身内
『六花彩湯国』の第三の首都の『紫陽花』。
箕柳の精神体が過去に遡り、推定五歳の芽衣に入り込み追体験していた頃。
「超闘いたいっ!!!」
「だめです」
狼に似ている顔、大蛇に似ている胴体、鋭い爪を持つ四本の手足、雷の形に似た二本の角、愛らしく小さな二本の耳、自由意志を持つように厳かにゆったりと動き続ける二本の髭、柔らかそうな羽毛に覆われた一対の純白の翼を持ち、全身硬い鱗に覆われている純銀の竜に突如として変化した箕柳を前に、芽衣のテンションは最骨頂点を更新し続けていた。
「闘いたいっ! 闘いたいっ! 闘いたいっ!!!」
「駄々を捏ねないで下さい」
「あっ! 分かった! 沢茨の時みたいにぐにゃぐにゃ結界を創ってくれ。そしたら、俺と箕柳だけだ! 他に被害は出ないっ! その時にはさ、毒を振り撒かないように箕柳の周りに張ってる結界を解いていいからさ!」
「芽衣さんは確かに今まで毒など平気でしたが、箕柳さんの毒はこれまでの毒とは桁違いなんです」
ピリピリヒリヒリと。
猛毒を撒き散らさないように箕柳の周囲に張っていた結界を通して、痺れと痛みが伝わって来た聖月。結界を通してでもなお、表情に変化をもたらしてしまうほどだ。これを結界なしで直に受けるなど、正気の沙汰ではない。
(いえ。芽衣さんを正気などと思った事は一度もありませんが。闘いたい闘いたい闘いたいと、最早戦闘中毒者です。異常者です。何が芽衣さんをここまで駆り立てるのでしょうか? まあ。理由なんてないのでしょうけれど。ただ闘いたいだけだとあっけらかんと答えるだけなのでしょうけれど。そうして、いつも、止められずに。いえ。止めるのも面倒なので放置していましたけれど今は)
「奏斗さんを殺した猛毒なのですよ。闘うのはだめです。芽衣さん。考えて言葉を発して下さい」
「奏斗を殺したからこそ。だろ。勇者の。毒に侵されないはずの勇者の奏斗ですら侵した。それどころか、殺しすらした。なら。なおさら、闘いたい」
「………芽衣さん。本気ですか?」
「ああ」
「そうですか………あなたはよほど。わたくしに無駄な力を使わせたいようですね」
「俺を結界で身動き取れなくさせるつもりか?」
「ええ。まったく。身内で何をしているんだと呆れ返るしかないのですけれど」
聖月は具現化させては飛ばした結界生成の札で芽衣を囲い、刹那にして生成した形の定まらない結界で以て芽衣を閉じ込めた。
「いくら暴れても無駄ですよ。解けません。解けさせません」
強い口調で言う聖月を前に、芽衣は不敵な笑みを浮かべたのであった。
(2025.1.29)




