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勇者から秘湯屋に転職します  作者: 藤泉都理
参 第一の首都の藤篇
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愛の結晶




 あなたは私たちの愛の結晶よ。

 あなたは俺たちの愛の結晶だ。


 取り立てて何か特出した外見でもなければ、能力があるわけでもない。

 平々凡々な両親だったと思う。

 仲睦まじい両親だったと思う。

 平和友好的な家族だったと思う。


 両親から卓越した人間になる為に努力しろと強要されたわけでもなければ、肉体的にも精神的にも暴力を振るわれたわけでもない。


 ただ、呼吸をするように、言うのだ。


 あなたは私たちの愛の結晶よ。

 あなたは俺たちの愛の結晶だ。


 呼吸するように言われるたびに。

 悪寒が駆け走る。

 呼吸するように言う両親が悍ましくて悍ましくて仕方なかった。


 この言葉のどこに甚だしい嫌悪感を抱いてしまうのか。

 未だに答えが出せていないけれど。


 素晴らしい両親でよかったわね。

 おまえは両親に感謝すべきだ。

 生涯を懸けて両親に尽くすべきだ。


 あなたは私たちの愛の結晶よ。

 あなたは俺たちの愛の結晶だ。


 両親に呼吸するように言われるたびに。

 両親と自分に接する人間が両親を褒め称えるたびに。

 突きつけられる。

 この言葉に甚だしい嫌悪感を抱いてしまう自分が、この世界ではおかしいのだという事。

 この世界に適合していないという事。

 嫌悪感が常時付き纏う世界で生きていかなければいけないという事。


 今すぐにでも飛び出したい気持ちを抑えて、自分が生きていける場所を探し出す事に尽力した結果、癒院を発見。


 私たちの何がいけなかったの治すから戻って来て。

 俺たちの何が行けなかったんだ治すから戻って来てくれ。


 さめざめと泣き続ける両親に背を向けて走り出す。

 両親から離れる事に対して、悲哀は誕生しなかった。

 一切合切。

 両親から離れられる事に対して、とても晴れやかな気持ちしか抱かなかった。抱けなかった。そんな自分に嫌気は一切合切抱かなかった。











(2025.1.18)




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