第1章『幼馴染は、死神を許さない』(後編)
放課後の教室は、昼間とは別の顔をしていた。
西日が窓から斜めに差し込み、机と椅子の影を長く伸ばしている。
さっきまで騒がしかった教室には、もうほとんど人がいない。
部活へ向かう足音。
廊下の笑い声。
遠くで響く吹奏楽部のチューニング音。
そういうものが、少しずつ遠ざかっていく。
幽がいない。
その事実だけで、琴子の胸の奥が冷えた。
さっきまで、そこにいた。
寝不足の顔で机に突っ伏して、白夜の方をちらちら見て、何か言いたそうにしていた。
いつもの幽だった。
放っておけば変なものに首を突っ込む。
危ないと言っても聞かない。
自分がどれだけ周りを心配させているのか、まるで分かっていない。
昔から、そうだった。
夜道の電柱の影を見て、青い顔をしていた時も。
黒歴史まみれのノートを抱えて、空の星がどうのと真顔で言っていた時も。
夜中に3Dプリンタを動かして、何かを作っていた時も。
琴子は、ずっと怖かった。
幽くんは、いつか自分の知らない場所へ行ってしまうんじゃないか。
自分の手の届かない、遠い場所へ。
星とか、妖怪とか、呪いとか、そういうものに見つけられてしまうんじゃないか。
だから、守ってきた。
学校で。
通学路で。
幽が知らないところで。
小さな怪異を祓い、妙な気配を散らし、幽が普通の朝を迎えられるようにしてきた。
幽に知られてはいけなかった。
知られたら、守れなくなる。
それが東雲の決まりであり、琴子に許された距離だった。
その距離が、昨日の夜、壊れた。
白夜。
世界を壊す妖怪姫。
幽の寿命を鍵にして、人間を石から戻した化け物。
人間の命を「細かすぎて測れない」と笑った、死神。
琴子は、教室の入口で立ち止まった。
窓際の席に、白夜が座っている。
西日に照らされても、その少女だけは夜のままだった。
黒い髪。
白い肌。
赤い瞳。
そして、幽のいない教室で、ひどく楽しそうに微笑んでいる。
◯
「……幽くんは、どうしたの?」
琴子の声から、幼馴染の温度が消えていた。
白夜は、ゆっくりと扇子を広げた。
「ふふ。番犬さんは、わたくしにご用がおありでしたのでしょう?」
琴子の指先が、ぴくりと動く。
「ちょっとだけ、先生とやらに幽さまを『呼んでもらった』のですわ」
「……は」
琴子は小さく笑った。
笑った、というより、吐き捨てた。
「サービスのいいことね。そんなに死にたいんだ」
「ふふ」
白夜は、鈴を転がすように笑った。
「よく吠える番犬ですこと」
その一言で、琴子の中に残っていた迷いは消えた。
カバンの中へ手を入れる。
指先が、赤い呪符に触れる。
幽には見せられない、本物の札。
東雲家に伝わる、血と名前を通すための紙。
「幽くんの前では我慢してあげた」
琴子は一歩、教室へ踏み込んだ。
「でも、もう無理」
赤い呪符が、琴子の指の間で震えた。
紙なのに、重い音がする。
「消えなさい、死神」
白夜は、椅子に座ったまま琴子を見上げた。
その微笑みは、美しかった。
美しすぎて、人間の表情ではなかった。
「わたくしの前に立ってよいのは、死ぬ覚悟ができた者だけですわよ。東雲の娘」
「覚悟なら」
琴子の目が、細くなる。
「幽くんを守るって決めた時から、できてる」
呪符が弾けた。
八振りの光刃が、白夜を囲む。
放課後の教室が、悲鳴を上げるように軋んだ。
○
琴子の指が、空を切った。
赤い呪符が教室の四方へ飛ぶ。
一枚は黒板の上。
一枚は窓枠。
一枚は教卓の影。
最後の一枚は、白夜の真後ろの壁。
札が張り付いた瞬間、教室の空気が変わった。
西日が鈍る。
机の影が濃くなる。
廊下の音が遠ざかる。
この教室だけが、学校という日常から切り離された。
「東雲流、四方封じ」
琴子の声に応じて、床に細い赤い線が走る。
血と呪符の文字が繋がり、白夜を囲う檻を作っていく。
白夜は立ち上がらなかった。
ただ、優雅に扇子を傾ける。
「小さな箱庭ですわね」
「死神を閉じ込めるには、狭いくらいでちょうどいいのよ」
「ふふ。では、試してみます?」
白夜が指を動かした。
たったそれだけだった。
琴子の張った結界の一角が、音もなく黒く染まる。
赤い線が、内側から腐るようにほどけていく。
琴子は歯を食いしばった。
予想はしていた。
それでも、速い。
重い。
触れられただけで、術式の意味そのものが壊されていく。
これが、世界を壊すもの。
これが、幽の部屋に現れた死神。
だが、完全ではない。
白夜の指先が、ほんのわずかに震えていた。
琴子は、それを見逃さなかった。
「……調子悪いみたいね」
「あら」
白夜の微笑が、薄くなる。
「人間の学校というものは、思ったより厄介ですの。規則、視線、記憶、名前。小さな約束ごとが、幾重にも積み重なっておりますわ」
「人間の場所だからよ」
琴子は二枚目の札を指に挟んだ。
「アンタみたいなのが、好き勝手していい場所じゃない」
「人間の場所」
白夜は、その言葉を味わうように繰り返した。
「では、幽さまは誰の場所にいるのかしら」
琴子の動きが、止まった。
「何?」
「幽さまは、あなたの場所にいるのですか?」
白夜の赤い瞳が、琴子を見た。
「学校。通学路。幼馴染。いつも通りの日常。あなたはそれらで幽さまを囲って、守っているつもりでいらっしゃる」
「黙って」
「けれど、それは本当に守ることですの?」
白夜は、椅子から静かに立ち上がった。
その足元で、影が花のように広がる。
「あなたも、幽さまを自分の手の届く場所に置いておきたいだけではなくて?」
「黙れ!」
琴子の呪符が弾けた。
赤い紙片が八つに裂け、光の刃へ変わる。
刃は一直線には飛ばない。
机の脚。
椅子の背。
カーテンレール。
黒板の縁。
教室にあるすべての“角”を伝い、白夜の周囲に軌道を作る。
東雲流、八方縫い。
逃げ道を切り取り、相手の動きを縛る術。
白夜は、笑った。
笑ったまま、指先で空間を撫でる。
刃が消えた。
一つ。
二つ。
三つ。
まるで、最初から存在しなかったかのように。
けれど、四つ目の刃だけは、白夜の頬のすぐ横をかすめた。
黒髪が一房、宙を舞う。
琴子は息を呑んだ。
白夜も、少しだけ目を見開いた。
切れた髪が、床に落ちる前に黒い蝶へ変わり、崩れて消える。
「……届きましたのね」
白夜の声から、わずかに笑みが消えた。
「ええ」
琴子は、次の札を抜いた。
「届くまでやる」
「その程度で、わたくしを?」
「アンタを倒せるなんて思ってない」
琴子は白夜を睨んだ。
「でも、幽くんから引き剥がすくらいはできる」
白夜の表情が、ほんの少しだけ変わった。
怒りではない。
不快。
あるいは、所有物に手を伸ばされた時のような、冷たい反応。
「幽さまは、あなたのものではありませんわ」
「アンタのものでもない」
「あの首は、あなたじゃあ扱えませんわよ?」
「幽くんを物扱いするな!」
琴子の足元から、銀色の鎖が飛び出した。
校舎の古い床板の隙間を縫うように伸び、白夜の足首へ絡みつく。
白夜が一歩下がる。
その一歩が、わずかに遅れた。
琴子は踏み込んだ。
右手の呪符を刃に変え、白夜の胸元へ突き出す。
届く。
そう思った瞬間。
教室の景色が消えた。
「……っ!」
琴子の目の前に、真っ白な世界が広がった。
音がない。
色がない。
机も椅子も、窓も黒板もない。
ただ、白夜だけが立っている。
そして、琴子の身体が崩れ始めた。
指先から。
爪から。
皮膚から。
砂のように、白い粒になってほどけていく。
「世界を壊す、というのはね」
白夜の声が、すぐ耳元で聞こえた。
「こういうことですのよ」
琴子は喉を鳴らした。
声が出ない。
身体が重い。
だが、消え切らない。
四方封じが、まだ残っている。
学校という場所そのものが、白夜の力に抵抗している。
教室。
名前。
席順。
黒板の日付。
出席簿。
毎朝繰り返される挨拶。
くだらない校則。
退屈な授業。
そういう小さな人間の積み重ねが、白夜の“破壊”を鈍らせていた。
琴子は、崩れかけた手で、胸元の札を握った。
幽を守るために。
幽に知らせないために。
幽が普通の朝を迎えられるように。
ずっと、そう思っていた。
だが今、琴子の中にあるものは、それだけではなかった。
白夜の言葉が刺さっている。
手の届く場所に置いておきたい。
その通りだと、認めたくなかった。
幽が変なノートを書いていた時も。
夜中に3Dプリンタを動かしていた時も。
空を見上げて、星がどうのと言っていた時も。
琴子はずっと怖かった。
幽が、自分の知らない場所へ行ってしまうことが。
遠いものに見つけられてしまうことが。
そして実際に、見つけられてしまった。
白夜に。
死神に。
幽の寿命を細かすぎて測れないと言う女に。
「……返せ」
琴子の声が、ようやく出た。
掠れていた。
けれど、消えなかった。
「幽くんを、返せ」
白夜の赤い瞳が、わずかに細くなる。
「誰から、誰へ?」
「私の日常に」
「それは、幽さまの望みですの?」
琴子は答えられなかった。
答えられないことが、悔しかった。
白夜が、琴子の喉元へ指を伸ばす。
「あなた、わたくしに似ていますわ」
「違う」
「似ています」
白夜の指先が、琴子の首筋に触れる寸前で止まった。
「欲しいものを、欲しいと言えない。守るという言葉で飾って、手元に置こうとする。ふふ。本当に、よく似ていますこと」
「違うって言ってるでしょ!」
琴子の髪が揺れた。
胸元の札が裂ける。
中から、赤い糸が飛び出した。
糸は琴子の指に絡み、血を吸い、一本の細い刃へ変わる。
東雲流、縁切り。
本来は、取り憑いたものと人間の縁を断つ術。
だが今、琴子が狙ったのは、白夜そのものではない。
白夜の影から、幽へ伸びている気配。
首。
寿命。
召喚者。
獲物。
美しい座標。
白夜が幽をそう呼ぶたびに繋がっていく、見えない糸。
琴子は、それを斬ろうとした。
白夜の表情が、初めてはっきり変わった。
「それは」
赤い刃が、空間を裂く。
白夜の影が跳ねる。
教室の白い世界に、ひびが入った。
パリン、と何かが割れる音がした。
琴子の指先が元に戻る。
色が戻る。
机も椅子も、黒板も窓も戻ってくる。
白夜は一歩、後ろへ下がっていた。
胸元の黒いレースが、ほんの少しだけ裂けている。
琴子は荒く息をついた。
勝てない。
それでも、触れた。
白夜に届いた。
「……やりますわね」
白夜の声は、低かった。
「さすがは、幽さまの番犬」
「その呼び方、やめろって言った」
「では、こう呼びましょうか」
白夜の背後に、黒い影が広がる。
それは、翼にも見えた。
あるいは、底のない穴にも。
「幽さまを縛る鎖」
琴子の呼吸が止まる。
次の瞬間、白夜の影が一斉に伸びた。
琴子は札を構えた。
間に合わない。
影が、琴子の首へ、胸へ、腕へ伸びる。
白夜の赤い瞳が、冷たく光った。
その時。
ガラッ、と教室の扉が開いた。
「おーい、待たせたな。先生、別に呼んでな――」
幽の声だった。
白夜の影が、空中で止まった。
琴子の赤い糸も止まる。
教室に張られた四方封じが、中心を失って揺らいだ。
幽が、何も知らずに境界の中へ踏み込む。
白夜が広げていた破壊の位相は、最初から幽だけを外していた。
その幽本人が中心へ入ったことで、術式の均衡が崩れた。
空気が弾ける。
赤い札が燃え尽きる。
銀色の鎖が床へ落ちる。
黒い影が、白夜の足元へ吸い込まれる。
琴子は膝をつきそうになり、必死で踏みとどまった。
白夜は、何事もなかったように扇子を広げる。
「お帰りなさいませ、幽さま」
声は、いつも通りだった。
だが琴子には見えた。
扇子を持つ指が、わずかに震えている。
白夜も無傷ではない。
そう思った瞬間、琴子の中にわずかな希望が生まれた。
けれど、それはすぐに踏み潰された。
「……あれ?」
幽は教室を見回した。
彼の目には、もう何も見えていない。
ずれた机も、焼けた呪符も、床に落ちた銀鎖も、白夜の影も。
すべてが、白夜の認識で薄く隠されている。
幽に見えているのは、少し顔色の悪い琴子と、窓際で微笑む白夜だけ。
普通の放課後。
最悪だった。
けれど、焦げた紙の匂いがした。
「琴子、なんか顔色悪くないか? 教室も、なんかさっきと違うような……上手く言えないけど、『空気が悪い』ような」
「……平気」
琴子は、なんとか声を出した。
喉が痛い。
さっきまで白夜の影に掴まれかけていた場所が、まだ冷たい。
たった今、琴子の首には死神の鎌が触れていたのだ。
「先生、呼んでなかったぞ。なんか俺、普通に勘違いしてたっぽい」
白夜が、扇子で口元を隠して小さく笑った。
「まあ。人間の先生というものも、案外いい加減なのですわね」
「お前、何かした?」
「善処いたしましたわ」
「答えになってない!」
相変わらず掴みどころのない白夜に、幽は頭を抱えた。
ただ、彼女の黒髪の一房が、さっきより短い気がした。
白夜に意識が向いているからか、彼は気づかない。
琴子が、今にも白夜へ飛びかかりそうな目をしていることに。
白夜が、そんな琴子を面白そうに眺めていることに。
そして、教室がほんの数秒前まで、本当に死の箱庭になっていたことに。
「それより、白夜」
幽は照れくさそうに頭を掻いた。
「その……明日、土曜だろ」
「ええ」
「学校案内とかじゃなくてさ。ちゃんと外、案内してやるよ」
白夜が、瞬きをした。
琴子の身体が固まる。
「外、ですか」
「お前を惚れさせるって言っただろ。だから、その……デートっていうか。まあ、世界を壊す暇がなくなるくらい、面白いもの見せてやる」
幽の声は震えていた。
それでも、彼は言った。
白夜から逃げるのではなく。
白夜を琴子に殺させるのでもなく。
自分が呼んだものとして、向き合おうとしている。
琴子には、それが痛かった。
幽らしいと思った。
だからこそ、怖かった。
幽はいつもそうだ。
見えていないものに、見つけられてしまう。
そして、逃げるより先に、手を伸ばしてしまう。
「まあ」
白夜は、花が咲くように微笑んだ。
その笑顔だけを見れば、恋を知り始めた普通の少女のようだった。
「嬉しいですわ。幽さまから逢瀬に誘っていただけるなんて」
「逢瀬って言うな。急に古い」
「では、初めてのデート、ですわね」
「それも言い方が照れるからやめろ」
白夜は立ち上がり、幽の腕にそっと自分の腕を絡めた。
幽がぎょっとする。
琴子の中で、何かがまた切れそうになった。
白夜は幽に寄り添ったまま、琴子の横を通り過ぎる。
その瞬間。
白夜の唇が、琴子の耳元に近づいた。
「命拾いしましたわね、退魔師さん」
声は、氷より冷たかった。
幽には聞こえていない。
「本来なら、あなたの首をわたくしの庭に飾って差し上げるところでしたけれど」
琴子の背筋に、悪寒が走る。
「今日はやめておきますわ」
「……どうして」
琴子は、掠れた声で問うた。
白夜は、少しだけ幽の方を見た。
幽は廊下の方を向きながら、まだ明日の行き先をぶつぶつ考えている。
白夜の赤い瞳が、ほんのわずかに柔らかくなった。
「幽さまが」
そこで、白夜は一度だけ言葉を切った。
「……つまらない顔をなさりそうですもの」
「え?」
「それだけですわ」
次の瞬間、白夜はいつもの傲慢な笑みに戻った。
「幽さまの前で、幽さまが大事そうにしているものを壊すのは、少々趣味が悪うございますもの」
琴子の拳が震えた。
「幽くんは、モノじゃない」
「ええ。ですから今、少しだけ扱いに困っておりますの。……では、あなたは何として守っていますの?」
琴子は答えられなかった。
白夜は楽しそうに笑う。
「次に邪魔をしたら、本当に壊しますわ。あなたも、あなたが守っているつもりの日常も」
そう囁いて、白夜は幽の腕を引いた。
「行きましょうか、幽さま」
「お、おう。じゃあな、琴子。また月曜」
幽は振り返り、いつもの顔で手を振った。
琴子は、笑えなかった。
幽に返事をすることもできなかった。
二人が教室を出ていく。
足音が遠ざかる。
廊下の声に紛れて、完全に聞こえなくなる。
教室に一人残された琴子は、その場に膝をついた。
指先が震えている。
怖かった。
悔しかった。
届いたのに。
届かなかった。
白夜は化け物だった。
死神だった。
でも、それだけではない。
白夜は、琴子の中にあるものを見抜いた。
幽を守りたい。
幽を失いたくない。
幽を、自分の手の届く場所に置いておきたい。
その気持ちを、白夜は笑った。
同じだと。
琴子は唇を噛んだ。
「……違う」
声は震えていた。
「私は、あんなのとは違う」
そう言いながら、琴子の手は鞄の奥へ伸びていた。
そこには、小さな桐箱がある。
何重にも封がされ、赤い紐で縛られた箱。
東雲家で、絶対に開けるなと言われていたもの。
祖父に見つかれば、ただでは済まない。
それでも、琴子は箱を取り出した。
蓋に貼られた封印札には、古い字で一言だけ書かれている。
縁喰い。
人と人との縁に食いつき、近づきすぎたものを引き剥がす禁忌の札。
退魔ではない。
守護でもない。
むしろ、呪いに近いもの。
琴子は、その札に包まれた、忌まわしき箱を両手で握りしめた。
スマホが震えた。
琴子は、反射的に画面を見る。
『今日ごめん。月曜、ちゃんと話す』
幽からだった。
たったそれだけの文章で、胸が詰まった。
幽くんは、いつもそうだ。
遅い。
足りない。
何も分かっていない。
でも、こちらへ手を伸ばそうとはする。
琴子の指が、桐箱の紐から離れかけた。
その時、白夜が幽の腕に絡みついた光景が、脳裏に蘇った。
明日。
デート。
幽の寿命を削った死神と。
「……だめ」
琴子は、スマホを伏せた。
「それじゃ、間に合わない」
デート。
そんなことは、させない。
白夜が死神なら。
幽の寿命を削るものなら。
幽の首を欲しがるものなら。
そして、幽を自分の知らない場所へ連れていくものなら。
「……渡さない」
琴子の目に、涙が浮かんだ。
けれど、その奥には、涙よりも濃い感情が沈んでいた。
「絶対に、幽くんは渡さない」
西日の差す教室で、幼馴染は一人、封印の紐に指をかけた。
世界を壊す妖怪姫を許さないために。
そして何より。
自分の世界を、壊されないために。




