へたれっぴ
『六花彩湯国』のどこか。
踵につくくらいにウェーブがかかった深い水色の長髪、髪の毛と同じ瞳の色、透き通るような白い肌、掌に乗る大きさのエルフは、目を凝らさなければ見えないほどに透き通る水仙の葉の形をした羽で以て、奏斗の目と鼻の先まで飛翔すると、わらわの名は理瑚だと声高々に言った。
「さっさと水仙の葉に捕まってあのゴーレムに吸収されちゃいなさいよね!?」
「いやいやいやいや嫌だよ。僕にはまだやるべき事がわんさかあるんだからね!?」
「っふん! どうせくだらない事でしょ! だったらわらわが有意義にあんたの命を使ってあげるから感謝しなさいよね!」
「いやいやいやいや勝手に決めないで!? しかも何!? 僕の命を使う!? せめて剣力を吸収するだけに留めてよ!? いや何もあげないけどねせめてね!?」
「あ~~~。うるさい~~~」
理瑚はエルフ特有の尖った耳をさらに尖らせては、奏斗の鼻を蹴り上げようとした。
奏斗は少しだけ後ろに引いては、理瑚の蹴りを避けた。
「避けんじゃないわよ臆病者!」
「避けるよ痛いし!」
「っふん。そんなんだから、へたれっぴの勇者ってバカにされるのよ。わらわに。やーい。へたれっぴ~。へたれっぴらしくさっさと水仙の葉に捕まって、僕の人生はここまでかって呟いて人生を終えなさいよ」
「………確かに。僕は。ぐぅう。へたれっぴだけどね。ううう。だからってね。僕の命をおまえにあげるもんか!」
「涙目で言われたって全然怖くないもんね~」
「ぐぅううううう」
奏斗は激しく落ち込んだ。それはもう、水仙の葉の攻撃と七愛への注視がなければ地面に蹲りたいほどである。
(ううううう。何で、見ず知らずのエルフにここまでけちょんけちょんに言われないといけないんだ。今精神的ダメージを負っている場合じゃないんだよもう!)
「………へえ。とりあえず、勇者の意地はあるみたいね。意地だけは。才能は皆無だけど。ぷぷぷ」
襲いかかる無数の水仙の葉の攻撃を躱しては細かく斬り刻みつつ、七愛への注視も怠らない奏斗を少し離れて見つめた理瑚は、けれど、バカにする笑みを送ったのであった。
「ぐぅううううう」
(2025.1.15)




