灯さん…。アナタ…」


久世さんもお待ちですし、戻りましょうと声をかける。

春日さんの態度が変だなぁと、なんとなく頬に手を当てる。


(あ…わたし…)


顔の筋肉が固まって、上手く笑えていなかったことに気付いてしまった。


(家族として、かぁ…)


慌てて口にした言葉のはずなのに、つい出てしまった。

ずっと、父に言われ続けた言葉。

胸に手を当て、ふぅと深く息を吐く。

久世さんのところへ戻る前に調子を整えないとなぁ…。

ビュウと風が強く吹く。ザワザワと木がざわめいて、胸が落ち着かない。

木の枝を踏むと、パキっと不穏な音がした。

お読みいただきありがとうございました^^

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